産業用ホースと継ぎ手を操る黒部の実力企業
トロッコ電車がV字形に深く切れ込む谷のはざまを縫うように進む黒部峡谷で知られる富山県黒部市。峡谷から流れくる良質な清水に恵まれるこの地で、トヨックスは産業用ホースや継ぎ手の製造販売を手がけて半世紀以上の歴史を持つ。
流量の秘密は継ぎ手にあり
二つのボトルをホースと継ぎ手でつないだ配管の模型。片方のボトル内には青い粒が詰まっており、配管を上下逆さまにすると砂時計のように粒がもう片方のボトルに移り始める。配管の流量を視覚的に示す仕掛けだ。トヨックスの中西誠社長は模型を右手と左手でひとつずつ手に持って説明した。
「右が従来の配管。左はトヨタ自動車さんより助言を頂いて開発した配管」。そう言うや両手を同時にひっくり返した。どちらの模型も上のボトルから下のボトルへ粒が流れていくが、その速さが明らかに違う。右手に持つ従来の配管の粒が半分程しか下側に落ちていない間に、左手の同社開発配管内の粒は全て下側に移っていた。
両配管に用いているホースのサイズは同じ。にもかかわらず、流量にこれだけの差が出る理由は継ぎ手にある。
従来の継ぎ手は、ホースバンドなどで締め付けるため、強度を保ちホースを抜けにくくするために外形を大きくし、さらに厚みも必要となる。その分、内径は小さくなり、流れを遮る段差が生じて流量が落ちる。
一方、同社が開発した継ぎ手は、ホースに継ぎ手を接続しても同じ内径を維持する構造になっている。このため、段差が減り流量をしっかり確保できるというわけだ。この配管を採用した設備は、流量物を送り出す分のエネルギー抵抗が小さくなったことで「3割ぐらいの省エネ化ができた」(中西社長)という。
本社内に設けるショールームには、水まきのためのホースや浴室で使うシャワーホースなどの一般家庭向けから、工場や建設現場用のコンプレッサーより空気を流すための産業向けまで多数のホースと継ぎ手を陳列する。それらは同社の扱う商品の幅の広さとともに、ホースとそれを接続するための継ぎ手が、さまざまな機器類に使われていることを示している。
だが、機器に問題が生じた時、人はまず機器自体に目を向けがちだ。ありきたりの物ゆえにホースや継ぎ手は盲点になる。しかし、これらを変えることで、安全性や生産性の改善につながることもしばしば。トヨタの事例のように、顧客の課題をホースと継ぎ手によって解決するのがトヨックスの真骨頂だ。
画期的な樹脂製
同社は1963年に「東洋化成」として創業。プロパンガス用のホース製作から事業を始めた。その頃、プロパンガスの機器に使うのは、もっぱらゴム製のホース。ゴム製は曲がると折れやすく、中に流れるガスが止まったり漏れたりする事故が問題となっていた。そこで同社が開発したのが、折れないホース。素材をまだ珍しいプラスチックにするとともに、ホースの内側にバネをはわせることで、曲がっても折れないようにした画期的な商品だった。
例えば、1978年に発売した「ヒットホース」。当時、新素材として出たばかりのウレタンを採用。「ウレタンをホースとして利用したのは我々が初めて」と中西社長。これが工事現場や工場で用いるエアドライバーなど空気を送って使用するエアツール類用のホース需要を捉えた。主流だったゴム製に比べ価格は2倍ほどしたが、抜群に軽いためにエアツールの作業性が高まり、業界を席巻した。世に出回るエアツール向けのホースをウレタン製に置き換えるほどだった。
70年代後半に継ぎ手に参入したのも、こうした課題解決の流れから。はつり機のような振動をする機器につなぐホースが、その振動ゆえに頻繁に抜けるという顧客の悩みに対して、ホースが抜けない継ぎ手を研究、商品化した。以降、ホースと継ぎ手の双方の開発を手がけることで、技術の幅を広げていった。これら商品は、ホースと継ぎ手の双方に知見を持つトヨックスならではの開発といえる。
業界を先導する商品の数々。それを生み出せる理由の一つは同社と素材の仕入れ先との良好な関係にある。
「コストが安いことよりも、新しい技術情報をもらえる仕入れ先さんと取引をして、一緒にいい商品を作る関係を構築している」と中西社長は明かす。
エアツール類のホースのあり方を変えたヒットホースの開発も、仕入れ先が先端素材だったウレタンの利用を同社に提案してきたのがきっかけだった。
「新しい素材は必ず持ってきてくれる」(同)という仕入れ先との絆が、新素材のホースへの有効な活用法をいち早く見つけ、先駆的な商品を編み出す技術力の源泉になっている。
環境重視の時流見越して
ホースと継ぎ手で新しい商品を次々と送り出しつつ、ホース業界の成熟化を見越して、次代の成長事業も推進している。輻射空調システムの製造販売だ。天井の裏面に冷水や温水を流して部屋の温度を調整する輻射空調は、熱交換で部屋全体を冷やしたり暖めたりするので、温度のムラが出にくい。一般の空調に比べ設置費用は高いものの、快適性に優れ、エネルギー消費は低い。また、その製造にあたっては、技術の中核となる水を通す配管について、トヨックスが培ってきたホースと継ぎ手のノウハウを生かすことができる。
「これから間違いなく環境の時代が来る」として、97年に進出したこの事業が、今、環境重視の時流を捉えて花開いている。19年9月時点での採用事例は国内94物件にのぼる。患者の快適性を重視する病院や、環境性の高さを訴求する庁舎、高級ビルを中心に着実に広まっている。
社会の至る所にあるホースと継ぎ手。その変革を通して、世の中の困りごとを解決する-。創業から56年。事業は広がっても、その思いは変わることなく、トヨックスは世に商品を送り続けている。
【企業情報】▽所在地=富山県黒部市前沢4371▽社長=中西誠氏▽創業=1963年▽売上高=93億円(2018年12月期)