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「科学技術基本法」改正へ…何が変わる?

柱の一つは科学技術・イノベーション(STI)の明確な定義付け
 内閣府は20日、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の有識者らによる作業部会を開き、科学技術・イノベーション(技術革新)創出の振興を目的とした「科学技術基本法」の改正に向けた報告書を取りまとめた。イノベーション創出の概念を明確化し、これまで対象としていなかった人文科学そのものの振興を追加した。2020年の通常国会で同法改正案の提出を目指す。

 政府の科学技術政策は、イノベーション創出による新たな価値や産業、雇用の創造までが一体となった戦略を重視している。これに伴い、イノベーション創出の概念を、社会課題の解決や社会に変革をもたらすものとする内容を盛り込んだ。

 さらに基礎研究の成果が新たな技術の開発につながることから、報告書では新たに基礎研究をイノベーション創出に重要なものと位置付けた。

 また技術の社会実装や人材育成の観点から人間社会の総合的理解が求められており、現行法で対象外の人文科学自体も振興の対象とすることにした。

出典:日刊工業新聞2019年11月21日


今後の課題は別枠の“イベーション予算”

出典:日刊工業新聞2019年11月19日

 政府が検討する科学技術基本法改正案の骨格が固まった。基本法の理念や目的を自然科学中心の従来型の科学技術振興から、経済的・社会的・公共的価値を創造するイノベーション(技術革新)までカバーする範囲を広げ、明確に定義する。環境整備や人材育成では、科学技術の成果の実用化を担うベンチャーや起業家が対象に加わる可能性がある。科学技術予算の範囲が大きく変わり、別枠の“イノベーション予算”の検討などが今後の課題となる。

 政府は20日に開く総合科学技術・イノベーション会議(CSTI、議長=安倍晋三首相)ワーキンググループの会合で報告書を公表する。

 1995年施行の科学技術基本法は、科学技術創造立国に向けた科学技術振興を掲げ、96年度から5年ごとに科学技術基本計画を策定するよう定めている。約四半世紀がたち、時代にそぐわない面が目立っていた。改正法案を20年の通常国会に提出、可決・成立させ、21年度から始まる第6期の科学技術基本計画に反映させる。

 改正の柱の一つは科学技術・イノベーション(STI)の明確な定義付けだ。イノベーションは第3期基本計画以降、その重要度が高まり、科学技術振興を基本理念とする現行法とのズレが大きくなっている。法改正に伴い、基本計画の記述も科学技術関係者の視点でなく、恩恵を受ける個人・社会の視点へと広げる。

 合わせて自然科学、人文科学、社会科学の各研究分野のうち、従来の基本法の対象が「人文科学のみに関わるものを除く」とあるのを修正する。政府の研究振興や女性研究者支援が自然科学に偏る点が解消され、イノベーション創出に向けた研究分野や人材の総合支援が実現する。

 STIの観点が導入されることで科学技術関係予算の範囲も大幅に変わる。現状では自然科学の最先端技術が大きな位置を占める。しかし既知の手法によるモノやサービス、価値を創出する事業もイノベーションに含まれる。そのためSTI政策で、科学技術予算とは別の“イノベーション予算”の検討を20年度以降に行うとしている。

山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
ベンチャーや起業家も科技基本法の対象になる可能性がある、という点にまず、引きつけられた。科技基本計画においてイノベーションという言葉は浸透しており、「なぜ今更、イノベーションを含むと再定義する必要があるのだろう」と不思議に思っていたからだ。さらに対象が広がればその影響は大きく、予算の枠組みが大きく変わるかもしれない、ともいう。政府の文書作成は言葉の表現に敏感で、「どちらでも同じ、大差ないのでは?」と思うことが少なくなかった。しかし今回のケースで「文言でどのように表現されるかが重要だ」という意味を、理解することができた。

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