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金属3Dプリンターは中小の切り札となるか―利点、欠点を見極めろ

都産技研、導入から2カ月で見えてきた課題
金属3Dプリンターは中小の切り札となるか―利点、欠点を見極めろ

都産技研の3Dプリンターで作ったサンプル品。中央がジェットエンジンの内部部品で使われる遊星ギア。右がタービンブレード。左がエアフォイル(手前は大きさ比較の万年筆)

 東京都立産業技術研究センター(都産技研)本部が金属3Dプリンターを導入し、機器利用サービスを始めて2カ月余。この間に20―30社から相談があり、10社の試作品開発を支援した。開発型中小企業のモノづくり支援の切り札として期待されているが、半面で導入後に見えてきた課題もある。
 

まだ余力あり


 金属3Dプリンターの造形品材料は、ステンレス鋼17―4PH(SUS630相当)の粉末を使う。材料費は1件50グラムごとに922円と高価だ。チタン材料を使いたい場合は、提携する東京理科大学を紹介する。
 持ち込まれた相談案件は20―30社あったものの、割と単純な形状のものが多く、実際に造形まで至ったのは半分以下にとどまる。強度などを設計変更する際、取引先に承認を得る必要があるためで、都産技研の三尾淳開発本部開発第一部部長兼機械技術グループ長は「どんなモノになるのか、各社が確認している段階」だと言う。稼働率は現時点で60%と、まだ余力がある。

複雑形状でも積層10時間


 金属3Dプリンターの強みは、タービンブレードやジェット機のジェットエンジンに組み込んで使う遊星ギアなど複雑な形状でも、積層しながら10時間程度で簡単に試作品ができる点だ。例えばタービンブレードは今は鋳物で作られている。湾曲したブレードの内部に端から端へと穴を通す場合、入子を入れ、母型から外した後に入子を取り除く処理が必要だ。これに対し、金属3Dプリンターで作れるようになれば、その工程は不要になる。
 また、遊星ギアは粉末冶金では型抜きができないため、分割した製品を組み立てて作っている。金属3Dプリンターなら、この組み立て工程が省ける。造形品のサイズ変更も3次元CADで作成したデータを転送するだけ。金型を一から作り直さないですみ、試行錯誤する時間を短縮できるのが特徴だ。

金型が不要になることはない


 ただ、どんなものでも造形できる夢の装置とはいえないようだ。斜め30度よりも水平に近い造形品は「材料の重みで積層できず作れない」という弱点がある。金属3Dプリンターの登場により、一時期は金型が不要になると言われたが「現時点でそれは全く考えられない。量産品は金型で作るのが有利で、金型も必要」という。
 とはいえ、サイズ感が分かりやすく、最終製品に近い環境でテストが行えるため、一点モノや量産向きでない製品に強みを発揮するのは間違いない。都産技研は12月中にCNC普通旋盤を1台新設し、2016年2月から依頼試験の受け付けを始める。熱処理やビルドプレートからの切断、サポート材の除去など後加工まで一貫して請け負う計画だ。
(文=大塚久美)
日刊工業新聞2015年09月28日 中小企業・地域経済面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
一時期かなり注目が高まっていた金属3Dプリンター。万能とまではいきませんが、特性を見極めうまく使えば開発が早く有利に進みそうです。組み立てが不要になるなどの可能性にも期待。

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