何かと話題のJDIが“新インセル液晶”量産へ。そしてシャープは・・
狭額縁化や黒色の表現力が高いのが特徴。高機能ニーズが高まる中国スマホメーカーに提案
ジャパンディスプレイ(JDI)は、新開発の第2世代インセル技術(用語参照)を採用したスマートフォン向け液晶パネルの量産を年内に始める。液晶パネルを囲む枠の幅を細くできる狭額縁化や、黒色の表現力が高い点などが特徴。中国スマホでは高機能ニーズが高まっており、現地メーカーなどに提案する。JDIはインセルで先行したが、競合他社も急速に巻き返している。いち早く新技術を展開し競争力の維持・向上を狙う。
JDIは「ピクセルアイズ」の名称でインセル技術を展開している。近く量産を始めるピクセルアイズ第2世代は、狭額縁化や黒の表現力のほか、ぬれた手で触れても誤作動しにくい点、より細い電子ペンで線を描ける点が特徴。茂原工場(千葉県茂原市)で生産するとみられる。
インセル技術は、スマホの高付加価値化や低価格化につながるため主に中国メーカーで採用が拡大している。JDIは2013年に5インチフルハイビジョン(FHD)仕様の大型・高画質パネルをピクセルアイズに対応させ量産を始めた。顧客開拓の原動力となっており、同社の15年4―6月期の中国スマホ向けパネルのインセル比率は70%を超えている。
一方、シャープや韓国LGディスプレイも大型・高画質に対応したインセルパネルの量産に乗り出している。JDIは他社に先駆けて差異化技術を展開し、競争優位性を確保する戦略で、そのためにも、ピクセルアイズ第2世代の投入を急いでいた。
【用語】液晶パネルのインセル技術=タッチセンサーを液晶の画素に内蔵する。生産における歩留まり改善などで高いノウハウが必要になるが、タッチセンサーを外付けする従来方式と比べ、パネルを軽量・薄型化できる。また工程数や部品点数を減らせるためコスト競争力にも優れる。
経営再建を進めるシャープは、中国スマートフォンメーカー向けでタッチパネル機能を内蔵したインセル型液晶の量産を6月に始め、先行するジャパンディスプレイ(JDI)に「真っ向勝負」(方志教和シャープ専務=当時)を挑む。今後は価格競争が激しい小型液晶よりむしろ、タブレット端末や業務・教育用ディスプレー、車載向けといった中・大型液晶が主戦場と判断。独自の「IGZO(酸化物半導体)」液晶と、タッチパネル高感度化技術の融合でディスプレーの“ユーザーインターフェース革新”を狙う。
このほど開かれたシャープの「液晶タッチパネル新技術説明会」。スマホ向けで量産間近のフルハイビジョン(FHD)画質のインセル型IGZO液晶、FHDの1・8倍の解像度があるWQHD画質のインセル型LTPS(低温ポリシリコン)液晶よりも、むしろ車載向けや業務用に開発した液晶タッチパネルなどが注目を集めた。
車のインストルメントパネル(インパネ)採用をイメージした円形やアーチ型ディスプレーにタッチ機能を載せ、その自由な形状の側面をなぞって直感的操作ができる「FFD―UI」。手袋をはめたままや厚板カバーガラス越しでも入力できる高感度タッチパネル。デジタルサイネージ(電子看板)や電子黒板、会議用ディスプレーなどの60型以上の大画面で、高速処理が必要な同時多点入力や、筆や直径1ミリメートルの鉛筆のペン先でも入力できるといった技術だ。
これらはすべて独自のコントローラー集積回路(IC)を用いたタッチパネル高感度化技術がベース。一般的なセンシング方式が液晶画面のラインごとに信号検知するのに対し、シャープの方式は1回で全画面の信号を検知する。このため検知速度が速い。ノイズも抑え、検知感度は約8倍に高めている。
高感度化はインセルの画面対応サイズにも関係する。競合他社の技術が現段階でWQHD画質で7型程度にとどまるが、シャープはFHDの4倍の4K画質で17型まで対応でき、16年度初頭から中型パネルでインセル対応品を出していく構えだ。
IGZOはLTPSより低コストでノイズ発生が少なく、中・大型サイズまで量産可能。狭額縁化の利点もある。従来、解像度で劣るとされた点は解消済みでLTPSの優位性は薄れる。「インセル型IGZO液晶は、インセル型LTPS液晶より5―10%低コスト」(シャープ技術員)だ。
「ディスプレーをただの表示器から高機能な液晶デバイスに変える。この過程で電子デバイス事業は非常に重要」(方志専務=当時)。シャープは液晶事業で中小型注力、BツーB(企業間)比率アップ、収益安定化という未来を描く。ただ、このプランはコントロールICを手がけ、統廃合が取り沙汰される福山工場(広島県福山市)死守が前提。方志専務は支援銀行団に液晶事業拡大施策について市場データをもとに優位性を説明し、理解を得る考えだ。
5月の構造改革公表を控え、一足先に液晶事業の中期戦略を発表したことは、液晶・電子デバイス事業で再建を図るとの意志の表れとも言える。ならば全地域赤字のテレビ事業、不採算の太陽電池事業の抜本的改革を進める覚悟が必要となる。
(文=松中康雄)
JDIは「ピクセルアイズ」の名称でインセル技術を展開している。近く量産を始めるピクセルアイズ第2世代は、狭額縁化や黒の表現力のほか、ぬれた手で触れても誤作動しにくい点、より細い電子ペンで線を描ける点が特徴。茂原工場(千葉県茂原市)で生産するとみられる。
インセル技術は、スマホの高付加価値化や低価格化につながるため主に中国メーカーで採用が拡大している。JDIは2013年に5インチフルハイビジョン(FHD)仕様の大型・高画質パネルをピクセルアイズに対応させ量産を始めた。顧客開拓の原動力となっており、同社の15年4―6月期の中国スマホ向けパネルのインセル比率は70%を超えている。
一方、シャープや韓国LGディスプレイも大型・高画質に対応したインセルパネルの量産に乗り出している。JDIは他社に先駆けて差異化技術を展開し、競争優位性を確保する戦略で、そのためにも、ピクセルアイズ第2世代の投入を急いでいた。
【用語】液晶パネルのインセル技術=タッチセンサーを液晶の画素に内蔵する。生産における歩留まり改善などで高いノウハウが必要になるが、タッチセンサーを外付けする従来方式と比べ、パネルを軽量・薄型化できる。また工程数や部品点数を減らせるためコスト競争力にも優れる。
3月時点でシャープは真っ向勝負を挑むはずだった
日刊工業新聞2015年3月12日付記事を一部修正
経営再建を進めるシャープは、中国スマートフォンメーカー向けでタッチパネル機能を内蔵したインセル型液晶の量産を6月に始め、先行するジャパンディスプレイ(JDI)に「真っ向勝負」(方志教和シャープ専務=当時)を挑む。今後は価格競争が激しい小型液晶よりむしろ、タブレット端末や業務・教育用ディスプレー、車載向けといった中・大型液晶が主戦場と判断。独自の「IGZO(酸化物半導体)」液晶と、タッチパネル高感度化技術の融合でディスプレーの“ユーザーインターフェース革新”を狙う。
このほど開かれたシャープの「液晶タッチパネル新技術説明会」。スマホ向けで量産間近のフルハイビジョン(FHD)画質のインセル型IGZO液晶、FHDの1・8倍の解像度があるWQHD画質のインセル型LTPS(低温ポリシリコン)液晶よりも、むしろ車載向けや業務用に開発した液晶タッチパネルなどが注目を集めた。
車のインストルメントパネル(インパネ)採用をイメージした円形やアーチ型ディスプレーにタッチ機能を載せ、その自由な形状の側面をなぞって直感的操作ができる「FFD―UI」。手袋をはめたままや厚板カバーガラス越しでも入力できる高感度タッチパネル。デジタルサイネージ(電子看板)や電子黒板、会議用ディスプレーなどの60型以上の大画面で、高速処理が必要な同時多点入力や、筆や直径1ミリメートルの鉛筆のペン先でも入力できるといった技術だ。
これらはすべて独自のコントローラー集積回路(IC)を用いたタッチパネル高感度化技術がベース。一般的なセンシング方式が液晶画面のラインごとに信号検知するのに対し、シャープの方式は1回で全画面の信号を検知する。このため検知速度が速い。ノイズも抑え、検知感度は約8倍に高めている。
高感度化はインセルの画面対応サイズにも関係する。競合他社の技術が現段階でWQHD画質で7型程度にとどまるが、シャープはFHDの4倍の4K画質で17型まで対応でき、16年度初頭から中型パネルでインセル対応品を出していく構えだ。
「IGZO」と組み合わせ車載など中大型も展開へ
IGZOはLTPSより低コストでノイズ発生が少なく、中・大型サイズまで量産可能。狭額縁化の利点もある。従来、解像度で劣るとされた点は解消済みでLTPSの優位性は薄れる。「インセル型IGZO液晶は、インセル型LTPS液晶より5―10%低コスト」(シャープ技術員)だ。
「ディスプレーをただの表示器から高機能な液晶デバイスに変える。この過程で電子デバイス事業は非常に重要」(方志専務=当時)。シャープは液晶事業で中小型注力、BツーB(企業間)比率アップ、収益安定化という未来を描く。ただ、このプランはコントロールICを手がけ、統廃合が取り沙汰される福山工場(広島県福山市)死守が前提。方志専務は支援銀行団に液晶事業拡大施策について市場データをもとに優位性を説明し、理解を得る考えだ。
5月の構造改革公表を控え、一足先に液晶事業の中期戦略を発表したことは、液晶・電子デバイス事業で再建を図るとの意志の表れとも言える。ならば全地域赤字のテレビ事業、不採算の太陽電池事業の抜本的改革を進める覚悟が必要となる。
(文=松中康雄)
日刊工業新聞2015年09月16日 1面