揺れる東芝「半導体構造改革」フラッシュメモリーに集中できるか
システムLSIとディスクリートの温存が不正会計そ招く。
東芝が経営再建に向け、不採算事業の構造改革を本格化する。赤字が拡大する家電部門は海外工場の統廃合に加え、国内市場から撤退する可能性を示した。不振のシステムLSIとディスクリート(単機能)半導体も改革が不十分としており、テコ入れに着手する方針だ。経営陣は改革を完遂し、負の遺産と決別できるのか。
14日に公表した2015年4―6月期連結決算は家電部門の不振が際立った。営業赤字は前年同期から156億円悪化し、207億円に膨らんだ。家電やパソコン、テレビの3事業は、いずれも50億―80億円程度の赤字を計上しており、長年にわたる改革の効果が出ていない。
そこで家電部門に関しては大胆な改革案の検討に着手。白物家電やパソコン、テレビの3事業は「国内から撤退する可能性もある」(室町正志会長兼社長)という。これまでブランド戦略の観点や役員OBへの配慮から事業撤退に慎重だったが、旧来の手緩い改革から転換する。
また白物家電は為替の円安進行で輸入採算の悪化に苦しんでいる。このため、改革案として「海外製造拠点は集約が必要」(同)との考えを明らかにした。製品競争力にも課題を示しており、事業そのものに疑問を呈した。かつての収益源だった家電部門は大きな転換点を迎えている。
一方、半導体部門ではシステムLSIとディスクリート半導体の2事業が喫緊の課題だ。それぞれ4―6月期に20億―30億円の営業赤字を計上しており、止血に至っていない。室町会長兼社長も「構造改革が足りない」との認識を示す。
半導体部門では「稼ぎ頭のフラッシュメモリーに経営資源を集中すべきだ」(業界筋)との声が大勢を占める。また不採算のシステムLSIとディスクリート半導体を温存し続けたことが、不適切会計を招いたとの見方もある。この2事業を保有し続ける根拠が薄くなっている。
東芝の投資余力や財務を踏まえると単独で抱え続けるのはリスクが大きい。投資規模が大きく、価格変動の激しいフラッシュメモリーだけでもリスクコントロールが難しいのに、不採算の2事業に経営資源を割く力はないはずだ。他社との事業統合に踏み切り、本体から切り出す仕組みが求められる。
今回が改革をやり切る最後のチャンスになる。経営資源を集中させる意味でも不採算事業の売却や清算など思い切った改革を断行し、負の連鎖を断ち切る必要がある。
(文・敷田寛明)
2009年1月29日。当時、東芝社長だった西田厚聰氏は、巨額の営業赤字を計上した半導体事業の収益改善策を示しながら「日本の半導体産業の生き残りも考える」と語気を強め、自社のシステムLSIとディスクリート(個別半導体)の分社も辞さない考えを示した。結局、計画は実現しなかったが、今回の不適切会計問題が、リストラの流れを引き戻し半導体再編の契機となる可能性がある。
現在、東芝にとって半導体事業は、営業利益の6―7割を稼ぎ出す大黒柱だ。ただ、その収益源はNAND型フラッシュメモリーに偏っている。NANDフラッシュは、今後もスマートフォン向けが底堅く推移するほか、モノのインターネット(IoT)などの拡大を背景に、外部記憶装置(ストレージ)向けの需要拡大が確実視される。
また東芝はライバルの韓国サムスン電子に対して「技術力で優位。特に生産技術は強い」(駒田隆彦テクノ・システム・リサーチアシスタントディレクター)状態にあり、今後も成長を期待できる。
一方、LSI、ディスクリートは赤字体質が続いてきた。両事業ともに13年度までに工程集約や得意分野に製品を絞り込む構造改革を実施し、14年度には黒字化が見えつつあった。しかし今回の不適切会計問題で第三者委員会は、半導体分野では両事業を中心に在庫評価などで問題があり、08年度から14年度第3四半期(4―12月)までで計360億円の利益水増しがあったと指摘した。東芝が収益改善に苦慮していた様子がうかがえる。
確かに両事業には明るい兆しがある。LSIでは車載向けや画像センサー、ディスクリートは車載向けや白色発光ダイオード(LED)などの販売が上向いている。しかし「全体としてみれば利益率は低い」とIHSグローバルの南川明主席アナリストは分析する。
もともと「NANDフラッシュに集中すべきだ」(東芝幹部OB)との指摘は多い。また不採算事業を温存したことが不適切会計を引き起こした遠因となった側面もあり、再びLSIとディスクリートのリストラや事業強化が必要になる可能性がある。
LSIでは、幅広い顧客ニーズに対応できる強い標準品の存在が不可欠。またパワー半導体では開発スピードを高めることが必要。東芝がこうした点で競争力を高めるため「海外企業との提携が有力な選択肢になる」(南川主席アナリスト)。
また駒田アシスタントディレクターはパートナー戦略について「ルネサスは有力な候補になり得るのではないか」と指摘する。ルネサスは車載や産業機器向けマイコンで世界トップ水準のポジションにあるが、アナログ・パワー半導体の品ぞろえが課題で、東芝と補完関係を築ける。
6月24日付でルネサス会長兼最高経営責任者(CEO)に就いた遠藤隆雄氏は「足りない技術や弱い技術を補完するため、他社との提携をタイミングを計って検討したい」と意欲をみせていた。東芝はどう動くか―。
14日に公表した2015年4―6月期連結決算は家電部門の不振が際立った。営業赤字は前年同期から156億円悪化し、207億円に膨らんだ。家電やパソコン、テレビの3事業は、いずれも50億―80億円程度の赤字を計上しており、長年にわたる改革の効果が出ていない。
そこで家電部門に関しては大胆な改革案の検討に着手。白物家電やパソコン、テレビの3事業は「国内から撤退する可能性もある」(室町正志会長兼社長)という。これまでブランド戦略の観点や役員OBへの配慮から事業撤退に慎重だったが、旧来の手緩い改革から転換する。
また白物家電は為替の円安進行で輸入採算の悪化に苦しんでいる。このため、改革案として「海外製造拠点は集約が必要」(同)との考えを明らかにした。製品競争力にも課題を示しており、事業そのものに疑問を呈した。かつての収益源だった家電部門は大きな転換点を迎えている。
一方、半導体部門ではシステムLSIとディスクリート半導体の2事業が喫緊の課題だ。それぞれ4―6月期に20億―30億円の営業赤字を計上しており、止血に至っていない。室町会長兼社長も「構造改革が足りない」との認識を示す。
半導体部門では「稼ぎ頭のフラッシュメモリーに経営資源を集中すべきだ」(業界筋)との声が大勢を占める。また不採算のシステムLSIとディスクリート半導体を温存し続けたことが、不適切会計を招いたとの見方もある。この2事業を保有し続ける根拠が薄くなっている。
東芝の投資余力や財務を踏まえると単独で抱え続けるのはリスクが大きい。投資規模が大きく、価格変動の激しいフラッシュメモリーだけでもリスクコントロールが難しいのに、不採算の2事業に経営資源を割く力はないはずだ。他社との事業統合に踏み切り、本体から切り出す仕組みが求められる。
今回が改革をやり切る最後のチャンスになる。経営資源を集中させる意味でも不採算事業の売却や清算など思い切った改革を断行し、負の連鎖を断ち切る必要がある。
(文・敷田寛明)
業界再編でルネサスとの補完は?
日刊工業新聞2015年7月28日付
2009年1月29日。当時、東芝社長だった西田厚聰氏は、巨額の営業赤字を計上した半導体事業の収益改善策を示しながら「日本の半導体産業の生き残りも考える」と語気を強め、自社のシステムLSIとディスクリート(個別半導体)の分社も辞さない考えを示した。結局、計画は実現しなかったが、今回の不適切会計問題が、リストラの流れを引き戻し半導体再編の契機となる可能性がある。
現在、東芝にとって半導体事業は、営業利益の6―7割を稼ぎ出す大黒柱だ。ただ、その収益源はNAND型フラッシュメモリーに偏っている。NANDフラッシュは、今後もスマートフォン向けが底堅く推移するほか、モノのインターネット(IoT)などの拡大を背景に、外部記憶装置(ストレージ)向けの需要拡大が確実視される。
また東芝はライバルの韓国サムスン電子に対して「技術力で優位。特に生産技術は強い」(駒田隆彦テクノ・システム・リサーチアシスタントディレクター)状態にあり、今後も成長を期待できる。
一方、LSI、ディスクリートは赤字体質が続いてきた。両事業ともに13年度までに工程集約や得意分野に製品を絞り込む構造改革を実施し、14年度には黒字化が見えつつあった。しかし今回の不適切会計問題で第三者委員会は、半導体分野では両事業を中心に在庫評価などで問題があり、08年度から14年度第3四半期(4―12月)までで計360億円の利益水増しがあったと指摘した。東芝が収益改善に苦慮していた様子がうかがえる。
確かに両事業には明るい兆しがある。LSIでは車載向けや画像センサー、ディスクリートは車載向けや白色発光ダイオード(LED)などの販売が上向いている。しかし「全体としてみれば利益率は低い」とIHSグローバルの南川明主席アナリストは分析する。
もともと「NANDフラッシュに集中すべきだ」(東芝幹部OB)との指摘は多い。また不採算事業を温存したことが不適切会計を引き起こした遠因となった側面もあり、再びLSIとディスクリートのリストラや事業強化が必要になる可能性がある。
LSIでは、幅広い顧客ニーズに対応できる強い標準品の存在が不可欠。またパワー半導体では開発スピードを高めることが必要。東芝がこうした点で競争力を高めるため「海外企業との提携が有力な選択肢になる」(南川主席アナリスト)。
また駒田アシスタントディレクターはパートナー戦略について「ルネサスは有力な候補になり得るのではないか」と指摘する。ルネサスは車載や産業機器向けマイコンで世界トップ水準のポジションにあるが、アナログ・パワー半導体の品ぞろえが課題で、東芝と補完関係を築ける。
6月24日付でルネサス会長兼最高経営責任者(CEO)に就いた遠藤隆雄氏は「足りない技術や弱い技術を補完するため、他社との提携をタイミングを計って検討したい」と意欲をみせていた。東芝はどう動くか―。
日刊工業新聞2015年09月16日 電機・電子部品・情報・通信面