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温暖化交渉は「武器なき経済戦争」なのか

COP21に向けた国際環境経済研究所の緊急提言について考える
温暖化交渉は「武器なき経済戦争」なのか

高効率火力発電(福島県いわき市)

 国際環境経済研究所がCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)に向けた緊急提言をまとめた。11月末に始まるCOP21で合意される温室効果ガス排出削減の国際枠組みへの参加は慎重に判断し、日本は「マイナス26%」にこだわるなという提言だった。

 緊急提言は「COP21 国際交渉・国内対策はどうあるべきか」
http://ieei.or.jp/2015/10/sawa-akihiro-blog15100802/#more-23980

 提言の1-5はCOP21での日本の交渉戦略についての注意喚起。温暖化の国際交渉を「武器なき経済戦争」と例え、権謀術策が渦巻く交渉を乗り越える術を指南する。
 
 米国は京都議定書に調印しながらも批准しなかった前例がある。だから今回、日本は米国の批准を待ってから新枠組みへの参加を正式に決めるべき。そして主要国が参加しなくても、新枠組みがないよりもマシという判断での参加はするなと訴えた。さらに、各国とも自国の目標を高い数値のようにみせているだけ、目標を達成したいのであれば低い目標を出せと提案。

 提言6-8は国内対策について。30年に13年比26%削減する日本の温室効果ガス削減目標は柔軟に見直せと提言。数値の金科玉条化は避けよと強調した。

 研究員は時に過激な言葉を使いながら説明していた。振り返ると「他国と交渉しても仕方ない」「まじめにやると墓穴を掘る」ということなのか。短い時間での説明だったせいか、どうも温暖化・異常気象へ危機感も伝わってこない。これだけ自然災害が起きているのに。

目新しさなく、産業界にも響かない内容


 「緊急」と銘打ったわりに目新しい提言でもなかった。当たり前といえば当たり前のこと。鳩山首相(当時)がマイナス25%を打ち出した09年当時から、交渉での注意点として指摘してきた内容ばかりだ。

 それに産業界にも共感を得られそうにない提言だった。どうも響いてこない。企業は温暖化問題の解決に貢献しようと、新しい技術を次々に開発している。超電導パワー半導体、太陽電池、燃料電池車、高効率火力など。ほとんどの技術は初めから黒字を見込めない。炭素繊維にしても、水素ステーションにしても将来の貢献と利益を考えて開発している。

 今回の提言の3に「日本の強みである低炭素技術の世界レベルの普及、人類未踏の革新的技術開発を実現することで温暖化問題の抜本的解決に貢献せよ」と書かれている。提言の8も研究開発に触れている。

 どうすれば企業の努力の賜である革新的技術を早期に実用化できるのか、普及策は。そのあたりの提言であれば産業界から支持が受け入れられるのでは。ずっと日本が国際交渉で訴えていたことでもある。せっかく提言に書いたのだから、丁寧に説明してほしかった。
(文=松木喬)
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松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
緊急提言に反対という訳ではありません。強弱があるにしろ、賛同できる個別提言もあります。交渉官には心がけてほしいアドバイスです。前から指摘されていたことを繰り返し注意することも悪いことではありません。しかし提言に「拒絶感」がありました。会場の記者からも「異常気象への危機感がない」と発言が出ていました。これは発表者のプレゼンのやり方がまずいのか、もしくは聴衆が記者ばかりだったから共感されなかったのか。

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