感測×LINE×AIがポイント!ウェザーニューズの自治体向け防災サービスは、職員の負担を大幅軽減する

「防災ハンドブック2020年度保存版」(日刊工業新聞社)より抜粋

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ウェザーニューズは、全国に設置する独自の観測インフラに加え、「感測」というウェザーリポートを合わせた精度の高い観測情報を元に、自治体や企業に対し「防災気象サービス」や「防災チャットボット」などの防災関連サービスを提供している。(取材・平川 透)

国内屈指の独自観測インフラ

ウェザーニューズは、日本各地に局地的な気象現象をとらえる気象観測レーダーである「WITHレーダー」を約80カ所、気温や湿度などを観測する「WITHセンサー」を約3,000カ所設置するなど、独自の観測インフラを築いている。「気象の予測と情報を提供する際にもっとも重 要なのが『今を知る』ことです。そのために、気象庁などのさまざまな機関が持つ気象情報はすべて収集していますが、それだけでは不十分です。ここまで多くのインフラを整備している機関は国内では他にありません」と、防災気象チームのチームリーダーで気象予報士の山崎育正さんは語る。

それに加えて、同社の収集情報の中でも特徴的 なものが「感測」だ。感測とは、同社が運用する スマートフォンアプリ「ウェザーニュース」の会 員から送られてくるウェザーリポートである。会 員は、自分のいる場所の天気や空の様子をテキス トや画像で同社に報告する。会員からの情報は自 動で解析され、各地の気象状況の分析に役立って いる。

感測でないと測れない気象情報がある。たとえ ば、「気象庁のアメダスでは地上に降って来てい るものが雨なのか、雪なのかは測りにくいのです が、人であれば容易に見分けがつきます」(AIイ ノベーションセンターの萩行正嗣さん)。感測の 取り組みは2005年に開始され、現在では1日に約 18万通、台風のような悪天候時では約25万通が リアルタイムで送られてくるという。

「災害リスクスケール」で判断基準を提供

「防災気象サービス」とは、自治体や企業の防 災担当者向けサービス。パソコンのウェブブラウザ上で情報を提供する。現在、約250の自治体や 企業が導入している。このサービスは、警報が出 されるような荒天時に、防災計画に基づいた配備 体制をとるための具体的な判断を支援する。

判断基準は、「災害リスクスケール」という形 で提供される。災害リスクスケールとは、各自治 体の警戒レベルと体制規模が紐づいた0〜5の6 段階のレベルで、各レベルに応じた体制のとり方 を推奨する。たとえばレベル0は「平時」、レベ ル3は「警戒配備体制」、レベル5は「災害対策 本部立ち上げ」といった具合だ。大雨、風、河川 氾濫、内水氾濫、土砂災害の各リスクスケールを 72時間先まで提供する(図1)。

図2 防災気象サービスの画面例

サービスを提供する際に、当該自治体の過去の 被害状況を分析。被害の発生とその時の気象状況 を照らし合わせると、たとえば「どの程度の雨量 で、どの程度の被害が発生するかがわかる」(山 崎さん)という。この分析情報と自治体ごとの体 制種別を照らし合わせることで、個別に具体的な サポートを可能にしている。

サービスの特徴は「配備人員の最適化」と「配 備体制のタイミング」だ。

「気象庁の災害警報は安全に配慮し長めに発令 されることがあります。そのため晴れていても警 報が出ている場合があり、警報が出ている以上、 自治体は体制を維持しなければなりません。その 時々に最適な人員を配備するための判断材料が必 要です。さらには体制をとるタイミングも重要。 たとえば、ゲリラ豪雨が発生した時、警報が出た 後では対応が間に合わないケースもあります。警 報が出る前から『これからゲリラ豪雨がありま す』などといった事前のアナウンスも行っていま す」(山崎さん)

事前の注意喚起や事後のサポートもサービスに 組み込まれている。

同社独自の5日先までの台風予測情報など、各 種解説資料を交えながら「この先、大雨になる可 能性がありますよ」などといった注意喚起を早い 段階から行っている。また、自治体は配備体制を とった場合には、事後に気象状況や体制などにつ いての報告書を作成しなければならない。「報告 書をスムーズに作成できるようにサポートもして おり、必要な情報はウェブブラウザ上で簡単に見 られるようにまとめています」(山崎さん)

防災チャットボットで被災者とコミュニケーション

「防災チャットボット」とは、メッセージアプリ「LINE」などのSNSを通じて人工知能(AI) が自律的に被災者とコミュニケーションをとり、 被災者の安否確認や避難場所、不足物資などの災 害関連情報を自動で抽出・集約し、被災者に必要 な情報を届けるシステムである。台風やゲリラ豪 雨、地震、火災などあらゆる災害を想定してい る。

防災チャットボット(対話型災害情報流通基盤 システム)の開発はウェザーニューズが参画する 国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プ ログラム(SIP)」の中で防災科学技術研究所、 情報通信研究機構などと共同で2018年度より始 まった。SIPでの開発成果を社会実装につなげる べく2019年6月に「AI防災協議会」が設立、さ まざまな実証実験を行っている。損害保険ジャパ ン日本興亜、SOMPOリスクマネジメント、東京 海上ホールディングス、ヤフー、LINE、ワーク スモバイルジャパンの6社と、前述した研究機関 や28の自治体などが参画している。

防災チャットボットは、開発中のものを含める と3つの機能に大別できる。1つは情報収集機 能。LINE上で、ユーザーに周辺での出来事や位 置情報、さらには写真などを送ってもらうと、チ ャットボットが収集し、「今、そこで何が起きて いるのか」を判断する(図2)。

2つ目は情報配信機能。LINEのプッシュ通知 機能を応用し、災害の情報を配信する。ユーザー が所在地(住所)を登録すると、その地域の細か い雨量データに基づいた注意情報などを配信す る。設定によって、河川の水位情報なども提供す る。

開発に携わっている萩行さんによると、従来の サービスとの違いはユーザーにあわせて細かい情 報を提供できることだという。

「たとえば、ある自治体に登録していると、そ の自治体からの警報・注意報が届く仕組みは一般 的ですが、自分に深くかかわる情報を探すために は、その自治体が配信する情報を満遍なく見なけ ればなりません。開発中の防災チャットボット は、登録された位置情報に基づいてその地域の情 報をピンポイントに提供します。町丁目の単位で 情報を配信する予定です」

3つ目は問い合わせ機能(図3)。実際に2019 年に台風第15号と19号が甚大な災害をもたらし た際には、住民からの「罹災証明」に関する問い 合わせに対応した。

図3 住民からの問い合わせに応対する防災チャットボットの画面例

「罹災証明のとり方は通常、多くの住民の方は 知らないため、行政の窓口に出向き、職員から説 明を聞き、必要な書類に記入して申請するという 流れになります。行政側の職員は、どうしてもそ の対応に手間どってしまう。住民はチャットボッ トを利用すれば、被災証明を取得するにはどのよ うな手続きが必要なのかをLINE上で尋ねること ができるのです」(萩行さん)

また、家屋の被害判定にかかわる情報を提供す ることもできる。一般的には罹災証明は公的な補 助を受けるための仕組みだが、住民によっては民 間の保険に加入しているケースも多い。

「カーポートの屋根や物置が壊れた場合は、行 政機関では『家屋ではないので損害判定できませ ん』といった対応になり得ますが、民間の保険で は保険金がおりる可能性があります。被災者の必 要な情報を一度引き受けて、『そのケースでは、 この機関からこのような対応を受けられるかもし れませんよ』といった情報をAIが回答します」 (萩行さん)

問い合わせの方法は2つある。1つはテキスト 入力で、AIが意味を読み取る仕組みだ。もう1 つはメニュー選択形式。たとえば、「家が壊れた」 を選択すると、次に「どんなことに困っています か?」という質問が表示される。さらに、「直し たい」「保険を受けたい」といった回答を選択し ながら目的の情報まで進む。

台風第15号で被災した千葉県で一定の成果

防災チャットボットは、一般向けに広く使われ ることを想定して開発されているが、特定の機関 や専門職向けの仕様にすることも可能だ。

2019年の台風第15号で被災した千葉県は、復 興が進む中で問い合わせ窓口の対応が増えること が見込まれた。行政職員の負担軽減とサポートの ために防災チャットボットを実装した「千葉県災 害2019」LINE公式アカウントを緊急で開設し、 住民の問い合わせに対応した。サービスを開始 後、2週間で約7,000件の問い合わせを受け付け た。

写真1 茨城県で実施された防災チャットボットを用いた実証実験(2019 年7 月)

「もし、7,000件の問い合わせを職員が電話など で対応した場合を考えると、職員の労力削減に大 きく貢献できたと考えています。また、問い合わ せたユーザーの満足度を調査したところ、6〜7 割ほどのユーザーから『満足した』という回答を いただいています」(萩行さん)

今後も各地で実証実験を続けながら開発を進め る(写真1)。被災直後の避難行動から数カ月先 の避難生活まで一貫して支援するサービスを目指 す。また、自治体向けのサービスとしては、 FAQ(よくある質問)を自治体が用意すれば、 すぐに導入できるシステムを検討中だという。


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 この数年、記録的豪雨にともなう広域的かつ同時多発的な河川の氾濫や土石流などにより、多くの死者や行方不明者を含む人的被害や住家被害が発生している。それに加えて電気や上下水道のライフラインをはじめ、交通インフラなどが甚大な被害を受け、市民生活が脅かされている。
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「防災ハンドブック2020年度保存版」(日刊工業新聞社)より

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