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国際競争に勝つ…情通機構が「量子ICT」研究に本腰

情報通信研究機構は2020年度内に量子ICT(用語参照)分野の人材育成に乗り出すとともに、22年度をめどに国際的な研究拠点を新設する。量子ICTを専門的に扱う人材の育成プログラムを開始し、初年度は20人程度を育成する。新設する研究拠点では、国内外から研究者となる人材を集め、日本の量子技術の発展につなげる。

欧米では量子ICTの研究開発に大規模な投資が行われ、競争が激化している。日本の量子ICTの国際競争力を強化するため、量子を専門的に扱う優れた研究者「量子ネーティブ」育成や、基礎研究から技術実証、知財管理、標準化まで行う国際的な連携拠点の設置が求められている。

情通機構が始める育成プログラムでは、IT企業が開発した量子コンピューター向けソフトウエアの開発ツールを使ったプログラミング演習や量子暗号通信の実習を想定。量子コンピューターや量子アルゴリズムの演習を行い、量子ネーティブに必要な基礎知識の習得を目指す。

さらに同機構の設備を使って量子暗号通信や量子センシングなどの実習ができる仕組みも検討中。将来的には、授業や演習をオンライン受講できる体制を整備する。

研究拠点は同機構本部内(東京都小金井市)に設ける。総務省が19年度補正予算に78億9000万円を計上。研究拠点の建設費などの環境整備費に35億、量子暗号機能を持つ通信システムの実用化に向けた研究費に43億9000万円を充てる。外部の研究者と議論や協創できるオープンスペースも設ける予定。

徳田英幸理事長は「量子ネーティブを増やし分野間で協創し連携できる場を提供することで、量子ICTの革新を起こさせたい」と語る。

【用語】量子ICT=原理的に盗聴不可能とされる量子暗号技術や、微弱な光信号から情報を取り出す量子信号処理など、セキュリティーに関わる最先端のネットワーク技術の一つ。超スマート社会「ソサエティー5・0」の技術インフラを飛躍的に発展させるカギになると考えられている。情通機構は東京都内4拠点をつなぎ盗聴攻撃の検知実験などを行う量子暗号ネットワーク「東京QKD」で世界最長期間の運用実績を持つ。さらに光ファイバーや衛星での量子暗号通信の応用研究を進め、量子ICTの実用化を目指している。
日刊工業新聞2020年4月16日

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