ノーベル賞から3年、京大iPS細胞研究所は今―心臓再生へ産学連携

「患者さんのため」 ベンチャー企業とのタッグで具現化近づく

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京大iPS細胞研究所ではiPS細胞で心筋細胞などを作製し、心臓再生を目指す
 ノーベル賞の発表の季節が近づいてきた。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)所長の山中伸弥教授が2012年のノーベル生理学医学賞を受賞してから3年。そのiPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究では、山中教授が声を大にする「患者さんのために」が具現化しつつある。CiRAで産学連携による“次世代”の再生医療をにらんだ研究室を訪ねた。

「新しい治療を開発しなければならない」 


 CiRAの増殖分化機構研究部門でiPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)を用いた心血管系の細胞分化・再生を研究しているのが山下潤教授だ。iPS細胞で心筋細胞などを作製し、心臓再生を目指す。

 国内では100万―140万人いるとされる心不全患者。その心不全の中で重症心不全の患者数は約30万人と推定され、重症と診断されると1年以内に約半数が亡くなるといわれている。治すには心臓移植しかない。ただ、ドナー不足を背景に心臓移植自体は国内でも年間30件程度しか実施されていない。

 この状態を解決しようと、山下教授とタッグを組む形で立ち上がったのが、バイオ関連ベンチャー(VB)として13年設立したiHeart Japan(京都市左京区)の角田健治社長だ。VB発足以前はベンチャーキャピタル(VC)でバイオVBへの投資の仕事を請け負っていた角田社長は「再生医療の分野に携わっていた時に、山下先生を紹介いただき、可能性を感じた」と振り返る。

 同社は3種類の分化誘導した細胞と心筋前駆細胞を用いた細胞医薬品、タカラバイオと連携する研究用に使うリサーチ・ツールを手がける。山下教授からは関連発明5件の知財を譲り受けている。臨床試験(治験)などを経た3―4年後の本格投入を見通す細胞医薬品は「市場規模は大きい」と角田社長は話す。

 山下教授は「(角田社長の)訪問を受けるうちに産業化への理解が深まった。新しい治療を開発しなければならないと思った」と話す。iPS細胞から分化誘導した細胞を多層化して重症心不全患者の心臓に貼り付ける細胞医薬品で、最終的に目指す実用化に向けた連携を受け入れた。

治験は2018年目標


 「しっかり準備した上で、全力で取り組みたい」と治験の実施時期について18年を目標にする山下教授。「新しいメカニズムをどんどん見つけ出すのが自分の仕事。その中で製品化し、産業化できる技術は、iHeart Japanに応用してもらう。そのスタンスは変わることはない」(山下教授)と強調する。

 CiRAの山下教授研究室に足しげく通う角田社長は「10年後は(再生医療分野で)心臓以外に進出しているかもしれないが、当面は心臓一本」と力を込める。山中教授のノーベル賞から3年。山下教授は「さまざまな企業との連携を含めて、(受賞効果は)やはり大きい」と実感する。

 iPS細胞をめぐっては「iPS細胞ストック」の提供が8月に開始されるなど裾野は広がりつつある。「再生医療」と「創薬」の両面で難病治療への貢献が期待されるiPS細胞。CiRAでも、産学連携がiPS細胞の応用拡大のカギとなりそうだ。
(文=京都・林武志)

日刊工業新聞2015年09月24日 科学技術・大学面

COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局DX編集部
記者

大変な期待がかかるiPS細胞を使った再生医療。事業化を加速させるためにも産学連携は有効な手段です。特にベンチャー企業との交流は大学にとっても刺激になるのでは。

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