銀行・カード、インバウンド対応加速―「おもてなし」商機広がる

「現金しか使えない」、「日本円の引き出しや両替をしにくい」の声に対応

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海外発行カード対応で先行するセブン銀行のATM
 銀行やカード会社など金融業界で、訪日外国人(インバウンド)関連のサービスが加速している。インバウンドを対象としたビジネスマッチングや融資などの取り組みが始まったほか、海外発行カード対応現金自動預払機(ATM)の設置を増やす。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、インバウンド事業者向け支援から金融インフラの整備まで幅広い取り組みが進んでいる。

 15年1―8月の訪日外国人は前年同期比49・1%増の1287万人と大幅に増加した。今後も拡大が見込まれ、インバウンドを対象とした大きな商機を取り込もうと銀行も取り組みを強化している。

インバウンドビジネス支援強化


 日本政策投資銀行(DBJ)は地域経済活性化支援機構やリサ・パートナーズと共同で組成した観光ファンド「観光活性化マザーファンド」を総額13億円から52億円に増額。3者は全国規模としては初となる同ファンドを14年4月に立ち上げ、これまで北海道の知床グランドホテルや、岐阜県の舩坂酒造店などへの融資実績がある。今後も観光産業への投融資が続くと判断し、ファンド規模を拡大した。

 みずほ銀行は8月に、三井住友銀行は9月に、インバウンドをテーマにしたビジネスマッチングをそれぞれ初めて実施。三井住友銀行の商談会参加企業は約320社で、約620件の契約成立を見込んでいる。

 また、新生銀行がインバウンド観光を促進するやまとごころと組んで開いたセミナーには、企業や地域金融機関など約180人が参加。新生銀行の吉川貴志執行役員は、地方都市がインバウンドビジネスを成功させるには「海外との関係構築による国際、広域連携の地際、複数業種間で連携する業際の3際が大切だ」と説いた。

 今後も訪日外国人の増加が見込まれるが、バスや宿泊施設の不足、人材不足、魅力あるコンテンツ開発など課題は多い。こうした課題解決のために銀行が果たせる役割は、これから大きくなっていくだろう。

ATMも海外対応


 また、金融インフラの整備としては、3メガバンクが海外発行のクレジットカードやキャッシュカードでも現金を引き出せるATMの設置に向けて動き出す。日本と海外では磁気テープの位置が異なるため、日本の既存ATMでは海外発行のカードが利用できない。

 そこで、みずほ銀行や三井住友銀行は15年度から、三菱東京UFJ銀行は16年春をめどに海外発行カード対応のATMを順次設置する。三井住友銀行は16年度中には1000台の設置を計画し、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行も将来は1000台の設置を目指す。

 この分野で先行するセブン銀行は、14年度の海外発行カード利用件数が400万件を突破。引き出し総額が約2000億円と、取扱額を増やしている。15年度は600万件の利用を見込むが「4―6月の利用件数は計画を上回る」(広報)と好調さを示す。最近は、外国人が多いイベントやクルーザーの寄港地などで、車両にATMを乗せた移動ATMの要望が来ているという。もともと災害地での利用を想定していたが、インバウンド関連のニーズも出ている。

 今後は対応言語を現在の英語や中国語など5言語から、12月頃にはタイ語やマレーシア語などを加え12言語とし、利便性を向上させる。セブン銀行の二子石謙輔社長は「(利用件数)1000万件突破を当面の目標にして頑張る」と意気込んでいる。

クレジット、多通貨決済


 カード業界でも、インバウンド需要を取り込もうと積極的だ。地方の観光地を中心にカードを利用できる店舗拡大に努めるほか、カード決済の際に円建てか自国通貨建てかを選べる多通貨決済サービスを提供している。自国通貨建てを選べば、決済時の為替レートで支払いができるため、カード会社から請求される際に為替レートの変動リスクを心配しないで済む。

 また、三井住友カードは免税書類の発行もできるカード決済端末の取り扱いを秋に始める。カード決済に加え、パスポート情報の読み取りや免税書類の作成・プリントアウトが1台でできる。日本では店舗側が免税手続きをするため、手書きで書類を作成する店員の負担軽減に貢献する。同社はカードショッピング取扱高で、14年度の10兆円から20年度には15兆円以上を見込む。カード利用拡大を図る一方で、セキュリティーの高いIC化にも業界を挙げて取り組んでいる。大手各社は、20年までにカードのIC化100%を目指す。

 百貨店やコンビニエンスストアなどでの訪日外国人の消費額は、日本人の2倍以上とも言われている。しかし、訪日外国人を対象にした日本観光での不満調査では、「現金しか使えない」や「日本円の引き出しや両替をしにくい」が上位に入っている。今後、さらに日本で消費をしてもらうためには、訪日外国人が自国で買い物やサービスを受けるのと同様に、「日本でもストレスフリーにしていく」(井上治夫三菱UFJニコス社長)ことが求められる。
(文=湯原美登里)

日刊工業新聞2015年09月25日 金融面

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昆梓紗
デジタルメディア局
記者・編集者

春節の時期には、中国語で書かれた「ATMが便利です!」の広告をたくさん見かけました。

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