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ゲノム編集による農作物「5~10年後には食卓に」、米デュポンが本格参入

基本技術持つUCバークレー発のベンチャーと戦略提携
ゲノム編集による農作物「5~10年後には食卓に」、米デュポンが本格参入

(Ernesto del Aguila III, NHGRI)

 化学大手の米デュポンが、ゲノム(全遺伝情報)編集技術による農作物の栽培研究に本格的に乗り出す。最先端のゲノム編集技術「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)」を利用するもので、この手法を生み出したカリフォルニア大学(UC)バークレー校の研究室発のベンチャーと戦略提携契約を結んだ。これについてデュポン幹部は、MITテクノロジーレビューに対し、「5年から10年以内に(作物の種子の)製品出荷を見込んでいる」と話しており、さまざまな特性を持たせた新しいバイオテック作物が近いうちに登場する見通しだ。

 一方で、ゲノム編集とともに、それを応用し、過酷な環境で育ったり、収量や特定の栄養価を高めたり、アレルギー原因物質を除去したり、といった食料技術が少数の企業に独占される恐れもある。

 デュポンが提携したのは、UCバークレーのジェニファー・ダウドナ教授の研究室からスピンアウトした米カリブー・バイオサイエンシズ(Caribou Biosciences)。ダウドナ教授らは2012年にCRISPR/Cas9のゲノム編集手法を初めて論文報告し、世界的に注目されている。

 その提携内容は、両社が持つゲノム編集関連の知的財産のクロスライセンスと、向こう数年間の研究協力、カリブーに対するデュポンの少数持分出資の3つ。研究協力の費用はデュポンが負担するが、研究費と出資額はともに明らかにしていない。

 さらに、デュポンは、リトアニアのヴィリニュス大学が持つCas9酵素が仲介するゲノム編集の知的財産権について、同大学から独占使用権を得ており、それをカリブーに2次ライセンスする。研究協力により、それぞれが必要とするゲノム編集の基盤技術を発展させる。

 共同研究の成果について、カリブーはヒトや動物の治療、診断、産業用バイオテクノロジー、研究ツール、特定の農業分野での製品開発および利用の権利を持ち、デュポンは、UCバークレーが申請しているCRISPR/Cas9関連の特許が認められれば、それを応用したトウモロコシや大豆などの作物について独占使用権を持つことになる。

 MITテクノロジーレビューによれば、デュポンはすでにCRISPR/Cas9でゲノムを編集し、干ばつに強いトウモロコシや、収量を増やした小麦についてビニールハウス栽培を始めており、来春には屋外での試験栽培に入るという。

 CRISPR/Cas9は、ZFN、TALENに続く第3世代のゲノム編集ツールで、ゲノム中で切断したい領域を切断できる。切断されたDNAが修復・組み換えられることを利用し、遺伝子の機能をオフにしたり(ノックアウト)、新たな機能を追加したり(ノックイン)といった操作が、さまざまな生物を対象にこれまでに比べ容易にできるという。

 ただ、植物の場合は、同じゲノムを複数コピー持つ倍数体が多いため、ゲノム編集が難しかった。CRISPR/Cas9は標的遺伝子の変更や、複数遺伝子を同時にターゲットにできる特徴があり、植物のゲノム編集にも向くという。通常の品種改良が何年もかかるのに対して、短い期間で効率的に行え、しかも従来の遺伝子組み換え作物のようにバクテリアなど別の種の遺伝子を組み込むこともない。そのため、米農務省もゲノム編集の農作物については規制対象から外すとみられている。

※ゲノム編集技術を難病治療に、米VBがビル・ゲイツ氏らから1億2000万ドル調達
http://newswitch.jp/p/1726

※話題の「ゲノム編集」、トムソン・ロイターが選ぶノーベル賞有力候補に
http://newswitch.jp/p/2162
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
日本の大学や研究機関でも、ゲノム編集を使って魚や農作物の品種改良に取り組むところが増えている。しかし、基盤技術はCRISPR/Cas9の開発元が押さえているため、製品化する場合には当然、ライセンス料を払わなければならない。日本でも遺伝子組み換え作物の危険性が叫ばれたりしたが、食料技術を少数の大企業が独占することの方がよっぽど怖い。

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