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「ハイパーカミオカンデ」の全貌。宇宙の神秘へさらに近づく

3代目のニュートリノ観測装置、国際研究グループが2025年度から観測
 ノーベル物理学賞に決まった梶田隆章さん(56)が所長を務める東京大学宇宙線研究所や高エネルギー加速器研究機構などの国際研究グループは、岐阜県飛騨市の神岡鉱山地下で3代目となるニュートリノ観測装置「ハイパーカミオカンデ」の建設を計画している。予算の確保や建設が順調に進めば、2025年度から観測を始める見通しだ。

究極の理論に


 東大の小柴昌俊特別栄誉教授(89)が中心となって建設し、1983年に観測を始めた初代「カミオカンデ」は、原子核を構成する陽子の崩壊を観測するのが目的だった。素粒子のクォーク3個から成る陽子が別の素粒子に崩壊する現象を観測できれば、宇宙の法則を現在の標準理論よりよく説明する「大統一理論」を検証できる。

 陽子崩壊はいまだに観測されていないが、巨星が寿命を迎えて超新星爆発を起こした際に発生したニュートリノが87年にカミオカンデで初めて観測され、小柴さんは02年のノーベル物理学賞を受賞した。

 2代目のスーパーカミオカンデは、宇宙線が地球の大気に衝突して発生するニュートリノを観測。戸塚洋二特別栄誉教授(08年死去)や梶田さんらが98年、ニュートリノに質量(重さ)があることを発見し、標準理論の一部を覆した。

 ハイパーカミオカンデ計画の中心メンバー、塩沢真人教授(47)は「やってみなければ分からないが、陽子崩壊を観測できれば究極の理論に大きく近づく。宇宙の見方が変わる」と話す。

 【消えた反物質】
 もうひとつの大きな目的は、宇宙が約138億年前に誕生した際には物質と同じだけあった「反物質」が消えた謎を解き明かす現象を観測することだ。反物質は物質を鏡に映したように電荷(C)と空間(P)が反転しており、この「CP対称性が破れている」ために反物質が消滅したと考えられている。

 陽子などを構成するクォークについては、高エネ研の小林誠特別栄誉教授(71)と名古屋大学の益川敏英特別教授(75)が73年に「CP対称性の破れ」の理論を発表。高エネ研の加速器実験などで検証され、08年のノーベル物理学賞を受賞した。

 しかし「反物質が消えた理由を説明するには、クォークのCP対称性の破れだけでは全然足りない。クォークとは違うレプトンの仲間であるニュートリノでCP対称性の破れを観測する必要がある」(塩沢教授)という。

 【センサー2倍】
 ハイパーカミオカンデはタンク容量をスーパーカミオカンデの20倍とし、純水100万トンを使用。ニュートリノが水の陽子や電子に衝突して発生する微弱な光を10万本近いセンサーで捉える。

 100万トンは東京ドーム1杯分に近く世界最大の地下水槽となるが、一つの巨大なタンクにすると底面のセンサーに大きな水圧がかかる。このため直径約48メートル、長さ約250メートルの細長い円筒形タンクを2本、地下に横たえるように建設する。センサーはスーパーカミオカンデより感度を引き上げる技術開発に取り組んでおり、ほぼ2倍の性能を達成した。

 塩沢教授は「3年前の計画では建設費を800億円と見込んでいたが、技術開発の成果を反映させ、参加各国で分担できる予算を検討して最終的な計画を固めたい」と話している。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
梶田効果でぜひ予算確保などが前進してほしい。

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