「世界のコマツ」の道はローマに通ず

大橋徹二社長の「本棚」――文明・宗教の衝突はビジネスに直結する

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 最も印象に残っている本が、塩野七生さんの『ローマ人の物語』シリーズだ。米国駐在のころに読んだ。それ以前の英国駐在時代、『ローマ帝国衰亡史』(エドワード・ギボン著)を読んだ。歴史を正確に記しているかもしれないが、理解しづらく、頭に入ってこなかった。ローマ人の物語は全く違った。

 塩野さんはご自身が気になるところをかなり詳しく、背景を含めて面白く書かれている。千何百年にわたってのご自身の視点がある。仕事をする上でも、自分なりの見方が大事だと学んだ。
 ローマは征服した相手に権限を与え、同化させた。共和制を敷き、平民でも役職に就けるようにした。紀元前にそういうことをやっていたのは驚きだ。キリスト教の影響が入ってくる前は多神教で、互いの良いところを認め合う、排除しない風土があったのだろう。

 ローマ人の物語を読んで、こうしたローマの良さを痛感した。塩野さんの本は、歴史に対する窓を開いてくれる。それは塩野さんが面白いと思ったことをご自身の論点で書くからだろう。例えば「全ての道はローマに通ず」と例えられた道路網や長距離の水道橋、神殿など高い土木技術を取り上げて、じっくり論じている。
 影響を受けた本は、サミュエル・P・ハンティントンさんの『文明の衝突』だ。6年半の英国勤務を経験し、世界を意識する中で読んだ。海外で勤務し、文明とは何か気になっていた。文明の衝突では、冷戦が終わり、宗教など互いに譲れない要素によって対立が起こると記されていた。世界を飛び回る人間として、こうしたことを常識として頭に入れておくことは大事だ。

 英国で働いたこと、文明の衝突を読んだことは自分の原体験だ。米国での同時多発テロ事件以降、宗教のぶつかり合いだけでなく、テロという形になっている。ビジネスマンとして、こうした歴史的背景を押さえておかないといけない。

 学生時代に読んで勉強になった本が、ローマクラブの『成長の限界』だ。数学モデルを用いて、人類の数が増えるが生産性はそれほど上がらず、どこかで成長できなくなると問題提起した。人間は自分の間近のことにしか興味を持たないと指摘したグラフが印象に残っている。大学1、2年の頃に読んだが、ちょうど数理工学専攻に進んだ時期だったと思う。数学は社会に役立つ、勉強したら面白いという思いが強まった。

 【取材後記/自然体】
 読書について「本から学ぼうなど大層なものではない。習慣だ」と持論を説く。小説や新書を含め、新しい本をたくさん読むことを心がける。読書の面白さを「こういう本を書くという作者の意思、悩みが文章に出ること」と表現する。本を通じて作者の思いをくみ取るかのようだ。読書する理由は「限られた人生の中で、経験できないこと、知らないことがたくさんあるから」とシンプルかつ明確だ。肩肘を張らず、自然に読書を楽しんでいるのだろう。(戸村智幸)

日刊工業新聞2015年03月23日 books面

COMMENT

明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

自分はコマツの本拠地、石川県小松市出身。なので以前から大橋さんとはご縁がある。大橋さんが入社した時はまだ「小松製作所」という名の時代。東大の同窓会に出ると、周りは大手銀行や官僚ばかり。ほぼ「小松?その会社って何だ」という反応で、随分肩身の狭い思いをしたという。しかし20、30代の時から社長候補といわれ、今や日本の製造業の中でもグローバル化をけん引する代表的な企業の経営者。取材後記にあるように、いつも自然体で穏和だが、海外事業での数々の修羅場と経験が、冷静と情熱の絶妙なバランスを保っている。それにしても塩野さんの「ローマ・・」好きな経営者は多いなぁ。

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