停滞打破へ競合共演、めんたいこがITで新境地
博多の庶民の味として親しまれてきた辛子めんたいこ。誕生から70年以上たち、贈答品や土産として全国に広まった。だが近年は菓子などとの競争が激化して需要は停滞気味。そんな現状を打開しようと最新技術やライバルとの連携、海外展開など前例のない方法を駆使して需要を創出しようとするメーカーの動きが見えてきた。(取材=西部・高田圭介)
【IoTで計量】
ふくや(福岡市博多区)は2019年4月、IoT(モノのインターネット)を活用する自動配送サービス「ふくやIoT」のモニター募集を始め、実証に乗り出した。冷蔵庫内に置く専用トレーの重量センサーのデータから消費量を予測し、なくなる前に配送するサービス。辛子めんたいこを生み出した老舗とIoTによる珍しい組み合わせが募集開始の4月1日にちなみ「エープリルフールのよう」とインターネット上で話題になった。
このIoTには「いつも、おいしい、とどく」との意味がある。これまでも定期配送は展開していた。ただ、家庭ごとに消費の速さは異なる。タイミング良く届ける仕組みを築き、これまで知る機会が少なかった消費のデータを得てマーケィングにつなげる狙いもあった。モニター配送では消費傾向が見える効果も出た。一方でLINEや会員制交流サイト(SNS)による通知や水やコメなど他の食品とセットでの広がりも検討していく。
【頂上決戦】
普段はライバルでありながら「業界初」の動きを進めるのは久原本家(福岡県久山町)、島本食品(同新宮町)、稚加栄(福岡市中央区)の3社。2月、クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で「頂上決戦」と銘打ち、食べ比べ商品の販売を始めた。
横の関係で連携する動きが弱いとされてきた業界の歴史を背景に今回の企画も「難しいかも」と思われた。しかし、島本食品の提案に2社は「本当においしいものを提供する機会を」と応え、志を同じくした。
マクアケでの販売は当初の目標を大幅に超え、500万円に迫る勢い。3社だけでなくプロジェクトの輪を広げ、学校へのレシピ教室の提案など協調して展開を広げていく。
【アジア系照準】
海外への動きも出ている。博多辛子めんたい協同組合(福岡市南区)は15日から、米ボストンで開かれる水産品関連の展示会への出展を予定する。会員5社が業界内の結束力向上や米国での需要創出を狙い、魚卵を食べることへの抵抗が少ないヒスパニック系やアジア系を中心にPRを図る。
総務省の家計調査年報によると、18年の「たらこ」の1世帯当たり年間支出額は1699円。この10年で約7割の水準に落ち込んだ。パスタやおにぎりなどの具材として用途は広がる一方、業界全体では淘汰(とうた)への危機感もある。従来の延長線上にある動きを超えた辛子めんたいこメーカー各社は、初めての取り組みに刺激を受けながら生き残りへの道を探る。