2億円以上する電子顕微鏡をシェア、ベンチャー企業の勝算
ANMIC(アンミック、茨城県つくば市、井上佳寿恵社長、050・3555・6778)は、電子顕微鏡のシェアリングサービスを5月に始める。高額な電子顕微鏡を複数の企業でシェアする仕組みを創出。併せて関連技術の人材育成を提供することで、日本の産業競争力強化に貢献することを目指す。
アンミックは、物質・材料研究機構(物材機構)に勤務していた井上社長が2019年8月に設立したベンチャー企業。20年5月までに起業支援施設のつくば研究支援センター(つくば市)内に面積約50平方メートルの部屋を借り、電子顕微鏡1台を設置してサービスを開始する。電子顕微鏡そのものはレンタルリース会社の所有物で、アンミックはサービスの運営と人材育成を手がける計画だ。
シェアリング装置の1号機は、日本電子の電子顕微鏡「JEM―F200」を設置する。透過型電子顕微鏡(TEM)の高性能機で、分解能と機能の拡張性に優れる。原子レベルの観察や、試料を加熱した際の変化のリアルタイム観察などが可能で、利用者の多様な要望に応えられる。
「高額な装置を購入しても新機種の登場で技術が陳腐化してしまうのを防ぎ、常に最先端の測定技術を利用できる」と井上社長はシェアリングのメリットを説明する。電子顕微鏡は2億円以上もする高価な装置だが、今回はレンタルリース会社との協業により、シェアする装置を1―2年で入れ替えることで常に最先端装置の利用環境を提供する。
【利用は会員制】
サービスの利用は会員制とする。利用目的でプランを分け、メーカーや研究機関が研究開発用途で利用する場合はベーシックプラン(年会費370万円)、受託解析会社などがビジネス用途で利用する場合はビジネスプラン(同780万円)を用意。1台の装置を約10社でシェアし、会員は1日単位で予約して装置を利用する。
これまで、国内での同様のシェアリングサービスは物材機構などが提供していた実績はあった。ただ、国費を一部活用して運営していたため、受託解析目的での利用ができず、データを完全非公開にできないなどの制約があった。今回は完全に民間で運営するため、これらの制約はなく、幅広い用途での利用が可能になる。
人材育成にも注力する。大学の研究者らを技術アドバイザーとして迎え入れ、測定技術のセミナーや講習会を開く計画だ。電子顕微鏡の測定技術者は、大学や研究機関で任期制の職員として採用されることが多く、人材が育ちにくいと言われてきた。測定データは利用者それぞれの機密事項とする一方、測定手法や人材育成の知見は多くの企業で共有する仕組みを構築する。
【共創の場づくり】
井上社長はもともと物材機構で任期付きの事務職員として働いていた。業界関係者のニーズを聞く中で、「技術の詳細は分からないが、自分にも関係者をつなぐ役割が果たせるのではないか」と感じ、会社の設立を決めたという。井上社長は「事業を通じ、共創の場づくりをしていきたい」と話している。(取材=茨城・陶山陽久)