アップルは本当に自動車を作るのか?世界で 喧々諤々
横浜に技術開発センターを新設、その目的は?あの人物は?
米アップルが、横浜市のパナソニックの工場跡地を取得し、技術開発センターを新設する。アップルは詳細を言及していないが、開発テーマの一つとして有力視されるのは次世代自動車だ。日本には技術力のある電子部品、車関連メーカーの集積がある。アップルがスマートフォン市場を切り開く中で、日本メーカーが果たした役割は大きく、自動車開発でも関係強化を図るとみられる。日本の電子部品メーカーも車分野を強化しており、新施設は次世代車の孵(ふ)化装置になる可能性を秘める。
アップルは、パナソニックが環境配慮型都市(スマートタウン)に再開発する横浜市港北区の工場跡地(広さ約3万8000平方メートル)の一角に技術開発センターを構える。敷地面積は約1万2500平方メートル、延べ床面積は約2万5000平方メートルで3、4階建ての建物となる模様だ。
25日に横浜市庁で開いた会見では林文子市長が「アップルの進出で人や企業が引きつけられる。アップルには市内の大学や中小企業との連携をお願いしたい」と呼びかけた。同日、アップルは「横浜市で本格的なテクニカル・デベロップメント・センターの建設を始め、日本におけるさらなる業務拡大ができる」との声明を出した。
スマホ「iPhone(アイフォーン)」を筆頭に画期的な製品を世に送り出してきたアップル。次世代を担う新製品として開発中とされるのが“iCar(アイカー)”だ。米国での報道によると同社は、2020年にも電気自動車(EV)の生産を始める考え。「タイタン」と呼ぶ秘密プロジェクトが進行中で、数百人規模の技術者が開発に携わっているという。
道路側と通信する自動運転システム、ネットとつながる車内情報システム―。車のデジタル化が進んでおり、アップルが既存ノウハウを発揮できる部分は広がる。一方、高い耐久性や品質が求められる部品、長期にわたる供給体制など車固有の開発・生産課題は多く、解決にはノウハウを有するパートナーが欠かせない。こうしたことを背景にアップルは技術開発センターを拠点に、日本の電子部品や車関連メーカーとの関係強化に動くとみられる。
【車事業拡大へ部品メーカーに商機/技術者・知財流出リスクも】
高い材料開発力、生産技術力を有する日本の電子部品メーカーは、すでにアップルの重要なパートナーだ。初号機から最新モデル「6」「6プラス」に至るまでアイフォーンには、村田製作所やTDK、太陽誘電など日本勢の小型・低背部品が多用されている。「日本の部品がないと、アイフォーンを世界に供給できない」(部品メーカー首脳)。
また、日本電産やアルプス電気のように車載向けモジュールに強みを持つ部品メーカーは多い。情報通信系に加え車載関連技術にたけた彼らと連携すれば、EVの開発スピードを加速できる。アイフォーンで電話を“再発明”したように、これまでの概念を覆す新しい車を生み出すため、アップルが日本勢と組むメリットは大きい。
一方で、日本勢にもアップルと組む利点は少なくない。各社は主力のスマホ向けと並行し車載向けを収益源にしようと、高耐熱部品やセンサーなどを相次いで開発。新しい技術の取り込みに積極的なアップルにこれらの付加価値の高い先端部品が採用されれば、車載事業の収益力向上につながる。特に車載事業への参入が後発で、車電装品メーカーとの取引が進まず苦戦する部品メーカーにとっては、事業を一気に拡大できる商機が巡ってきているといえる。
ただ、技術者や知的財産の流出などのリスクもある。米国ではアップルが米テスラモーターズの技術者を数十人規模で引き抜いたと指摘されている。また、巨大な資本力を背景に有力な素材、部品開発力を持つ企業の買収に踏み込む可能性も否定できない。
部品各社には、車の“再発明”を目指すアップルの動向をこれまで以上に注視し、チャンスを最大化しつつリスクは最小化する高度な舵取りが求められる。
(2015年03月26日 電機・電子部品・情報・通信面)
<関連記事>
●【ジュネーブ=ロイターES・時事】今週のジュネーブ国際自動車ショーでは、決してつくられることがないかもしれない「アップルカー」が大きな話題となりそうだ。世界の自動車メーカー各社はこのほどジュネーブに集結し、自社の最新の車を売り込む。ただ、市場は欧州で回復を示す兆候が広がっているものの、新興国の需要減速に相殺され、不透明感が漂っている。
一方、より長期的な不安も迫ってきている。米アップルが車をつくるかもしれないとの報道を受け、既存の自動車メーカーは未来の車をつくる上でも有利な立場にいられるかどうか疑問を抱き始めている。車での演算能力の利用拡大や、車とスマートフォンなどの機器を接続する機能により、ハイテク企業や車メーカーには新たな事業機会がもたらされる一方、両者はますます競合関係に立たされている。
米市場調査会社ガートナーの車業界担当バイスプレジデント、コスロフスキ氏は、車会社とハイテク企業との間で次世代の車の「脳」を支配するための競争が繰り広げられていると指摘する。自動運転車の開発に取り組むアップルや米グーグルなどのソフトウエア企業が持つ革新性や新たな収益創出の能力は、車メーカーを脅かしている。
アップルのクック最高経営責任者(CEO)は1日付の独紙ビルト・アム・ゾンタークとのインタビューで、自動車の生産計画についてコメントを拒否。一方で「販売、市場シェア、利益は副次的なものだ。重要なのは偉大な製品をつくることに集中することだ」と語った。
独車大手ダイムラーのツェッチェ社長は「グーグルなどは(自動車市場に)参入したがっているが、そもそも車をつくりたいのではないと思う」と指摘。「われわれはそれを理解しなければならない。そしてどの程度彼らが補完的で、どの程度われわれが依存、あるいは競合するのか、われわれの役割を見いださなければならない」と述べた。
●【サンフランシスコ=ロイターES・時事】米アップルは米ブルームバーグ通信が複数の関係者の話として報じたところによると、早ければ2020年にも電気自動車(EV)の生産を開始することを目指している。報道によると、アップルは目標達成に向けて約200人からなる自動車チームを立ち上げる。ただ、経営陣がその進展に不満を募らせた場合、計画が廃止、もしくは延期される可能性もあるとしている。
●【ベルリン=ロイターES・時事】ドイツ自動車部品・タイヤ大手コンチネンタル エルマー・デーゲンハート最高経営責任者(CEO)は電話会見で、米アップルが自動車生産を行うことを決断すればコンチネンタルはアップルに協力することに関心があると述べた。この中でデーゲンハート氏は「アップルは情報通信システムに関してこの上ない名声を得ている。財務の健全性も素晴らしい」と語った。一方で同氏は、コンチネンタルの電気自動車(EV)事業の売り上げは「少なくとも今後3、4年」の間は芳しくないかもしれないと指摘。EVの先行きに懐疑的な見方も示した。
アップルは、パナソニックが環境配慮型都市(スマートタウン)に再開発する横浜市港北区の工場跡地(広さ約3万8000平方メートル)の一角に技術開発センターを構える。敷地面積は約1万2500平方メートル、延べ床面積は約2万5000平方メートルで3、4階建ての建物となる模様だ。
25日に横浜市庁で開いた会見では林文子市長が「アップルの進出で人や企業が引きつけられる。アップルには市内の大学や中小企業との連携をお願いしたい」と呼びかけた。同日、アップルは「横浜市で本格的なテクニカル・デベロップメント・センターの建設を始め、日本におけるさらなる業務拡大ができる」との声明を出した。
スマホ「iPhone(アイフォーン)」を筆頭に画期的な製品を世に送り出してきたアップル。次世代を担う新製品として開発中とされるのが“iCar(アイカー)”だ。米国での報道によると同社は、2020年にも電気自動車(EV)の生産を始める考え。「タイタン」と呼ぶ秘密プロジェクトが進行中で、数百人規模の技術者が開発に携わっているという。
道路側と通信する自動運転システム、ネットとつながる車内情報システム―。車のデジタル化が進んでおり、アップルが既存ノウハウを発揮できる部分は広がる。一方、高い耐久性や品質が求められる部品、長期にわたる供給体制など車固有の開発・生産課題は多く、解決にはノウハウを有するパートナーが欠かせない。こうしたことを背景にアップルは技術開発センターを拠点に、日本の電子部品や車関連メーカーとの関係強化に動くとみられる。
【車事業拡大へ部品メーカーに商機/技術者・知財流出リスクも】
高い材料開発力、生産技術力を有する日本の電子部品メーカーは、すでにアップルの重要なパートナーだ。初号機から最新モデル「6」「6プラス」に至るまでアイフォーンには、村田製作所やTDK、太陽誘電など日本勢の小型・低背部品が多用されている。「日本の部品がないと、アイフォーンを世界に供給できない」(部品メーカー首脳)。
また、日本電産やアルプス電気のように車載向けモジュールに強みを持つ部品メーカーは多い。情報通信系に加え車載関連技術にたけた彼らと連携すれば、EVの開発スピードを加速できる。アイフォーンで電話を“再発明”したように、これまでの概念を覆す新しい車を生み出すため、アップルが日本勢と組むメリットは大きい。
一方で、日本勢にもアップルと組む利点は少なくない。各社は主力のスマホ向けと並行し車載向けを収益源にしようと、高耐熱部品やセンサーなどを相次いで開発。新しい技術の取り込みに積極的なアップルにこれらの付加価値の高い先端部品が採用されれば、車載事業の収益力向上につながる。特に車載事業への参入が後発で、車電装品メーカーとの取引が進まず苦戦する部品メーカーにとっては、事業を一気に拡大できる商機が巡ってきているといえる。
ただ、技術者や知的財産の流出などのリスクもある。米国ではアップルが米テスラモーターズの技術者を数十人規模で引き抜いたと指摘されている。また、巨大な資本力を背景に有力な素材、部品開発力を持つ企業の買収に踏み込む可能性も否定できない。
部品各社には、車の“再発明”を目指すアップルの動向をこれまで以上に注視し、チャンスを最大化しつつリスクは最小化する高度な舵取りが求められる。
(2015年03月26日 電機・電子部品・情報・通信面)
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●【ジュネーブ=ロイターES・時事】今週のジュネーブ国際自動車ショーでは、決してつくられることがないかもしれない「アップルカー」が大きな話題となりそうだ。世界の自動車メーカー各社はこのほどジュネーブに集結し、自社の最新の車を売り込む。ただ、市場は欧州で回復を示す兆候が広がっているものの、新興国の需要減速に相殺され、不透明感が漂っている。
一方、より長期的な不安も迫ってきている。米アップルが車をつくるかもしれないとの報道を受け、既存の自動車メーカーは未来の車をつくる上でも有利な立場にいられるかどうか疑問を抱き始めている。車での演算能力の利用拡大や、車とスマートフォンなどの機器を接続する機能により、ハイテク企業や車メーカーには新たな事業機会がもたらされる一方、両者はますます競合関係に立たされている。
米市場調査会社ガートナーの車業界担当バイスプレジデント、コスロフスキ氏は、車会社とハイテク企業との間で次世代の車の「脳」を支配するための競争が繰り広げられていると指摘する。自動運転車の開発に取り組むアップルや米グーグルなどのソフトウエア企業が持つ革新性や新たな収益創出の能力は、車メーカーを脅かしている。
アップルのクック最高経営責任者(CEO)は1日付の独紙ビルト・アム・ゾンタークとのインタビューで、自動車の生産計画についてコメントを拒否。一方で「販売、市場シェア、利益は副次的なものだ。重要なのは偉大な製品をつくることに集中することだ」と語った。
独車大手ダイムラーのツェッチェ社長は「グーグルなどは(自動車市場に)参入したがっているが、そもそも車をつくりたいのではないと思う」と指摘。「われわれはそれを理解しなければならない。そしてどの程度彼らが補完的で、どの程度われわれが依存、あるいは競合するのか、われわれの役割を見いださなければならない」と述べた。
●【サンフランシスコ=ロイターES・時事】米アップルは米ブルームバーグ通信が複数の関係者の話として報じたところによると、早ければ2020年にも電気自動車(EV)の生産を開始することを目指している。報道によると、アップルは目標達成に向けて約200人からなる自動車チームを立ち上げる。ただ、経営陣がその進展に不満を募らせた場合、計画が廃止、もしくは延期される可能性もあるとしている。
●【ベルリン=ロイターES・時事】ドイツ自動車部品・タイヤ大手コンチネンタル エルマー・デーゲンハート最高経営責任者(CEO)は電話会見で、米アップルが自動車生産を行うことを決断すればコンチネンタルはアップルに協力することに関心があると述べた。この中でデーゲンハート氏は「アップルは情報通信システムに関してこの上ない名声を得ている。財務の健全性も素晴らしい」と語った。一方で同氏は、コンチネンタルの電気自動車(EV)事業の売り上げは「少なくとも今後3、4年」の間は芳しくないかもしれないと指摘。EVの先行きに懐疑的な見方も示した。
日刊工業新聞2015年02月23日&03月03日 電機・電子部品・情報・通信面、03月10日 自動車面