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アザラシ型ロボットが売れ続ける理由

文=三治信一朗(NTTデータ経営研究所)カギはコンセプトの設定と、それを継続する体制にあり
アザラシ型ロボットが売れ続ける理由

パロは海外でのセラピーなどに活用される

 産業用ロボットは、日本が世界をリードしているといってよいが、サービス用ロボットで成功しているものはほとんどなかった。最近では、ソフトバンクの「ペッパー」が注目を浴びるが、10年近くも売れ続けているロボットがあることをご存じだろうか。

 それは、産業技術総合研究所などが研究開発を行い、現在知能システムに知的財産がライセンスされて生産されている「パロ」である。パロはどうして、売れ続け、愛され続けているのだろうか。

 パロの開発の歴史をひもといていくと、サービスロボットの成功のカギが見えてくる。2004年に第8世代のパロが世に出されているが、その歴史を見ると、さらに10年ほど前の産総研でのコンセプト段階からの研究を経て、科学技術振興機構(JST)さきがけ、SORSTといった国の研究開発事業の支援を受け、長く一つのロボットの実用化研究が継続された。一つのコンセプトロボットがさまざまな利用シーンを通じたデータを蓄積し、より利用しがいのあるロボットへと進化を遂げたのである。

 また、医療用途での利用も早くから着想されており、筑波大学での医療向けロボットとして、倫理審査委員会を通すことなど、先鋭的な取り組みも行われた。このような活動から、セラピーロボットとしての認知が世界的に高まり、海外では実証実験・共同研究が数多く行われている。

 【ユーザー側が高めあい欧米で高い評価】

 米国では、退役軍人省、ワシントンDCメディカル・センターなど、さまざまな医療福祉施設にテスト導入され、高い評価が得られている。欧州においても、介護施設向けにその利用がテストされてから、有用性を認められ、導入に至っているものが多い。つまり、利用され、その使い方までがユーザー側でも高めあい、利用がさらに進むという好循環である。ロボット利用が進むためには、どのような効果があるかを定量的に示されることが必要だ。

 米国では、医療分野や介護分野で、米国食品医薬品局(FDA)により医療機器の承認を得ていないものが、「セラピー」「認知症に効果がある、期待できる」「認知症の予防になる、期待できる」という言葉を使って、販売することは禁止されている。認知症に良い、というような、ブレイン・ゲームなどが販売差し止めになったりもする。このような傾向は、グローバルでみられるはずだ。

 一つのコンセプトに基づいたロボットが定着するためには、多くの時間とデータが必要となることを教訓としたい。イノベーションに真摯(しんし)に取り組む必要を感じさせ、継続する意思が何より重要である。
 
三治信一朗(さんじ・しんいちろう)NTTデータ経営研究所 事業戦略コンサルティングユニット 産業戦略チームリーダー シニアマネージャー。2003年(平15)早大院理工学研究科物理学及応用物理学専攻修了、同年三菱総合研究所入社。15年NTTデータ経営研究所に入社し産業戦略チームリーダー。

 

日刊工業新聞2015年10月09日 ロボット面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
パロも初めは懐疑的な意見や否定的な見方があったが、地道な研究の継続で気づけば想像もしていなかったくらい普及していた。ただ医療用途での実用化に際しては、日本では認可スピードが遅く実証試験をする場が少ないということで、まず海外で実験をし、認可を取得していたように思う。10年前と比べ今は状況が好転しているだろうが、医療ロボットは日本での実用化スピードを高めることも引き続きの課題だ。

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