宇宙空間でガンダムハンマーを使うと、アムロは死ぬ?

ロボットの姿勢制御とAMBAC

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図1 AMBACによる宇宙空間での姿勢制御
 2月27日に「ガンダムGLOBAL CHALLENGE」の一次応募が締め切りとなった。「機動戦士ガンダム」のテレビ放映から40周年を迎える2019年に18mの実物大ガンダムを動かすというもので、ロボット研究者からも多くの提案がなされた。アニメで描かれる空想世界と違い、力学の世界で支配された現実世界で、これほどの巨大構造物を動かすのは並大抵のことではない。また、ガンダムという作品では宇宙空間での戦闘も描かれており、ときには「ガンダムハンマー」なる重量物をザク(敵ロボット)にぶつけて撃破している。ハンマーの武器のとしての有効性はともかくとして、実際にガンダムハンマーを使うとどうなるのかを考察してみた。

【AMBACで姿勢制御】
 ガンダムの世界では、宇宙空間ではAMBACにより姿勢制御を行う。「Active Mass Balance Auto Control」の略であり、ガンダムの世界で設定された宇宙空間での架空の制御方法である。直訳すれば「積極的な質量バランスによる自動制御」といった感じだろうか。
 AMBACでは、作用・反作用により方向転換を行う(図1)。宇宙空間でロボット(モビルスーツ)が腕を動かそうとすると、その反作用により反力が生じ、胴体は逆方向に動く。日常生活において、足を床に着けずに回転いすに座り、腕を水平方向に左右に振ると身体が逆回転する現象を経験したことがあるだろう。作用・反作用とは、このような現象である。

 宇宙空間での姿勢制御は、探査衛星などのように、本来はスラスター(推進器)による方法が効率的である。しかし、これでは推進剤を大量に消費するうえ推進剤タンクが大型化し、戦闘において不利となる。
 これに対し、AMBACでは腕や脚を動かすためのモーターの電力があればよく、モビルスーツはヘリウム3による核融合発電により機体内に相当な電力を蓄えている。AMBACにより推進剤の大幅な節約につながるわけで、ガンダムの世界において手足のついたモビルスーツが活躍する理由づけとなっている(ロボット同士による戦闘を成立させるための「こじつけ」ともいえる)。

 極端な話、腕一本でも大まかな姿勢制御は可能で、例えば「機動戦士ガンダム」で描かれた1年戦争のア・バオア・クー決戦において、「ジオング」(敵のエースパイロットであるシャアが最後に搭乗した機体)の脚がないことを『あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのです』と吐き捨てたジオン兵の言葉は、それなりに的を射ているのである。

【乗り物酔いか気絶、最悪の場合は死に至る?】
 AMBACで姿勢制御を行いつつ、ガンダムハンマーを意のままに扱おうとすると、どのような制御をする必要があるだろうか。
 ちなみに、ガンダムハンマーは「機動戦士ガンダム」や「ターンエーガンダム」などに登場する兵器で、トゲ付きの鉄球をチェーンで振り回して敵にぶつけるという「わかりやすい」アイテムである。機動戦士ガンダム第5話「大気圏突入」において、主人公のアムロはハンマーでシャアが率いるザク小隊と戦闘している。

 ここでは、簡単にするために、ガンダムとハンマーを質点で近似し、等角速度で振り回すことを想定して考察してみる。ラグランジュの運動方程式などから求めると、図2(上)のような数式で表現される。式はすっとばして読んでもらってよいが、x,yはガンダムの位置座標、θはハンマーの回転角度、fx,fxはガンダムの発生するx方向、y方向の力であり、τはガンダムがハンマーを振り回すトルクを意味する。また、m1,m2はそれぞれガンダムの質量とハンマーの質量とし、ガンダムとハンマー間のチェーン長さはrとし,チェーンは軽量で弛まないものと仮定している(システムの制約上、変数を適切に表現できていないことをご容赦願いたい)。

 宇宙空間で静止した状態から、その場でハンマーを等角速度で回転した場合から考察すると、一見すると、図3(左)のようにハンマーがガンダムを中心にグルグル回っているように思える。しかし実際は、作用・反作用から、2つの質量を合わせた重心位置を中心にガンダムとハンマーがメリーゴーランドのように回っている(図3右)。これではアムロはたまったものではない。ハンマーを回す角速度にもよるが、アムロはコックピット内でシェイクされ、最低でも乗り物酔いか気絶、最悪の場合は死亡の危険がある。

 これを踏まえ、アムロが無事に戦闘を継続できるよう、ガンダムがその場で静止するために必要な推進力(fx,fy)を考えてみる。ガンダムが静止している条件を考えると、速度・加速度がゼロであるため、x=y(ともに上にドットが付く)=x=y(ともにドットが2つ付く)=0が条件となる。これを図2(上)の式に代入すると図2(下)のようになる。この力(fx,fy)をスラスターで完璧に実現できれば、ハンマーを振り回してもガンダムはその場でとどまることができる。作品中では描かれていないが、AMBACとスラスターの推進力により反作用の力を相殺することで、アムロへの影響を最小限にしているであろう。

 とはいえ、これでは推進剤を大量に使用することになる。その使用量を最小限にとどめたいのであれば、ガンダムとハンマーがともに回転しつつ、公転運動をしながらザクに突撃し、ガンダムハンマーをタイミングよくぶつければよい。だが、こんな戦闘シーンはダサく、何らかの方法で推進剤の使用を最小に抑えつつ、うまく姿勢制御をしていると考えたい。

ロボット専門サイト「ロボナブル」連載「勝手に制御分析 あのロボットはどう動く」を再編集。        オリジナルの原稿は、福岡工業大学の木野仁教授が執筆しました。

COMMENT

たいへん簡単に説明したが、ロボットを意のままに動かそうとすると、数式で表現された抽象世界と力学で支配された現実世界をうまくつなげることが必要であり、その役割を果たすロボット制御工学が存在する。ロボット研究者は日々、数学およびロボット制御と“格闘”してロボットをうまくてなずけている(動かしている)のである。

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