ニュースイッチ

人口8200人の小さな町にプロジェクト誘致が相次ぐワケ

“民ありき”支援手厚く

人口約8200人の小さな自治体が、多数の民間プロジェクトを呼び込んでいる。埼玉県横瀬町は2016年9月末に大手やベンチャー企業、個人から新事業などを募集する官民連携プラットフォーム「横瀬町とコラボする研究所(よこらぼ)」を立ち上げ、開始から3年で63事業を採択。今後の展開について富田能成横瀬町長に話を聞いた。(取材・石井栞)

―「よこらぼ」発足の経緯は。

「平成に入ってから企業誘致は1件もなく消滅可能性都市と言われた。インターチェンジ(IC)もなく企業誘致は難しいため、企業ではなく、人・モノ・金・情報の集まるプロジェクトを誘致しようと構想から9カ月で『よこらぼ』をスタートした」

―地方創生をビジネスチャンスにしようにも、自治体とのコネクション作りに苦労する企業も多いです。

「通常は民が官に合わせるが、我々は民に合わせる。官の課題ありきではなく民のプロジェクトありき。民は自治体との提携実績など、町は先進技術やサービスを使えるなどウィンウィンの関係を実現できる」

―間口の広さとスピードが強みです。

「窓口を一元化し、提案のハードルを低くしている。毎月募った提案は翌月、複数の審査員が審査し最終的に町長が採択を決断する。最短一カ月強でプロジェクトを始められる。採択後、町は行政権限による特区申請、町民への協力依頼など手厚く支援する。9月30日時点で114件の提案があり63件を採択。このうち予算措置をとったのは2件のみ」

―具体的な取り組みは。

「医療系ベンチャーのKids Public(東京都千代田区)と提携し、LINEや電話で専門医に直接相談できる『小児科オンライン』を全国で初めて導入した。小児科専門医が不在という町の課題ともマッチした。その後、『産婦人科オンライン』も導入し、データの収集を続けている。AMATELUS(アマテラス、同渋谷区)の『スワイプビデオ』は360度自由な視点で動画を視聴できるサービスで、町はスポーツチームのフォームチェックなどに活用した。現在、20近くのプロジェクトが進行中だ。今後は町の抱える課題の具体的な掘り下げや、目に見える経済循環も創出していきたい」

【チェックポイント/銀行員の経験、存分に発揮】

横瀬町役場の職員数は約90人。4人程度のよこらぼ事務局で複数プロジェクトを動かせるのは「プロジェクトが自転するシンプルな仕組みだから」(富田町長)という。元銀行員の富田町長は、不良債権の処理や企業再生の経験を生かして地域の再生に取り組む。さまざまなライフスタイルの人々を呼び込むため、人々が集まる拠点「Area898」を設けるなど地域に関わる「関係人口」の拡大にも力を注ぐ。

※内容・肩書きなどは取材時のものです。
日刊工業新聞2019年 10月 29日

編集部のおすすめ