ニュースイッチ

鉄鋼業界、利幅確保に腹くくる。値下げをけん制

鋼材価格の下げ相次ぐ。さらに安価な輸入材にも危機感
鉄鋼業界、利幅確保に腹くくる。値下げをけん制

原料価格の下落などで鋼材の値下げが相次ぐ(新日鉄住金君津製鉄所)

 鉄鋼業界がスプレッド(原料価格と鋼材価格の差、利幅)の確保に腐心している。原料価格の下落や実需の低迷に伴い、鋼材価格の下げが相次いでおり、さらに中国材など安価な鋼材が市場のかく乱要因になりかねないためだ。
 
 【要請をけん制】
 「全体的に見ると原料価格は下げ止まっている。ほかの要因を見ても、雇用環境が良くなっていて賃金は上昇しているし、国内の物流コストも上がっている」。JFEスチールの柿木厚司社長は、主要ユーザーとの価格交渉に臨むに当たり、過度な値下げ要請をけん制する。

 “ひも付き”と呼ばれる主要顧客向けの鋼材は、年度または半期ごとに交渉して決める。新日鉄住金とトヨタ自動車による上半期(4―9月)のいわゆる“チャンピオン交渉”で、ひも付き価格は1トン当たり数千円の下げで決着したもよう。鉄鉱石や原料炭など主原料の価格下落を受け、3半期連続での値下げとなった。

 【支給材価格下げ】
 これを受け、トヨタは系列部品メーカーに供給する下半期(10―3月)の支給材価格を同6000円引き下げる。チャンピオン交渉での下げ幅は闇の中だが、業界関係者の間では同3000円弱との見方が多い。かつて、ひも付きと支給材の価格は連動していたが、最近はそれが乖離(かいり)。

 しかも、そのずれを次の半期で調整する動きもあり、関係者からは支給材価格が市場で一人歩きすることに懸念の声が漏れる。今回はひも付きの下げ幅を大きく上回ったため「これに引きずられて、実態以上に市場価格が下がるかもしれない」(鉄鋼商社関係者)と不安視する。流通業者にとってのスプレッド(調達価格と販売価格の差)も縮まりかねないためだ。

 【強いメッセージ】
 一方、電炉業界でも需要が低調なのに加え、主原料のスクラップの値下がりを受け、先安観が市場を支配。東京製鉄は10月契約価格を一気に引き下げた。その幅は1トン当たり5000円から最大1万3000円。「これで市況を底入れさせるという強いメッセージだ」(今村清志常務)と述べるように、先安観の払拭(ふっしょく)が狙いだ。

 同時に意識するのが安価な輸入材。絶対量はまだ少ないものの、「国内への売り込みが激しくなってきた。さほど成約されてはいないが、その値段だけが市場に悪影響を与えている」(同)と警戒。中国のみならず、玉突きで台湾や韓国からの流入もあり、その対抗上の値下げであることも強調した。もっとも、それは自らの首を絞めかねない。「原料のスクラップも下がっており、スプレッドが縮まらないように経営していく」と利幅の死守に向け、腹をくくっている。
日刊工業新聞2015年09月29日 素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
世界的に中国の需要減が響いて原料価格が今後上がってくるという状況にはないだろう。原料価格がじりじりと下がり続ける中で、販売価格も原料価格の動向に引きずられる。怖いのは国内の需要が思ったほど盛り上がらない中で、鋼材のだぶつきが原料価格の下げ以上の販売価格の下落につながらないかだろう。鉄鋼各社が実需に見合った生産を続けられるかが焦点だ。

編集部のおすすめ