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アリから学ぶ社会性の進化、環境と生命機能の関わり

アリから学ぶ社会性の進化、環境と生命機能の関わり

(左)クロオオアリの女王アリと働きアリ(右)胸部に個体識別バーコードを付けた働きアリ

【個体を追跡】

私たちは家族や友人、仕事の同僚など他者との社会的な関わりをもって生活している。社会的なストレスは消化機能の低下やさまざまな疾患の発症を引き起こし、また寿命を短縮させる要因の一つでもある。社会環境と生命機能の関わりを理解することは私たちの健康の維持や向上につながる。

また、社会と健康の関わりはヒトだけではなく、霊長類やげっ歯類などの哺乳動物に加え、アリやハチといった社会性昆虫にも共通して見られるが、その制御の仕組みや社会性の進化、起源には未解明の問題が多く残されている。

社会性昆虫であるアリは女王アリや働きアリからなる社会集団で生活するが、1匹だけ隔離して飼育すると寿命が顕著に短縮することが報告されている。産業技術総合研究所(産総研)では、QRコードのような個体識別バーコードをアリの胸部に付けて個体の行動を追跡した。隔離されて孤独になったアリは長時間歩き回り、まるで一緒に暮らしていた仲間を探すかのような行動を見せた。

【寿命が短縮】

また、孤独になったアリは餌を十分食べているにも関わらず餌の消化が滞っており、活動量の増加に伴うエネルギー消費を補えずに寿命が短縮すると考えられる。生態や生活史、進化の歴史はヒトとアリでは大きく異なるにもかかわらず、消化機能の変化など社会環境に対して共通した生命応答が見いだされた。

哺乳動物では、社会性行動を制御するオキシトシンという内分泌ホルモンが注目を集めている。このホルモンは種を超えて広く保存されており、アリを含む多くの昆虫もオキシトシン様ホルモンを持つことが分かってきたがその機能は不明であった。

【ホルモンの役割】

アリの社会の大多数を占める働きアリは、若い時は巣の中で子育てを担当し、加齢に伴って仕事をスイッチさせて巣外に出て餌取りを行う。産総研は東京大学、ローザンヌ大学と共同で、年老いた働きアリではオキシトシン様ホルモンが多く発現して体表面の炭化水素の合成を促し野外環境でアリが長時間活動するための乾燥環境への耐性に関わることを見いだした。

オキシトシン様ホルモンはアリでも社会性と密接に関わり、労働分業を支える体づくりを制御することが分かった。今後もアリの社会と向き合い、種を超えて保存された社会性を制御する仕組みを解明し、ヒトについても社会と健康の関わりを理解するための研究を目指したい。

◇産総研 生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループ 主任研究員 古藤日子
東京都出身。専門は行動生態学、分子生物学。2017年に産総研に入所。子どものころは昆虫が苦手だったが、アリを研究対象としたことから、今ではその不思議な生態系と柔軟な行動能力に魅了されている。アリの女系家族のしなやかな子育てに学びながら自身も育児に奮闘中。
日刊工業新聞3月19日

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