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現実的な解は実測調査から。現代の環境問題で大切なものとは?

海に流れ出したプラスチックごみ(海洋プラごみ)による環境汚染が世界的な関心を集めている。2019年に開かれたG20大阪サミットでも主要議題のひとつとなり、2050年までにプラスチックごみによる追加的な汚染をゼロとすることで合意した。その一方で、種類や分布、生態系への影響など、実測に基づく研究成果はまだ少なく、科学的な解明はこれからだ。私たちは、暮らしを支えるプラスチックとどう向き合うべきかー。マイクロプラスチック研究の第一人者である九州大学の磯辺篤彦教授と考える。

実測調査あってこそ

ー海に流出したプラスチックごみは壊れて微細な破片(マイクロプラスチック)となり、魚介類などへの悪影響が懸念されることが報じられたことで、ワンウェイのプラスチック製品削減に向けた対策機運を高めました。実際にどれぐらいの量が発生し、どんな悪影響があるのですか。

「実態解明はこれからです。海洋プラごみをめぐっては世界中で、この5年あまりで急速に研究が進展してきましたが、実測と組み合わせた研究や国際的な調査基準づくりは始まったばかりです。これまでの研究の多くは間接的なデータを集めて推計したものがほとんどですが、実験結果だけで結論づけることはできず、実測に基づく汚染実態や将来予測と組み合わせてはじめて影響評価できると考えています」

ー広い海のどこに、どれだけの海洋プラごみが漂っているかを突き止めるのは難しそうですね。

「プラスチックが普及したこの半世紀あまりで、海に流出した量は約2億5000万トンと考えられていますが、実測されているわけではありません。沈んでいるのか、細かく砕けて漂流してるのか分からない。僕らが技術的に海から採取できるマイクロプラスチックは300マイクロメートル以上の大きさのもので、採取できない大きさのものについては分かっていない。(人工的に生み出した)数マイクロメートルの大きさのものを魚に与え続けた実験結果が多い状況です。現実とのサイズギャップを埋めない限り、実験室とフィールドがつながってこない。ですから、目下の研究課題のひとつは、より微細なマイクロプラスチックを測定することです。そのためには、プラスチックの分解メカニズムから知る必要があり、高分子化学の研究領域との連携を進めています」

南太平洋で行われたマイクロプラスチック採取(磯辺教授提供)

現実的な解 見出せ

ー汚染実態は分からないのに、2050年にはプラスチックごみによる追加的な汚染をなくすとする国際合意をどう受け止めていますか。

「サイエンスの側にも責任があります。対策を講じなければ何が起こるのかを具体的に示すエビデンスを早急に提供しなければなりません。現代の環境問題で大切なのは、科学に基づいて『更新』される合意形成です」

ー高度成長期の公害問題と異なり、海洋プラごみや気候変動といった地球規模の課題は汚染源の特定が難しい。

「だからといってプラスチックを一気になくす施策に舵を切るのは現実的ではありません。プラスチックは安くて軽く、腐食分解しないからこそこれだけ普及しました。裏返せばごみになる条件がそろっているわけですがとりわけ、途上国ではプラスチックがあるからこそ、衛生状態のよい食事や水にアクセスできたり、文化的な生活を保つことができます。地球環境を理由に弱者を切り捨てるようなことがあってはなりませんし、SDGs(国連の持続可能な開発目標)が掲げる『誰ひとり取り残さない』とする理念にも反します」

取り組みの一歩に

ー日本の現状をどうみていますか。

「廃棄物の処理体制が確立している日本では、年間およそ900万トンのプラスチックごみを、リサイクルを含めほぼ完璧に処理しています。それでも14万トンほどが廃棄物処理の枠組みから外れてしまう。その一部が海岸漂着ごみの原因となっていると考えられます」

「別の角度からお話すれば、かつて、海岸にどれだけのプラスチックごみが、いつ漂着するかという実験をしました。海岸のごみは半年ほどで入れ替わるとのデータがあり、その平均通過時間と現存量が分かれば、平均投入量が算出できます。この結果もやはり10万トンほど。規模感としては合致します」

ーならばこうした実態を前提に対策を考えるべきだと。

「そうです。解はひとつ、廃棄物の発生量を減らすことに尽きると考えます。そのためには社会全体で使うプラスチック製品の削減を進めるべきです。発生量そのものが減少すれば、処理が行き届かない量も当然少なくなります。7月に始まるレジ袋の有料化をきっかけに、過剰な使用を抑制する意識をより多くの人が共有することを期待します」

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