富士重とマツダ、モノづくりは“相似形”?
富士重が来年から基本思想をそろえた『相似設計の部品』導入へ
富士重工業は2016年から導入する新プラットホーム(車台)で、全車を相似形の構造とすることで、共通部品の拡大や生産体制の柔軟化を加速する。開発初期から部品各社と連携し、多様なコスト削減施策を盛り込んだ。同社は14年公表の中期計画で20年に20%の原価低減を目指しており、新車台を契機に取り組む。足元の業績が堅調な状況で事業基盤の強化を急ぐ。
16年に小型車「インプレッサ」から導入する新車台「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」は、各国の安全や環境規制の全てに対応できるよう開発した。対象はインプレッサからスポーツ多目的車(SUV)「アウトバック」まで。
全車を相似形にするため、部品各社と共同で取り組む。現行車台も同様の考え方で開発したが、各国の規制に順次対応するうち、共通部分が薄れていた。新車台は将来の規制強化の動向も反映した。
具体的には、新車台は全長を長くする場合や重くする場合のそれぞれで、どの部品を変更するか細かく設定し、モデル間の共通部品を増やす。また、現行車は規制に対応するため当てパッチ(追加の部品)していたが、新車台では余計な部品がなくなる分、軽くできる。材料が減る軽量化は原価低減に直結する。
生産ラインへの投資も削減する。例えば、現行では車種によって前から溶接するか、横から溶接するかによってロボットの配置場所の違う部品もある。新車台は溶接方向を統一して同じラインで全車を生産できる設計とし、車種ごとの設備投資を減らす。よりフレキシブルな混流生産もできるという。20年には大半の車種への新車台導入が済んでいると見られ、コスト低減効果が大きくなる。
相似形の車両によるコスト削減は、国内ではマツダが先行し、大幅な収益改善を実現している。富士重もマツダと同様に、限られた生産拠点で複数の車種を効率的に生産し、輸出競争力を高めなければならない。新車台の効果が注目される。
今井一基常務執行役員(当時)に聞く
―独自環境技術「スカイアクティブ」を採用した現行製品群で、調達はどう変わりましたか。
「スカイアクティブとともに進めた『モノ造り革新』の柱は三つある。複数車種の一括企画、車種間で構造や部品設計に共通性を持たせる『コモンアーキテクチャー』、そしてそれをベースにしたフレキシブルな生産だ。このうち調達との関連が深いのがコモンアーキテクチャー。早い段階から取引先にも参加してもらい、どこを共通化した方がいいかといった検討を一緒にしてきた」
―発注の仕方は変わったのでしょうか。
「グローバルに見て最適な調達をするという基本方針は以前と変わらない。ただその“グローバル”の範囲が広がった。今年稼働したメキシコ新工場など、同じ車種を海外で同時に量産立ち上げすることが増え、海外を含めて最適な調達を考える必要性が高まった」
「グローバル最適調達とは部品ごとや地域ごと、車種ごとに特性を見て最適な調達先を決めるということ。例えば発注量の大小、部品が労働集約型か設備集約型か、その国の労務費や部品メーカーの充実度はどうかなどの要件をもとに最適な発注先を決める。車種ごとに決めてきたのを一括企画することで、まとまった量をベースに考えられる。投資効果を高める上では部品メーカーにもメリットは大きい」
―次世代商品群に向けて、調達の仕方をどう変えていきますか。
「まだまだ理想形ではなく、深化させる。部品をもっと細かくカテゴリー分けして特性をしっかり見ていく必要がある。一方で部品の中にはシステム化が進み、当社からすると社内に技術がなく“ブラックボックス化”しているものも増えてきた。そうした技術をいかに社内に取り込んでいくかが重要。システム部品をバラで発注するなど方法はある。コスト構造なども把握しやすくなる」
―15年度までの構造改革プランで、世界販売目標を170万台から152万台に下方修正しました。国内生産の方針は。
「目標引き下げは最近の経済環境をもとに検討し直した結果。国内生産台数85万台の維持という方針は変わらないと受け止めてほしい。広島の地場サプライヤーで当社との取引がほとんどを占めるような会社には、海外進出への希望に対して“知らないよ”とは言えない。事業計画の策定などでサポートしていく」
―海外での現地調達率向上の取り組みは。
「大まかに言って中国は90%。タイはまだ50%くらいで、15年に変速機の現地生産を始めれば上がる。メキシコは当初50%以上、5年以内に62・5%以上にする規制がある。サプライヤー基盤はまだ弱いが、エンジンの現地生産率を高めれば達成できる」
(聞き手=清水信彦)
マツダは現行の自動車技術群「スカイアクティブ・テクノロジー」を全面採用したミニバンを、2017年初頭に市場投入する。スポーツ多目的車(SUV)「CX―5」の車台を使い3列シート化する。併せてスカイアクティブの次世代技術を使った商品群を、18年後半に発売する小型車「アクセラ」の次期型を皮切りに展開する。マツダは複数車種のラインアップをあらかじめ決めて部品を共通化する「一括企画」と呼ぶ手法を取ってきた。一括企画が2巡目に入る次世代商品群で、競争力と開発効率をさらに高めていく。
現時点での商品計画として、複数の関係者が明らかにした。マツダのミニバンには「MPV」「プレマシー」「ビアンテ」があり、新型ミニバンはこれらの後継車と位置づけているもよう。これら三つのミニバンは、12年発売のCX―5で始まるスカイアクティブの導入より以前に発売された車種。競争力のあるスカイアクティブ技術をミニバンにどう展開するかが焦点になっていた。
今年度後半に全面改良する北米向け大型SUV「CX―9」をベースにした3列シート車を日本市場にも投入しミニバンの後継とする計画もあったが、車体が大きくなることから小型のCX―5ベースに切り替えた。
また同社にとって「第7世代」の商品と位置づけるポスト・スカイアクティブ商品群はアクセラを皮切りに展開する。「第6世代」の第1弾となったCX―5の全面改良は19年に延期し、アクセラを先に全面改良する。アクセラは同社の世界最量販車で世界でももっとも市場規模の大きいクラスの車。同車を最初に投入することで共通化した車体構造などを他の車種に展開しやすくなる。
スカイアクティブはエンジン、変速機、車体、シャシーと車の主要部品を全面刷新し、競争力と開発効率を高めた技術の総称。マツダは16年3月期までに全面採用した8車種を投入する計画。
16年に小型車「インプレッサ」から導入する新車台「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」は、各国の安全や環境規制の全てに対応できるよう開発した。対象はインプレッサからスポーツ多目的車(SUV)「アウトバック」まで。
全車を相似形にするため、部品各社と共同で取り組む。現行車台も同様の考え方で開発したが、各国の規制に順次対応するうち、共通部分が薄れていた。新車台は将来の規制強化の動向も反映した。
具体的には、新車台は全長を長くする場合や重くする場合のそれぞれで、どの部品を変更するか細かく設定し、モデル間の共通部品を増やす。また、現行車は規制に対応するため当てパッチ(追加の部品)していたが、新車台では余計な部品がなくなる分、軽くできる。材料が減る軽量化は原価低減に直結する。
生産ラインへの投資も削減する。例えば、現行では車種によって前から溶接するか、横から溶接するかによってロボットの配置場所の違う部品もある。新車台は溶接方向を統一して同じラインで全車を生産できる設計とし、車種ごとの設備投資を減らす。よりフレキシブルな混流生産もできるという。20年には大半の車種への新車台導入が済んでいると見られ、コスト低減効果が大きくなる。
相似形の車両によるコスト削減は、国内ではマツダが先行し、大幅な収益改善を実現している。富士重もマツダと同様に、限られた生産拠点で複数の車種を効率的に生産し、輸出競争力を高めなければならない。新車台の効果が注目される。
マツダ、「グローバル最適調達は部品メーカーにもメリット」
日刊工業新聞2014年6月12日付
今井一基常務執行役員(当時)に聞く
―独自環境技術「スカイアクティブ」を採用した現行製品群で、調達はどう変わりましたか。
「スカイアクティブとともに進めた『モノ造り革新』の柱は三つある。複数車種の一括企画、車種間で構造や部品設計に共通性を持たせる『コモンアーキテクチャー』、そしてそれをベースにしたフレキシブルな生産だ。このうち調達との関連が深いのがコモンアーキテクチャー。早い段階から取引先にも参加してもらい、どこを共通化した方がいいかといった検討を一緒にしてきた」
―発注の仕方は変わったのでしょうか。
「グローバルに見て最適な調達をするという基本方針は以前と変わらない。ただその“グローバル”の範囲が広がった。今年稼働したメキシコ新工場など、同じ車種を海外で同時に量産立ち上げすることが増え、海外を含めて最適な調達を考える必要性が高まった」
「グローバル最適調達とは部品ごとや地域ごと、車種ごとに特性を見て最適な調達先を決めるということ。例えば発注量の大小、部品が労働集約型か設備集約型か、その国の労務費や部品メーカーの充実度はどうかなどの要件をもとに最適な発注先を決める。車種ごとに決めてきたのを一括企画することで、まとまった量をベースに考えられる。投資効果を高める上では部品メーカーにもメリットは大きい」
―次世代商品群に向けて、調達の仕方をどう変えていきますか。
「まだまだ理想形ではなく、深化させる。部品をもっと細かくカテゴリー分けして特性をしっかり見ていく必要がある。一方で部品の中にはシステム化が進み、当社からすると社内に技術がなく“ブラックボックス化”しているものも増えてきた。そうした技術をいかに社内に取り込んでいくかが重要。システム部品をバラで発注するなど方法はある。コスト構造なども把握しやすくなる」
―15年度までの構造改革プランで、世界販売目標を170万台から152万台に下方修正しました。国内生産の方針は。
「目標引き下げは最近の経済環境をもとに検討し直した結果。国内生産台数85万台の維持という方針は変わらないと受け止めてほしい。広島の地場サプライヤーで当社との取引がほとんどを占めるような会社には、海外進出への希望に対して“知らないよ”とは言えない。事業計画の策定などでサポートしていく」
―海外での現地調達率向上の取り組みは。
「大まかに言って中国は90%。タイはまだ50%くらいで、15年に変速機の現地生産を始めれば上がる。メキシコは当初50%以上、5年以内に62・5%以上にする規制がある。サプライヤー基盤はまだ弱いが、エンジンの現地生産率を高めれば達成できる」
(聞き手=清水信彦)
来年投入の新ミニバン、一括企画が2巡目に
日刊工業新聞2015年2月24日付
マツダは現行の自動車技術群「スカイアクティブ・テクノロジー」を全面採用したミニバンを、2017年初頭に市場投入する。スポーツ多目的車(SUV)「CX―5」の車台を使い3列シート化する。併せてスカイアクティブの次世代技術を使った商品群を、18年後半に発売する小型車「アクセラ」の次期型を皮切りに展開する。マツダは複数車種のラインアップをあらかじめ決めて部品を共通化する「一括企画」と呼ぶ手法を取ってきた。一括企画が2巡目に入る次世代商品群で、競争力と開発効率をさらに高めていく。
現時点での商品計画として、複数の関係者が明らかにした。マツダのミニバンには「MPV」「プレマシー」「ビアンテ」があり、新型ミニバンはこれらの後継車と位置づけているもよう。これら三つのミニバンは、12年発売のCX―5で始まるスカイアクティブの導入より以前に発売された車種。競争力のあるスカイアクティブ技術をミニバンにどう展開するかが焦点になっていた。
今年度後半に全面改良する北米向け大型SUV「CX―9」をベースにした3列シート車を日本市場にも投入しミニバンの後継とする計画もあったが、車体が大きくなることから小型のCX―5ベースに切り替えた。
また同社にとって「第7世代」の商品と位置づけるポスト・スカイアクティブ商品群はアクセラを皮切りに展開する。「第6世代」の第1弾となったCX―5の全面改良は19年に延期し、アクセラを先に全面改良する。アクセラは同社の世界最量販車で世界でももっとも市場規模の大きいクラスの車。同車を最初に投入することで共通化した車体構造などを他の車種に展開しやすくなる。
スカイアクティブはエンジン、変速機、車体、シャシーと車の主要部品を全面刷新し、競争力と開発効率を高めた技術の総称。マツダは16年3月期までに全面採用した8車種を投入する計画。
日刊工業新聞2015年09月10日 自動車面