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シカと列車の衝突防ぎます!日鉄住金建材が生態を研究し尽くした防護柵とは

シカの好きな鉄分で生息地内にとどめる。柵はあえて低くすることで逃げやすく
シカと列車の衝突防ぎます!日鉄住金建材が生態を研究し尽くした防護柵とは

防護柵の「ユカエル」

 日鉄住金建材(東京都江東区)が野生のシカの生態研究から、列車との衝突を防ぐユニークな商品「ユクリッド」を開発し、発売した。あえてシカが飛び越えられるよう低くした防護柵「ユカエル」と、鉄分でシカをおびき寄せる固形塩「ユクル」を組み合わせたもの。年間約5000件発生するという衝突事故を大幅に削減できると自信をみせている。

 【線路で鉄分摂取】
 「シカが鉄分を摂取するため、線路に侵入しているという研究報告は世界中どこにもなかった」。広岡成則常務はこう言って商品化までの苦労を振り返る。シカはほかの野生生物に比べて鉄分が多い。レールと車輪の摩擦で発生する鉄粉を目当てに、防護柵に開いた穴を抜けたり、柵のない場所から回り込んだりして線路内に侵入していた。

 シカの生態を研究した商品開発センターの梶村典彦開発企画グループ長も「餌もないのに、なぜ線路に入ってくるのか不思議だった」と語る。北海道から京都まで大学や研究所に足を運び、専門家の意見を聞いて回ったが、「それぞれの専門の知見は分かっても、核心の理由は究明できなかった」(梶村グループ長)という。鉄分を摂取しに来る生態が「他の動物にはなく、シカだけ」(同)だったことも解決を難しくした。

 そうした中、シカがレールに沿って同じ場所を行ったり来たりしていることに着目。実際に鉄粉をまいて確認するなどして、開発着手から約1年後、ついに世界で初めてその生態を突き止めた。

 これを基に、塩に鉄分とシカが好むミネラル分を多めに混ぜたユクルを開発。岐阜県と北海道で実地試験を行ったところ、効果はてきめん。シカの生息地内に一定数を置くことでシカの鉄分を満たし、まずは線路まで来させないようにする。

 【侵入しにくく】
 一方、防護柵の開発では「シカは下を向いて歩き、むやみやたらに飛び跳ねない。柵は低くても中に入ってこない」(同)という発見が生きた。危険を感じれば、柵も跳び越えて逃げるため、柵を既存品の約半分の約1メートルまで低くした。従来の高さでは侵入したシカが逃げられず、列車事故につながっていたためだ。

 さらに、柵を鉄道の盛り土の斜面に設置。柵の角度も平面に対し垂直にではなく、斜面に対して垂直にした。こうすることで線路のある盛り土の上からは飛び越えやすくなり、逆に下からは侵入しにくくなる。

 【鉄道事故ゼロ】
 2013年から14年にかけ、岐阜県内で実証実験を行ったところ、侵入件数はその前の同じ月の半年間で171件が4件に激減。1年で3件あった鉄道事故はゼロになった。こうした成果を受け、本格的に営業を開始。「世界初の商品なのでどれくらい売れるか分からないが、行政も巻き込み、まずは認知度を上げていきたい」(広岡常務)と意気込んでいる。
日刊工業新聞2015年10月12日 素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
鉄の機能性に注目したユニークな商品。鉄粉を種子の周りにコーティングして作付をしやすくする商品などもあるが、シカの餌にもなるんだと驚きました。

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