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どこまでが見守り?どこからが監視?急がれる「IoT社会」への慣れ

IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の活用によって、われわれの日常生活はますます便利に、豊かになっていくことだろう。その代わりに、われわれが乗り越えなければならないハードルもある。個人の行動が日常的に、なんらかのセンサーに捕捉されることである。

自動運転の取材をした時のことだ。「利用者は新たに『監視』されることになるかもしれません」と警告する識者に驚かされた。一般にプライベート空間だと認識されている車の中も、公共空間に類する扱いが求められ、場合によってはカメラに記録されることになるかもしれない。それに抵抗を持つドライバーが出てくるだろうという指摘で、自動運転の積極推進派からは聞こえてこない意見だと感じた。

実際にはイメージの問題でしかない。「見守り」あるいは「モニタリング」と聞けば、なんらかのセキュリティ機能を感じられる。同じセンサーでも「監視」と言われるとギョッとしてしまう人が多い。日本人は一般に他人の目を気にする傾向が強いから、”見られている”ということに拒否反応を示しがちだ。これは、近未来のIT社会にとって、意外に大きな障害だ。

        

やや脱線するが、マイナンバーについても同じことが言えるだろう。政府が個人番号制度を導入し、マイナンバーカードを発行しはじめたのが2016年1月。しかし2019年末が近づいた今でも、発行枚数は2000万枚に届かない。国民の中に、ばくぜんとした不安感が残っている。これは他の先進諸国では、あまり例がないことだ。

国家の統治の基礎は、国土や国民を正確に把握することである。古代の律令国家の班田収受も、戦国時代を終わらせた豊臣秀吉の太閤検地も、明治維新の地租改正と戸籍制度の導入も、そしてマイナンバーも、目的は同じと言っていい。

現代社会にあって行政を効率化し、国民生活を豊かにするには、ITを活用した番号制が必須の要件だ。政府は今後、いくつかの方法で国民に利便性を提供し、マイナンバーカード発行を促す政策を計画している。国民が便利さを自覚し、同時に個人情報が不必要に流出しないことへの安心感を持つことが今後のマイナンバー普及のカギとなる。

         

個人の行動が日常的にセンサーに捕捉されることも、ゆっくりとだが社会的に認知されつつある。街頭カメラが逃走者の発見に効果的であることは、一般に知られてきた。タクシーの車内の記録カメラは、犯罪の抑止や事故原因の究明に結びついている。個人のインターネット検索やメール送受信も、サービスプロバイダーに何らかの記録が残り、オススメ広告の表示やデジタル犯罪の摘発に活用されている。確かに「うざい」と感じる面もあるが、実害がほとんどないことも多くの人が分かってきた。

「監視されている」という一般の抵抗感を和らげるには、どんなセンサーで何を見られているのかという説明に加えて、ある種の慣れも必要だ。その心理的なハードルを越えたところにIoTやAIがもたらす豊かさがある。「モニタリング」や「見守り」を受け入れる環境づくりが急がれる。

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