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医療産業で異彩放つ高研、庄内の風土が育んだ「革新」の精神とは

「学」との先端分野の研究、地元企業との連携でイノベーション加速
医療産業で異彩放つ高研、庄内の風土が育んだ「革新」の精神とは

鶴岡工場にある医療機器関連製品の検査工程

 山形県の日本海側に位置する庄内地域。コラーゲン、メディカルプラスチックなどを手がける高研は、創業者で初代社長の故・秋山太一郎氏の出身地である山形県鶴岡市には鶴岡工場、鶴岡東工場の2生産拠点、同酒田市には酒田工場を持つ。庄内が同社の生産拠点になっている。

 医療機器関連などの情報が集まる東京・文京区に本社を置くが、同社の経営理念の一つに掲げる「革新(イノベーション)」の考え方は、庄内の風土が育んだ継続的な価値創造への精神ともいえる。次なる成長に向けて、生産拠点の再編も計画している。

治療の最前線支える

 1959年創業の高研。医用シリコーンの人工皮膚などの研究開発から始まり、現在は医療機器事業、教育用医療モデル事業、化粧品関連および試薬事業の三つが柱だ。シリコーン、コラーゲンなどの各種高分子素材による製造技術をベースに製品を供給している。

 医療機器事業は、主力製品の気管切開カニューレを中心に、無菌化した医療向けアテロコラーゲンを原料とした各種医療機器で構成する。アテロコラーゲンは、アレルギーなどの原因の抗原となる分子を取り除いたもの。同コラーゲンを製造する技術を持つのが高研の大きな強みでもある。

 同事業について、垂水有三社長は「全売上高の6割を占める」と説明する。メディカルプラスチックによる製品群は耳鼻咽喉科や形成外科など幅広い医療現場に使われ、治療の最前線で患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を支えている。

 もう一つの柱である教育用医療モデル事業は、医療従事者向けの教育用シミュレーターに供給される。独自の高分子技術を用いて、限りなく生体に近い教育用モデルが医療現場の人材育成に役立っている。二次救命処置訓練人形、沐浴(もくよく)人形、腕総合注射モデルなど、生命を担う専門家を養成する場で広く活用されている。製品群のクオリティーは高い。形状や重量、シリコーンゴムによる皮膚感、関節の動き、生体反応の再現など国内外で高い評価を得ているという。電子機器を組み入れることで製品のバリエーションも広がりつつある。

 

先端医療へ広がる可能性

 これから一段の成長が期待されるのが化粧品関連および試薬事業。コラーゲンの持つもう一つの〝顔〟は化粧品原料だ。高研は医療用途とともに化粧品原料での開発にも力を入れてきた。アテロコラーゲンを世界でいち早く化粧品に応用するなど、多彩な製品を生み出してきた。サメなどの海洋性原料由来のアテロコラーゲン開発や、抗酸化などの効果が注目される植物由来エキスやパウダーなどは、山形の地元産品との関わりも深い。

 試薬関連ではアテロコラーゲンの新たな展開が進む。核酸医薬をはじめとした先端医療への応用が期待されている。高研では、同コラーゲンと複合体を形成した核酸が組織や細胞に取り込まれ、細胞内で効果的に機能を発現することを発見した。新技術はガンなどの疾患治療や遺伝子治療への応用など「可能性が広がりつつある」(垂水社長)。

垂水有三社長

60周年を機に生産再編

 2019年に創業60周年を迎えた。生産拠点の再編に向けた取り組みが加速している。大きくは生産能力や機能の拡張が目的で工場の一体的な運営を目指している。垂水社長は「一段と効率化を進めていく」と強調する。

 今後の生産拠点は鶴岡市に集約する方針だ。鶴岡中央工業団地内の鶴岡工場南側に新棟を増設し、同工場東側に隣接する鶴岡東工場と一体化を進める。増設する新棟は2023年の稼働を計画。現時点で、工場の一体化に向けた投資総額は約40億円と試算している。

 鶴岡工場の拡張に伴い、化粧品原料などの凍結乾燥製造に特化した酒田工場の生産設備も段階的に鶴岡に移す。アテロコラーゲンなどの研究開発に取り組む研究所(東京都北区)も増設する新棟に移し、今後は研究開発から生産までを鶴岡で取り組む。

 既存の鶴岡工場と同東工場をつなげる新棟は2020年にも建設に着手する予定。地上3階建て、延べ床面積約1500平方メートルの規模を計画している。

 すでに同社は、生産拠点の再編に向けて、鶴岡工場と鶴岡東工場の間にある市道を鶴岡市から入手した。鶴岡東工場の北側にある駐車場部分と合わせた区画で生産拠点の効率化をにらむ。

 近年、バイオテクノロジー関連の先端的な大学発ベンチャーの集積も進む鶴岡市。慶応義塾大学先端生命科学研究所(鶴岡市)の研究教育活動を踏まえた地域産業の振興に向けて、慶應義塾と山形県、鶴岡市の3者が2019年3月に新たな協定を結んだ。01年に開設した慶応大先端研を支援する3者間の協定で、今回が5期目の協定となる。

 鶴岡の地は、これまでの研究成果などの活用により一段と地域産業の振興を加速させる時期に入る。医療分野などで産学連携を進めてきた高研。鶴岡への研究・生産の集約化を踏まえ、垂水社長は「より一層地域との連携に取り組んでいく」と意気込む。「学」との先端分野の研究、地元企業との連携による高付加価値な製品化などイノベーションの加速をみつめる。

【企業情報】▽所在地=東京都文京区後楽1の4の14▽社長=垂水有三氏▽設立=1959年10月▽売上高=約38億円(2019年9月期)

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