土壇場でひっくり返されたインドネシア高速鉄道。政府危機感強める

新興国ビジネスの難しさ浮き彫り。迫られるインフラ輸出戦略の練り直し

 中国との激しい受注合戦を繰り広げてきたインドネシアの高速鉄道計画での受注失敗を受け、日本政府は敗因の分析や改善策など対策を急ぐ構えだ。当初は日本がリードしていたと考えられていたが、中国政府がインドネシアの財政負担をゼロにするという”破格“の条件で受注をもぎとった。日本の新幹線の強みである技術力や安全性だけでは通用しない状況が出てきている。情報収集のあり方を含め、戦略の練り直しが求められる。

 ジャカルタ―バンドン間(140キロメートル)のインドネシアの高速鉄道計画を巡っては、インドネシア政府は日中両国の提案では、財政負担が生じることなどを理由にいったん白紙撤回し「中速」鉄道にする方向を示した。しかし、中国政府はインドネシア政府の財政負担や債務保証を伴わない事業案を示し、インドネシア政府は一転して中国案の採用に踏み切った。

 政府は今回の結果に戸惑いを隠せない。国土交通省は「実現可能な提案を行ったが残念だ」(鉄道局国際課)と落胆する。ただ、少なくとも相手国政府の財政負担や債務保証を伴わない事業案に、日本の既存の枠組みでは対応できていない状況があるのは事実だ。今後に向け政府は「ある意味で検証する良い材料をもらった。敗因を分析した上でどうするかを検討する」(内閣官房副長官補室)としており、情報収集の仕方や債務保証のあり方なども含め、関係者を集めて、早急に現状分析と対策を練る方針だ。

 新興国での高速鉄道などインフラ輸出は、政府の成長戦略において柱の一つとして位置づけている。今後も各国で中国との受注合戦が繰り広げられることは確実で、政府は危機感を強めている。

 インドネシアの高速鉄道計画では、JR東日本がグループの日本コンサルタンツを通じ、国際協力機構(JICA)から事業化調査を受注し、基本計画や建設計画の検討・策定を前提とした調査を進めていた。当初、契約期間は15年3月までだったが、政府間交渉が継続中だったこともあり、延長。現在も契約が続く状況だ。

「直ちに他国(と進める新幹線輸出交渉)には影響しない」(国交相)


 JR東日本は12年策定の経営計画で海外事業強化を打ち出し、これまでにベルギー・ブリュッセル、シンガポール、英・ロンドンに拠点を開設。高速鉄道プロジェクトでは、インドと英国で調査事業に入るなど、受注も近いとみられている。都市鉄道では、タイ・バンコクで16年に開業する路線に鉄道車両や鉄道システムなどを供給。日本の新幹線の採用が決まったとされるバンコク―チェンマイ間の高速鉄道プロジェクトにも参画している。

 鉄道の海外輸出は、政府間交渉が中心で、プロジェクト決定まで時間がかかる。政情にも左右され、民間企業ではどこまで経営資源を割くべきか、判断が難しい。インドネシアでは、調査まで手がけながら、受注に至らなかった。同社は海外で活躍できる人材の育成などを進めながら、長期的な視野で事業の柱に育てていく構えだ。

太田昭宏国土交通相は4日の閣議後記者会見で、日本と中国が受注を競ってきたインドネシアの高速鉄道計画で中国案の採用が固まったことに関連し「直ちに他国(と進める新幹線輸出交渉)には影響しない」と述べ、今後も新幹線輸出戦略を積極的に進めていく意向を示した。
 
 政府は成長戦略でインフラ輸出の強化を掲げ、インドやタイ、米国にも新幹線方式の高速鉄道輸出を目指している。国交相は各国との交渉を通じ「日本の技術力は素晴らしいと評価を受けている」と指摘。開発から運用、廃棄までを含む全体で見れば「コスト面でも優れている」と強調した。

日刊工業新聞2015年10月01日 2面に加筆

高屋 優理

高屋 優理
10月06日
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インドネシアは政治的にも経済的にも日本との結びつきが強い「親日国」とされ、高速鉄道の受注も一貫して日本が有利とみられてきました。しかし、14年10月に政権が交代し、ジョコ・ウィドド氏が大統領に就任したことで、インドネシア政府内の親日派と親中派のバランスが変わってきたと言われています。政権交代で外交姿勢が転換するのは、インドネシアに限った話ではありませんが、日本にとってはタイミングも悪く、大きな痛手になってしまいました。ただ、ジョコ大統領の就任後、インドネシアはルピアと株価の下落に歯止めがかからず、経済は大きなブレーキがかかっています。インドネシアは地下鉄など都市交通の計画が、汚職などでこれまで何度も立ち消えになっており、中国に決まった高速鉄道計画が、今後スムーズに進むのか、不透明な部分もあります。

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