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“クラウドの波”デルもEMCも飲み込む。変革に向き合うIT業界

IBMはアマゾンと同じ土俵に。オラクル、シスコは当面現状路線か
“クラウドの波”デルもEMCも飲み込む。変革に向き合うIT業界

8兆円という過去最大の買収額で巨大IT企業が誕生する

 IT業界に激震が走った。米デル(テキサス州)は米EMC(マサチューセッツ州)を約670億ドル(約8兆円)で買収することで基本合意した。パソコン市場で一世を風靡(ふうび)したデルと、外部記憶装置(ストレージ)最大手のEMC。両社とも経営変革を急ぐなかで、買収という“荒療治”に打って出たのはデルだった。EMCが買収に応じた理由も興味深いが、背景にはクラウド化の大波があるのは言うまでもない。IT業界の勢力地図が塗り変わる大型買収となる

 今回の買収はIT業界で過去最大。米IBMや米ヒューレット・パッカード(HP)に匹敵する巨大IT企業が誕生する。もとより今回は敵対的買収ではなく、両社ともに活路を見いだしての英断だ。デルとEMCはストレージ分野では競合関係にあるが、それ以外の領域では大きくはぶつからず、組みやすい相手ではあった。

 デルが買収を決断した理由は分かりやすい。主戦場のパソコン市場は価格競争が厳しく利幅が薄い。このためサーバーやストレージを強化し、エンタープライズ(企業や官公庁向け)市場で新たな成長を求めてきた。


 2013年にはデル創業者で会長兼最高経営責任者(CEO)のマイケル・デル氏が先導して経営者による企業買収(MBO)を断行。上場を廃止して「プライベートカンパニー」となり変革を急いできたが、市場変化のスピードには追いつけていない。業界内では「EMCの買収は賢明な選択だった」との見方が多い。

 一方、EMCは経営面で窮地に陥っていたわけではない。むしろ“健康体”といってよく、傘下には米ヴイエムウェアや米ピボタルなどの有力企業を抱えている。また、ここ数年はストレージ一辺倒からの脱却を図る中で、ソフトウエア企業としての地位を確立しており、現状のままでも成長は可能だ。つまり8兆円の買収提案は、自社で描く成長シナリオを上回るものだったといえそうだ。

 もちろん相乗効果も大きい。EMCの強みであるストレージは、かつて専用機が主流だった。だが、仮想化の進展により、いまやハードウエアはパソコンサーバーでもよい時代となっている。デルと連合を組むことで、新たな展開が見込める。

 米IT業界ではM&A(合併・買収)は日常茶飯事。とはいえ、8兆円の大型買収は前代未聞だ。逆にいえばクラウド化の波が既存のIT市場に及ぼす破壊的な影響力の大きさを物語っている。

既存勢力に逆風、どうする日本勢


 クラウド市場では米グーグルや米アマゾンなどの新興勢力が台頭して、デルやEMCなどの既存プレーヤーを脅かしている。これに対して、IBMは大手クラウド事業者を買収するなどで、アマゾンなどと同じ土俵で戦う体制を整えた。HPは分社して、パソコンとプリンターの製造・販売会社と、エンタープライズ向けソリューション会社の二頭体制となって荒波に立ち向かう。

 米オラクルや米シスコシステムズは当面、現行路線で進む見通し。こうした中で、日本勢はどうするのかといった声もある。今回の買収の成否は変革に向き合うIT市場にとっての試金石となりそうだ。
(文=斎藤実)
日刊工業新聞2015年10月14日 情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
MBOしたデルの出口戦略という視点でいえば比較的良いストーリーではないか。でもほんとに日本勢はどうするのか。ストレージで利益を稼いでいる日立の中西CEOもきりきりしているだろう。課題としている情報通信部門のグローバル展開では、前々から巨大ITとガチンコ勝負をする気はないようなアナウンスもしているが、インフラ系ITだけではキャッシュカウにならない。

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