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ノーベル物理学賞「梶田隆章」功績早わかり

“日本のお家芸”継承
ノーベル物理学賞「梶田隆章」功績早わかり

「良い出会いに恵まれたことがすべて」と梶田氏

 日本のお家芸ともいえる素粒子物理学から、また一つノーベル賞が出た。東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長が、2015年のノーベル物理学賞に輝いた。素粒子ニュートリノに質量があることを突き止め、素粒子物理学の基本法則を書き換えた。素粒子物理学は日本が伝統的に強い分野であり、ノーベル賞も多数輩出している。その歴史をひもといてみる。
 

スーパーカミオカンデでニュートリノの観測に成功


 49年、湯川秀樹氏は「中間子」の存在を予言し、日本人初のノーベル賞を受賞。戦後のニッポンに大きな希望と自信を与えた。その後、65年に、朝永振一郎氏が「くりこみ理論の発明による量子電磁力学の発展への寄与」で受賞した。

 00年以降はさらに加速する。02年に受賞したのが梶田氏の恩師である小柴昌俊氏だ。小柴氏は87年に、超新星爆発からのニュートリノの検出に成功。ニュートリノ天文学という新分野を切り開いた。

 梶田氏がニュートリノの研究を始めたのは、東大理学部の助手になって間もない86年ごろ。漠然と「自然科学が好きだった」ことから、ニュートリノ分野を選び、小柴研究室の門をたたく。「小柴先生に出会ったことが、人生の転機になった」という。
 
 小柴門下生
 梶田氏の成果はまた、小柴氏に加え、戸塚洋二氏の貢献なしに語れない。戸塚氏は梶田氏とともに98年、ニュートリノに質量がある証拠になる現象を世界で初めてとらえた。小柴氏に続くノーベル物理学賞の受賞が期待されていたが、08年に急逝した。

 梶田氏は戸塚氏と25年以上にわたって、二人三脚で研究してきた。当時、戸塚氏の訃報に接した梶田氏は、「スーパーカミオカンデで先生が昼夜問わず研究に打ち込んでいたことが思い出される」と振り返っていた。今回の受賞は戸塚氏の努力も報われた。

 08年には、素粒子物理学の標準模型の成立に貢献した南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏が「対称性の破れの発見」でノーベル賞を受賞している。

 スーパーカミオカンデの20倍以上の検出能力を持つハイパーカミオカンデの建設も計画されている。岐阜県飛騨市内に建設される見通しで、25年の実験開始を目指す。日本の素粒子物理学の発展はさらに引き継がれる。
 

ニュートリノとは


 物質を構成する最小単位である素粒子の一つ。太陽から放出されたり、宇宙線が地球の大気に衝突して発生するほか、原子炉でも生じる。他の物質と反応しにくく、地球や人体を通り抜ける。物理学者のパウリが1930年に存在を予想し、56年に米国の原子炉で発見された。電子型、ミュー型、タウ型の3種類がある。質量を持たないと考えられていたが、飛んでいる間に別の種類に変化する「ニュートリノ振動」が観測され、質量を持つことが分かった。
(文=藤木信穂、小寺貴之、梶原洵子)
 
 
日刊工業新聞2015年10月07日ノーベル賞特集から一部抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
研究のモチベーションについて梶田さんいわく、 「かっこいい言葉にすれば、我々の研究は人類の『知』の地平線を広げる仕事だ。純粋な知的好奇心で宇宙や物質の成り立ちに迫っていく。データを解析して予想と違う結果が出た時に面白いと思う。86年にカミオカンデで自分の予想と違う結果がでた。これは何かあると追求したことがニュートリノ振動につながった。98年にニュートリノ振動が認められるまで、自分たちの道が正しいと信じてやってきた。認められてからは、まだ残っている課題を深く理解したいと研究を続けた」という。

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