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GSOMIA破棄目前、韓国が自ら苦しみの道へ

有識者に聞く
 23日0時の期限が迫り日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効が不可避の状況になってきた。有識者に協定失効の影響などを聞いた。

拓殖大学大学院国際協力学研究科客員教授・武貞秀士氏

 ―GSOMIAの失効が日本に及ぼす影響をどう見ますか。
 「日本は自国のレーダーと米国を通じ、ミサイルの位置など主要な情報を得られるため、影響はほぼないに等しい。韓国の方が得られる情報が少なくなり、マイナスの影響が大きい。ただ文在寅大統領は北朝鮮が韓国にミサイルを発射しないという自負があり、安全保障上問題ないと判断している。国内支持率は保守系を含めて上昇しており、あえて日米に譲歩して延長する理由もない」

 ―文大統領がGSOMIA破棄に向かった真の狙いとは。
 「文大統領は日本の輸出管理措置に感情的になって破棄を決めたのではなく、革新系政権の長期化と北朝鮮との南北融和の実現、米韓同盟の希薄化という自身の政治理念に基づき、かなり戦略的に判断したといえる。北朝鮮との関係が手詰まりとなる中、南北融和に向け北朝鮮が望まないGSOMIAを破棄しておきたい強い思いがある。米韓関係は文大統領にとって南北融和への重しでもあり、米国の説得に応じる気は基本的になかった」

 ―協定失効は米国の対韓政策にどう影響しますか。
 「在韓米軍駐留費の大幅な負担増要請のほか、在韓米軍数の削減といった措置が考えられる。2020―24年にかけて韓国が実行する『国防中期計画』について、米国が技術支援の提供などに一切協力しない可能性も十分あり得る。米韓関係はギクシャクし、溝は深まるだろう」

 ―北東アジアの安全保障への影響は。
 「韓国は北朝鮮との融和政策をさらに一歩進め、中国やロシアとの距離を縮める国家になっていく。特に北朝鮮と中国は米韓関係の希薄化を歓迎しており、中国はこのまま韓国が無力化するまで待ち、韓国を支配下に置きたいとすら考えているだろう。北東アジア情勢はGSOMIA破棄で新たな段階に入る。日本は日米同盟を維持するとともに防衛力を強化する必要がある」
(聞き手=下氏香菜子)

大東文化大学経済学部教授・高安雄一氏

 ―GSOMIAの失効が日韓の経済交流にも波及する懸念はありますか。
 「数日前、韓国で財界人らと話し合ってきたが、みな一様に経済的損失を憂慮していた。日韓両国は大量生産が得意な韓国企業と、最先端の部品・素材技術を持つ日本企業が互いに補完し、強固な関係を築いている。この協調関係を政治が阻害すれば、効率性や合理性が失われ(技術覇権を狙う)中国を利するだけになる」

 ―反日勢力が勢いづき、日本製品の不買運動が活発になることも想定されます。
 「不買をしても日本への影響はほとんどない。マクロ的に分析すれば、訪日韓国人の減少などで経済成長率に少し影響が出ているものの、持続的に足を引っ張ることはない。ミクロ的には消費財が落ちているが、観光業など韓国に好意的な日本企業を苦しめているだけであり、不毛だ」

 ―協定継続を求めてきた米国が失望し、疎遠になる可能性は。
 「米韓関係が悪化し、経済に波及する恐れがある。例えば韓国の通貨は金融不安に対して脆弱(ぜいじゃく)で、有事にはドルを調達してウォンを買い支える必要があるが、米国が適切に融通するのか不透明になる。トランプ大統領の性格を考えると『国際通貨基金(IMF)に任せれば良い』ということになりかねない」

 ―2020年2月以降には元徴用工判決による日本企業の資産売却が始まり、日韓対立が泥沼に陥るのでは。
 「これが最大のヤマ場だ。仮に売却すれば日本も対抗措置を取らざるを得ず、今以上に関係は悪化する。韓国の司法は(世論次第で判決が決まる)情緒法とも言われる。司法が情緒で判断し、現金化されれば、日本企業の心証が悪くなり、韓国への直接投資や韓国人の雇用が難しくなる」

 ―事態を打開する手だては。
 「韓国政府も何とか善処したいようだが、国民感情もある。譲歩していない感じで譲歩するのは難しい」
(聞き手・敷田寛明)  

日刊工業新聞2019年11月22日

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