海洋酸性化で緑藻類の運動低下、光合成の妨げに。ヒトにも影響あるかも?
筑波大学と中国水産科学研究院などの国際研究グループは、二酸化炭素(CO2)排出増による海洋酸性化が単細胞緑藻類の運動を低下させることを示した。運動するためのべん毛を形成する遺伝子の発現が低下し、光合成などが十分にできなくなることが分かった。海洋生態のエネルギー産生や食物網などに与える影響を知るための重要な知見となる。
現在の海水の水素イオン濃度(pH)は約8・1だが、2100年には7・8まで酸性化すると予測される。これにより海洋生態系や生物多様性が変化するとされるが、細胞レベルでどのような変化が起こるかはよく分かっていなかった。
研究グループは、異なるCO2濃度の海水中で3種の単細胞緑藻類を5年間培養し、運動性や光に対する反応を調べた。
すると、CO2増加による海水の酸性化で運動性が下がり、脱べん毛やべん毛再生の低下が見られた。これにより光応答などが正常に行えなくなった。
ゲノム配列情報を用いて遺伝子発現の変化を調べると、べん毛形成や運動調節に関わる遺伝子の発現が著しく低下していた。一方、べん毛を脱離させる遺伝子は増加した。
緑藻類のべん毛はヒトの精子べん毛、脳や気管に生える繊毛と似た構造を持つ。海洋酸性化が、ヒトを含む多くの生物の繊毛運動低下につながる可能性も考えられる。
日刊工業新聞2020年7月9日