伝統野菜でこだわり食品、販売会社「非効率だからファンが生まれる」
石井食品は5日、都内で「木之山五寸(このやまごすん)にんじん」を紹介する記者会見を開いた。愛知県大府市で古くから作られてきた伝統野菜で、強い甘みが特徴だ。同社は素材を生かしたスープ、ハンバーグ、まぜごはんの素を全国発売すると発表した。
石井食品と言えば「ミートボール」や「チキンハンバーグ」が思い浮かぶ。実際、この2商品の売上高が全売上高100億円の8割を占める。看板商品を持ちながら、伝統野菜を含めた地域の食材を加工した商品開発を進めている。連携する地域は30カ所。大量生産ができる看板商品に比べ、調達量や収穫季節が限られる産地との取り組みは「不効率」に思える。実際、木之山五寸にんじんの栽培農家は4軒のみだ。
産地との連携について石井智康社長は「慈善事業ではない。いい素材でおいしい商品をつくるため」と言い切る。あくまで良質な商品を追求した取り組みだという。加えて「日本人がおいしいものを食べられなくなる」という危機感も同社を突き動かす。
【産地と連携】
背景にあるのが農家の減少だ。野菜の価格決定権は生産者になく、買いたたかれることがある。しかもメーカーや卸し、店舗を介す多層な流通構造があるため、生産者が消費者の感想を聞くこともまれだ。やりがいなければ後継者も現れない。「農家を魅力的な職業にする」(石井社長)ことで、おいしい野菜を国内調達できる環境を残そうと産地と連携した商品開発を進める。
実は「不効率」な取り組みは今回が初めてではない。1997年、全商品の添加物不使用を宣言した。添加物は均一な味付けや保存性の向上に便利な素材だが、人体への影響を心配する人がいる。すべての添加物に健康被害が疑われるわけではないが、消費者には理解しづらい。一部商品だけを無添加にしても中途半端なため、全商品を無添加にした。「無添加にできない商品は生産をやめたので、売上高が落ちた」(同)といい、業績を犠牲にした決断だった。
【非効率にファン】
石井社長は「非効率だからファンが生まれる」と確信する。非効率は手間がかかる分、人との接点が多くなるからだ。全商品無添加だから食の安全を重視した企業姿勢に説得力があり、評価する取引先が多い。珍しい伝統野菜だから消費者は興味を持ち、ファンになる。生産者もファンになると同社のためにこだわりを持って野菜をつくる。根強いファンほど事業を支えてくれるので、石井食品も持続可能になる。