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トヨタの設計改革「TNGA」は1年前から何が進化したのか

調達担当・白柳正義常務役員インタビュー「プリウスは競争力のある商品に仕上がった。次は小型車」
トヨタの設計改革「TNGA」は1年前から何が進化したのか

白柳氏

 ―設計改革「TNGA」第1弾のハイブリッド車(HV)「プリウス」を披露しました。調達面での評価は。
 「2012年に始めたTNGAは開発の早い段階で部品のシナリオをつくり、サプライヤーを選定した。サプライヤーと一体となった原価改善活動『良品廉価コストイノベーション(RRCI)』を実現しやすい環境となった。世界で一番競争力のある部品を買うために始めたRRCIの1期の出口が今回のプリウス。競争力のある商品に仕上がった」

 ―今後、TNGA採用車を広げる中で課題は何でしょうか。
 「小さいクルマの競争力を強化しないといけない。(TNGAを導入する)次期コンパクト車を出口とする『RRCI2期』でさらに競争力をつけたい。目標をどう設定するか、具体的にどう達成するか議論をしているところだ。(サプライヤーにとっては)モノづくり改革が軸になる。生産ラインだけではなく、物流や工場レイアウトなども見直した現場を多くつくっていきたい」

 ―TNGAでは結果的に部品共通化が進むため、品質不具合が起きた時の影響は大きくなります。品質をどう確保しますか。
 「フロントローディングを重視する。開発の早い段階から2次、3次(サプライヤー)まで含めて、どんなリスクがあるのかを洗い出し、それを徹底的につぶす。予測だけではなく、しっかり現物で確認する」

 ―日本経済の好循環を後押しする狙いを込めていったん休止したサプライヤーへの部品価格の引き下げを、再開しました。
 「(価格改定は)競争力をつけていいクルマにし、より多くのお客さまに乗ってもらい、仕事量が増えるというサイクルの一環。競争力確保のため大切な仕組みだと考えている」

 ―環太平洋連携協定(TPP)によって調達方針に変化はありますか。
 「現地でつくる車(の部品)は現地で調達するという基本方針は変わらない」

 ―メキシコで工場建設を決めました。現地の調達基盤の状況は。
 「1次のサプライヤーはかなり出ている。ただ2次、3次、また素材などについてはこれからだと聞いている。量が増える中で、そうした基盤も整っていくことを期待する」

 【記者の目/真価試される「ヴィッツ」】
 平均3割の原価低減を目標に09年から取り組んできたRRCI1期。2期では、そこからさらに下げるという厳しい挑戦となる。2期の出口に定めた次期コンパクト車は「ヴィッツ」。原価低減余力としてはプリウスより小さいとみられる。TNGA、RRCIの真価が試される車種になりそうだ。
(聞き手=名古屋・伊藤研二)

増井敬二氏(現専務役員)「『仕入れ先が淘汰される』は誤解」


日刊工業新聞2014年06月05日付


  ―2015年に設計改革「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」を反映する第1弾車種を投入します。仕入れ先の取り組みの進捗(しんちょく)は。
 「TNGAが始まって2年。新しい取り組みのため最初は仕入れ先からも戸惑いの声が多かったが、さまざまな機会を使い説明し、理解を深めてもらった。TNGA以前から(原価低減活動)『RRCI』の中で技術、生産、調達、仕入れ先の“四位一体”のモノづくり改革をやってきた。今はRRCIはTNGAを支える活動の一つとなっている。14年はTNGAを実務に定着させ、成果を上げていく年だ」

 ―TNGAで発注の仕方はどう変わりますか。
 「(TNGAで)よく誤解されるのはまとめ発注、モジュール発注になって仕入れ先が淘汰(とうた)される、大きな会社だけがティア1になる、といったこと。しかし複社発注という基本的な発注の仕方や、ティア1、ティア2、ティア3と連なる仕入れ先の枠組みを変えるつもりはなく、今のところ仕入れ先に大きな変動はない」

 ―今後はどうでしょうか。
 「部品自体が大きく変わり、例えば二つに分かれていた部品が一つになったりすればティア1、ティア2の関係も変わるかもしれない。また(共用化して量を)まとめることで、よりまとまって受注する仕入れ先が出るケースもあるだろう。トヨタとしてはオープンでフェアなビジネスをしたいと思っており、いろいろな仕入れ先がいろいろな提案ができるようになると思う」

 ―トヨタと仕入れ先の関係はどう変わりますか。
 「(既存)仕入れ先には、がんばって競争力のある部品を提供してほしいと言っている。そのためのサポートは惜しみなくやる。トヨタと仕入れ先の結束はTNGAでむしろ強まるだろう」

 ―グローバルでの調達基盤強化はどのように進めますか。
 「車両に比べると(エンジンなどの)ユニットは日本でつくって輸出する量が多く、現地化する余地は大きい。ただユニットは投資が大きくモデルをまたいで使うため本当に最適な生産地はどこか、よく考えないといけない。構成部品の調達をどうするかも課題となる」

 ―災害に強いサプライチェーンの整備は。
 「自動車のサプライチェーンは広くて深い。完璧に把握するのは不可能だが、国内ではサプライチェーンの調査はほぼ終わり方策のめどづけはできた。問題は次は、ここ(愛知県)で起きる可能性が高いこと。これまで愛知県の周辺は無事だったが、今は南海トラフ巨大地震を想定し対策を議論している」

 【記者の目/ウェットな関係、うまく生かせるか】
 トヨタらしさの一つは仕入れ先との関係の“ウェット”さ。仕入れ先からアイデアを募りつつ一体で進めるTNGAの進め方は「トヨタとのコミュニケーションが密になった」と好意的に受け止められている。
 仕入れ先とのもたれ合いにならず、トヨタらしい設計改革を出せれば、国際競争力の向上につながる。
(聞き手=名古屋・伊藤研二)
日刊工業新聞2015年10月09日 自動車面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
TNGAによる生産ラインの改革や金型への投資も本格的に始まり、投資負担が一時的に重たくなるため収益に貢献してくるのはまだ先かもしれない。ただ豊田章男社長が最重要視する「魅力的な車づくり」は、TNGAで目指す製造コストの低減と二律背反の部分もある。プリウスに続いて発売される小型車がどこまで消費者に受け入れられるか注目したい。

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