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建築家・隈研吾と表面処理のスペシャリストが創る「ステンレス」の未来

「木や石とよいマッチングができそう」

アサヒメッキ(鳥取市、木下淳之社長)はステンレスの表面を防錆し、約20種類の色が出せる発色処理技術「ORORU処理」事業を始める。このほど新工場も本格稼働する。高い耐食性と鮮やかな発色技術に世界が注目するなか、建築家、隈研吾氏の目にもとまった。木下社長が同氏のファンであることから、今回、モノづくり企業と建築家による異色の対談が実現。同社の製品・技術を通じ、建築家が求める素材は何か、両者の連携の可能性は、などを語ってもらった。

 

木下 先生のファンでいつか仕事を一緒にしたいと考えていました。「ORORU処理」技術に興味を持たれ、こういった機会に恵まれ大変光栄です。この技術は、ステンレスの表面を覆って腐食を防ぐ被膜の厚さを精密制御し、光の干渉作用により20色もの色を見せる技術です。従来のステンレスを塗装した製品に比べ、錆びや衝撃に強く、表面の光沢の有無や、指紋が付かない製品など、建築は当然、食用にも安全に使える自信作です。

  

 今までステンレス製品には「冷たい」イメージがありました。何十年間もステンレスを使ってきましたが、色でこんなに温かいイメージに変わるとは。今、人々は20世紀末から今回の新型コロナ禍も含め、多くの災害に不安を感じています。それを少しでも和らげたいと、建築に温かさや優しさが求められています。私が素材に求めるものは、人への親しみやすさ。この製品は最先端の工業製品なのに、伝統工芸品のような親しみや温かさが感じられ、自然の木や石とマッチングしそうです。まさに今の時代に必要とされるものです。なぜ、開発を目指されたのですか。

木下 きっかけは、病院や介護施設の方々の「ステンレスは無機質で冷たい」との声でした。温かい色に変え、よりサビや傷に強くできないかと2013年から取り組みました。元々メッキ業界は、加工会社からの仕事が多く下請け体質があり、これを機にその意識も変えたいとも考えました。色調の均一化などに苦労しましたが、16年に耐食性は2倍、20種類の発色に成功し、大型化や複雑形状への対応しながら、今春、量産化のめどもつきました。オンリーワン技術ですので、従来の「メッキ」ではなく「表面処理」の分野で世界を目指しています。

 建築においても「下請け」という言葉はそれだけで低く見られがちですが、日本では、末端の部分を担当している中小企業の製品・技術が1番高いと思っています。経営者はもっと自信を持っていい。世界にいけばいくほど日本の技術の高さを感じます。それなのに、国内の人は理解しておらず、ここ十数年間、品質より値段を重視したため、他国に仕事が流れ、日本の最もすばらしい製品・技術がなくなる危機にあります。この責任はバイヤーや建築家にもあると思います。

木下 経営者にも問題はあります。わが社は「挑戦なくして成長なし」を掲げ、技術の高度化やそれを担う社員の育成などを通じ、社内を改革中です。社員の作業時間を週11時間減らす働き方改革は進みましたが、まだ半ばです。先ほどの先生のお話のように、この技術、海外の評価が高いのです。そこで色にちなみオーロラの仏語の販売会社「ORORU(オロル)」を作り「ORORU処理」として「色」という情緒的価値でブランド化し、新しい価値を世界に訴える提案型企業を目指しているところです。先生のような建築家が日頃から、このような製品や技術に触れる機会はあるのですか。

 

 建築家ならよい製品や技術があれば、使いたいと考えます。よいものがなければよいデザインも生まれません。ただ、施主の趣向や受注の仕組みなどから、今はそういった機会は少ないですね。ぜひ、モノづくりの経営者と建築家との交流の機会を設けたいですね。建築家やデザイナーもその製品や技術の良さが分かれば、新しい発想やデザインが数多く生まれるし、作り手とのコラボレーションも面白いでしょう。

 

木下 そういう機会を今後、ぜひ作っていただきたいですね。ところで、先生はわが社のこの製品・技術をどんなところで使ってみたいとお考えですか。

 

 この製品は、私のステンレスのイメージを一変させました。私の建築の素材の一つとしていろんなところに使いたいですね。木や石とよいマッチングができそうです。

 

木下 ありがとうございます。お話しして今後の経営のあり方や製品展開などの目標がより明確になりました。今後、この製品・技術でステンレスのイメージを「温かい」に日本から変え、世界のイメージも変えていけるよう頑張ります。

【ORORU処理用の新工場に際して、鳥取県の平井伸治知事はメッセージでアサヒメッキを応援している】
平井伸治鳥取県知事

平井伸治鳥取県知事による応援メッセージ

新工場本格稼働を心よりお祝い申し上げます。1948年(昭23)創業の旭輪業を原点とし、58年に旭鍍金としてスタートされ、社員の皆さまが一丸となり、「アサヒメッキスピリッツ」でメッキの技術を極めてこられました。そして新たに、ステンレス鋼を発色させる独自の表面処理技術を開発し、新サービス「ORORU(オロル)」を展開し、このたびの新工場稼働の実を結ばれました。 これにより、ステンレス鋼発色処理の一大拠点として、本県産業の発展にも大きく寄与されますよう、お祈り申し上げます。

新型コロナウイルス禍が日常生活だけでなくものづくりの現場にも大きな影響を与えていますが、貴社の確かな技術と常に挑み続ける情熱は、これまでも、そしてこれからも道を開き続けるものと確信しています。貴社のますますの社業御隆盛と、新工場から生まれるオンリーワン技術により、新たな飛躍を遂げられますことを、心よりお祈り申し上げます。

「ORORU処理」技術の仕組みとその効果

ステンレス発色処理は、ステンレスの表面を覆って腐食を防止している酸化被膜を化学的に厚く成長させることで、光の反射度合いを変え、色がついたように見せる技術。以前からの技術だが、酸化被膜の厚さを10億分の1メートル(ナノメートル)単位で精密制御するのが難しい上、材料ロットなど量によって色合いにバラつきが出るため、実用化は進まなかった。

同社は酸化被膜の厚さを精密に制御することで、発色度合いを均質化することに成功。標準色だけでも約20種類をそろえ光沢の有る無し、半光沢と、光り方も3通り実現し、化学発色被膜の品質や試験法でJIS規格の規格化に尽力した。用途は建材や精密機器の筐体、自動車部品、日用品など幅広く、現在、同社は、燃料電池に使われる水素貯蔵用の圧力容器や、船舶のバラストタンク用浄化槽への応用といった研究などを通じ、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいる。

【略歴】
◎隈研吾氏  (くま・けんご)1979年(昭54)東大大学院建築学科修了。90年隈研吾建築都市設計事務所設立、90年東大教授、20年東大特別教授・名誉教授、神奈川県出身。65歳(※8月4日現在)


◎木下淳之アサヒメッキ社長 オロル社長 (きのした・あつし) 1993年(平5)湘南工科大情報工学卒、同年衆議院議員秘書。11年アサヒメッキ入社、12年専務、18年オロル社長、20年社長。鳥取県出身、52歳。(※8月4日現在)


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