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旭化成の買収はどこまで続くのか

巧者の手腕試される
旭化成の買収はどこまで続くのか

旭化成の小堀社長

 

旭化成は25日、製薬会社の米ベロキシス・ファーマシューティカルズを約1432億円で買収すると発表した。同社の免疫抑制剤の成長性に加え、医薬品業界をリードする米国市場で事業基盤を獲得し、グローバル展開を加速する。既存事業とのシナジーを創出し、2030年にグループ全体の医薬品事業の売上高を2000億円(18年度は645億円)に引き上げる。

 

米ベロキシスの全株を保有するデンマークのベロキシス・ファーマシューティカルズに対し、12月中に株式公開買い付けを始める。デンマークのベロキシスの合計81・2%の株式を保有する株主らの同意を得ている。

 

同日都内で会見した小堀秀毅社長は「医薬およびヘルスケアを成長させるには、米国が不可欠だ」と買収の狙いを語った。旭化成が25年度にヘルスケア領域の売上高6000億円(18年度比約2倍)を目指す上で、米ベロキシスは米ゾールと並ぶ重要なカギとなる。

 

米ベロキシスは腎移植後に用いられる免疫抑制剤「エンバーサスXR」を高度医療施設に展開し、ピーク時の同製品売上高は28年に700億―800億円を見込む。さらに肝移植への適用拡大や、販売地域拡大を検討する。また米国での自前の治験実施や、米医薬業界の成長原動力である“イノベーション・エコシステム”との接点拡大が可能になる。

 

旭化成だけでなく、化学大手によるヘルスケア分野への巨額投資が相次いでいる。先行き不透明な経済環境の中、景気変動の影響を受けにくい同分野を強化し、安定成長の基盤を整備する。

日刊工業新聞2019年11月26日


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小堀社長のインタビューを振り返る

 

―2019―21年度の次期中期経営計画を現在、策定中です。
 「現中計で『コネクト』を掲げてきたが、この3年で完成したわけではない。引き続き社内外との交流や結束、つながりを強めていく。また、事業にはサイクルがあるので今、調子の良いものが25年にも良いとは限らない。ポートフォリオの変換を常に意識して、その時その時で成長のエンジンをいくつ持っていられるかが大事だ。次期中計でさらに変化するために必要なものは何かを考えている」

 

―現中計で累計7000億円の投資(計画含む)を実行してきました。次期中計での投資規模は。
 「(19―21年度の)営業キャッシュフローをベースに長期投資と株主還元を考えるが、この3年間で約7000億円の投資ができたので次も同じぐらいの規模をやりたい。そうしないと、25年度の売上高目標の3兆円(18年度予想比35・7%増)まで成長できない」

 

―自動車分野に続く今後の重点分野は何ですか。
 「環境ソリューション型ビジネスがある。イオン交換膜や水処理、水素製造などでシステム・ソリューションまで手がけている。環境規制が厳しくなる中国や欧州において、環境ソリューションに強い旭化成のイメージを広げたい。そのためにもっと横断的な活動を推進していく」

 

―18年9月末に自動車用シート材大手の米セージ・オートモーティブ・インテリアズを買収しました。統合プロセスをどう進めていきますか。
 「車室空間が変化する中で、セージの成長を支援していく。これまで投資会社傘下で目先の収益を優先してきたが、研究開発を含めて事業に集中できる環境を整えるとともに、我々もセージが持つ市場チャネル・パイプを有効活用する」

 

―ヘルスケア部門の中で医薬・医療事業の先行きは厳しいようです。
「ヘルスケア部門の最大のポイントは、自分たちが患者の役に立てる領域を常に意識する視点が重要だということ。規模を追うと収益性など絶対額を求めて拡張していくことになるが、そこに時間軸を含めてハードルの高さを感じる」

【記者の目】
 好業績をけん引してきたケミカル事業が市況悪化で雲行きが怪しい。米中貿易摩擦の影響もじわりと広がる。遅れ気味の新規事業創出は待ったなしだが、収益への即効性を期待するのも酷だ。当面はセージや、15年に巨額買収した米ポリポアとの相乗効果をさらに追求しないといけない。“買収巧者”の手腕が試されている。

(鈴木岳志)

日刊工業新聞2019年1月15日

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