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東レが伊社に出資した理由。炭素繊維で一貫体制狙う

プリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)で世界第2位に
東レが伊社に出資した理由。炭素繊維で一貫体制狙う

カップ積層型カーボンナノチューブ分散させた樹脂フィルムをプリプレグ上へ積層し、圧縮強度を高める

 東レは30日、プリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)用樹脂の開発・製造会社である伊デルタテック(トスカーナ州)に資本参加したと発表した。数十億円程度を投じ、発行済み株式55%を取得。これに伴い、デルタテック100%出資子会社の伊デルタプレグ(アブルッツォ州)も子会社化する。

 1999年に設立したデルタテックは、欧州の高級自動車向けを中心にプリプレグを供給しており、東レはデルタグループへ炭素繊維の供給を通じて取引関係があった。

東レ、MRJ尾翼部品初出荷


日刊工業新聞2015年6月29日付


 東レは三菱重工業が製造する「MRJ(三菱リージョナルジェット)」向けに炭素繊維複合材料を適用した尾翼部品(スパー、スキン・ストリンガーパネル、リブ)を開発、製造し、名古屋事業場(名古屋市港区)から初出荷した。

 これまで航空機向けに炭素繊維やプリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)などの中間基材を供給してきたが、一次構造材部品まで生産するのは初めて。

 生産面では東レと三菱重工が共同で炭素繊維織物基材を積層、真空状態にし、樹脂を注入してオーブンで固める成形技術「A―VaRTM」を活用し、高い品質安定性を備えた。東レは名古屋事業場に生産体制を整え、炭素繊維複合材料を使った尾翼部品を安定的に供給していく。

広がる用途開発。加工強化へM&A活用へ


日刊工業新聞2015年6月25日付


 炭素繊維産業が成長するには材料開発に挑む企業も欠かせない。GSIクレオスは炭素網が底の空いたコップのような形状で積層されたカップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)を応用展開する。最近は既存のプリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)上に、CSCNTを分散させた樹脂フィルムの挿入を提案。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で課題だった「圧縮強度を約20%高めることが期待できる」(柳沢隆ナノテクノロジー開発室長)と利点を強調する。光エネルギーで駆動する光アクチュエーターへの適用にも取り組む。

 【川下を強化】
 日系炭素繊維メーカーは、世界の炭素繊維市場で約6―7割のシェアを持つ。だが、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いた部材や製品では日系企業のシェアは約1―2割に低下する。

 そこで日系各社は、航空機や自動車といった分野の素材供給で高シェアを維持しつつ、欧州勢が先行している成形や加工の川下領域を自前で強化する戦略をとる。

 例えば、最大手の東レはイタリアの織物メーカー、サーティから同社の欧州における炭素繊維織物とプリプレグ事業の買収をまとめた。三菱レイヨンは自動車向けCFRP部品メーカー、独ベティエを子会社化するなど各社、加工事業の強化にM&A(合併・買収)を積極的に活用している。

 帝人も加工領域の強化を重点テーマに位置づける。M&Aについては、「グループの力になれるかを見極めた上で進めていく」(吉野隆常務執行役員兼東邦テナックス社長)方針だ。

 【産学連携に期待】
 産学連携にも期待がかかる。代表的なプロジェクト「CMI」は東京大学、米ボーイング、大手重工各社などで構成。産学のノウハウを組み合わせCFRP加工の高度化技術を開発、航空機の機体で採用を目指す。炭素繊維メーカー、大学などが参画する名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(NCC)は、自動車分野の量産技術開発に取り組む。

 日系メーカーが粘り強く市場を創出してきた炭素繊維。自動車をはじめ、“次”に飛躍する分野は見えている。各社は市場の要求に応えつつ、最良のタイミングでコスト競争力のある量産技術を打ち出すことが求められている。
日刊工業新聞2015年10月01日 3面
峯岸研一
峯岸研一 Minegishi Kenichi フリーランス
東レは炭素繊維事業の拡大に向けて着々と対策を講じています。対策は炭素繊維に留まりまっていません。今回の動きもその一つです。プリプレグ生産は国内二工場と米国の三拠点で、今やヘクセル社に続いて世界第二位のプリプレガーになりました。繊維事業で確立した「トータルインダストリー」、原糸ーテキスタイルに至る一貫生産体制を、炭素繊維においても実践しているわけです。炭素繊維は今後も需要増が見込まれるだけに、東レの次の一手が何になるか、注目されます。

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