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【TPPインパクト】自動車業界はチャンスを生かせるか

サプライチェーンの自由度が増す
 「ビジネス環境の整備が一層進むと期待される」(日本自動車工業会の池史彦会長)、「グローバル競争が激しくなる中で、日本車は貿易協定でハンディキャップがあったが大きく前進した」(日産自動車の川口均専務執行役員)。TPPの大筋合意を受け日本の車業界は歓迎ムードだ。
 
 「車業界にとってTPPの重要な点は、これまで協定がなかった米国と自由貿易協定を結べることだ」と指摘するのはデロイトトーマツコンサルティングの羽生田慶介執行役員。日本車メーカーの最大の稼ぎ頭である米国との間で新たな経済連携の枠組みができる意義は大きい。
 
 というのも、完成車の関税は当面維持されることになったが、自動車部品で変化があるからだ。米国が日本に課す2・5%の関税が、自動車部品の8割以上の品目で即時撤廃される。米国への自動車部品の輸出額は約2兆円。単純計算で約400億円の関税コストが浮くことになる。日本車メーカーが現地で生産する車両のコスト減につながり、国産部品の対米輸出の競争力も増す。

「原産地規則」が競争力に


 国産部品の競争力に寄与しそうなのがもう一つある。TPP域内で生産された部品をどの程度の割合で使えば関税減免の適用対象とするかを定める「原産地規則」だ。日本車メーカーはタイや中国などTPP域外からの部品調達が多く、自国産業への影響を懸念するメキシコと対立、TPP交渉の焦点の一つになっていた。池会長が「現行のグローバルなサプライチェーンで十分対応できる」と評価する55%という水準で決着した。
 
 この原産地規則には「累積ルール」が導入される。TPP域内で割合を足し合わせて原産地規則を算定する考え方だ。これまで米国に輸出するためのメキシコ生産の車両は北米自由貿易協定(NAFTA)で定めた別の原産地規則に応じて、部品の調達を現地化する必要があった。今回の累積ルールは、日本もメキシコと同じTPP域内であって現地調達の扱いになる。「例えば電子部品のような高付加価値の部品の生産を日本に残すことができ、サプライチェーンの自由度が増す」と羽生田執行役員は見る。

 TPPを有効に活用しようとすれば、日本車メーカーはグローバルの調達構造の見直しに迫られる。見直しでは当然「関税だけでなく為替や物流費も含めて総合的に勘案することになる」(日産川口専務)。日本車メーカーが今後グローバル調達をどう描くか。国内の車産業を左右するだけに注目が集まる。

 ※日刊工業新聞では「巨大経済圏TPP発効へ始動」を連載中
日刊工業新聞2015年10月09日 1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
TPPによってさまざまな業界で大きな地殻変動が起こる。ニュースイッチ、日刊工業新聞でも随時そのインパクトを報道していきます。日本の自動車業界は米国へ相当なロビー活動をした。VWのように足元をすくわれないよう慎重に果実を得ていくことが肝要。

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