中小企業が自社の知的財産を「見える化」し、「稼ぐ力」につなげるには

専門家の力も借りつつ、強みを新市場創造につなげる

市場のグローバル化が進み、中小企業も中国やASEANへ海外展開している。そこで更に知的財産(知財)を経営にどう生かしていくかが重要になっている。中小企業が自社の知的財産を「見える化」し、「稼ぐ力」につなげるには、どのようなアクションをおこせばいいか。KIT虎ノ門大学院イノベーションマネジメント研究科の杉光一成教授、知財経営コンサルタントで弁理士の田中康子エスキューブ社長、東京都知的財産総合センターの織田好和所長に聞いた。

ー知財をめぐる現状、最近の動向について。

織田 今年3月に特許庁が公表した中小企業へのアンケート結果では、経営に知財活動をどう生かすか、の設問に経営者の7割以上が意識して実践中との回答がありました。約5年前に比べ2割も増えています。これは中小企業の知財に対する意識が高まったことを示していますが、経営環境の変化もあると思われます。例えばeコマースを行うケースが増え、取引が今や全国、世界規模になり、知財の問題に直面するケースが増えていることと関係しているといえます。また、商標に関する意識が高まったことも一因かと思われます。商標はあらゆる業種の方が社名や商品名に使うもので関連する知財問題が増加していることもあるかと思います。

織田好和氏(東京都知的財産総合センター所長)

ー知財とマーケティング活動を融合する方法とは。

杉光 基本的にマーケティングとは既存市場を維持すること、拡大すること、新市場を創出すること。これに知財をツールとして上手く組み込んで使うとマーケティング活動がうまくいく。そうすれば会社全体としての利益が上がる、そういうイメージです。

―大企業で広がる「IPランドスケープ」を中小企業が採用するメリットとは。

杉光 既存の自分の業界を超えたところに自分たちの技術が使える何か別世界があるのではないか、との視点でみれるのがIPランドスケープ(知財を生かした経営・事業戦略の提案)を使った新規事業の提案です。中小企業は様々な事業部を抱える大企業と異なり自社の強みを見極めやすい点はむしろ有利です。しかも意思決定の部分も大企業と違ってスムーズに行く場合も多いです。

杉光一成氏(KIT虎ノ門大学院 イノベーションマネジメント研究科教授)

田中 企業知財部で特許調査を担当し、パテントマップやIPランドスケープの作成に携わっていた立場から申し上げると、大企業では、これらを作ることは難しくないのですが、どう活用するのか、というところに実は大きな課題があります。IPランドスケープを眺めてみても、戦略や新製品がそこからあぶり出て来るわけではなく、事業や経営とリンクして初めて、知財経営につながります。大企業では、この「リンク」のところに課題があります。むしろ中小企業の方が、経営陣に知財活用の意識があれば、IPランドスケープを活用して知財経営につなげるというサイクルがうまく回り出すと思います。

―新規事業に参入する際、産学連携なども取り入れた場合は自社の権利の確立も重要です。

織田 最近増えている相談で、知財に関わる契約の相談があります。知的財産の保護を依頼元の大企業はやってくれず、中小企業が自前でやらないといけない、と。昔の義理人情や信頼関係だけでなくビジネスライクに第三者と対等につき合っていく力を習得していかないといけません。

杉光 中小企業がこれから目指すべき分野は価格競争に陥りにくいニッチなところの追求です。その点で例えば医工連携はすごく有望です。介護機器なども取り組みやすい分野だと思います。

田中 外資系企業で働いていた時に感じたことですが、契約に関して、想像以上に日本とは考え方が違います。国として、契約に関して中小企業をきちんと教育するなどの仕組みが必要です。特許等の知的財産に関する契約の話をする際、知財にだけフォーカスするのではなく、将来の取引や研究開発、競合他社との関係なども視野に入れ、取引契約等の他の契約と並行して包括的に話を進めると、ウィン・ウィンの関係で事業を進められます。こういう視点を含めた啓発が大切です。知財は特殊ですので、弁護士、税理士、会計士だけでなく、弁理士も必要だ、というところをまず知っていただきたい。弁理士も相談にのりますよ。

田中康子氏(エスキューブ株式会社代表取締役)

―知財を生かした経営戦略の実例について。

杉光 プロ用工具を企画・製造する関西のメーカーは、社長自身がまず知財検定の資格を取り、従業員にも資格取得を奨励し、マーケティング活動に軸足を置きながら知財をうまく取り入れて事業をしている意味では、参考にしていただく良い事例だと思います。一つのやり方としては、経営者自身が例えば、3級ぐらいの知財検定を勉強してみたらこれが面白くて、楽しかったなあという実感がわくようです。楽しみながら学ぶことをきっかけに社内全体で知財活動が活発化すると思います。

織田 我々が実施しているニッチトップ支援活動では、3年間に亘り、その企業用にカスタムメイドした知財教育や知財活動をサポートします。知財検定は、その中でも経営者の方が従業員の教育として受けさせるものでよく使われています。受験講座ではないですが、この問題にはこういう考え方をするんですよ、といった解説を我々がサポートした会社が何社かあります。国家資格ですから、知識がついたかどうかが見えます。知財検定というのは知財を学ぶツールとして非常に入りやすく、いい仕組みだと思います。

田中 今回、シンポジウムに登壇いただく接合材料製造・販売会社は、新しい技術を開発して特許権を取得。それに加えて取引先や関係する大企業と対等に付き合えるような契約を結びました。そのため、下請け的な立場に留まることなく、事業拡大に成功しました。これを国内だけではなく外国でも実践したことが素晴らしい!これこそ研究開発型の中小企業の理想的な姿だと思います。

ー知財センターの支援メニューについて。

織田 経営に知財を生かしていく点から特に二つの支援メニューがあります。一つは先ほどのニッチトップ支援活動。もう一つは交流・研究会です。毎年、知財に関する5,6テーマを定めて参加する中小企業さんを募り、1年間にわたって月1回の頻度で勉強会・意見交換・外部講師の招聘などを行い、年度末には皆さんで成果の発表会を開く、というある種の異業種交流会です。これが中小企業さんの知財経営に取り組むトリガーになっている気がします。
また、最近は、金融機関が中小企業をみる目が少し変わってきています。中小企業さんの持つ知的財産を見て、特許や商標保護の有無などで企業を評価する動きがあります。

杉光 ある信用金庫とその関連団体が行った事例では、「知財」をツールとして活用できる「事業」プロデューサーを特許庁が派遣しました。顧客先企業が事業をする際に事業プロデューサーが最大限に知財を活用して事業が立ち上がると信用金庫が融資などで支援するものです。結果的に金融機関側も融資先が増え、双方にメリットがあります。この流れは一つありだと思います。

―12月11日のシンポジウムではいろいろな事例を交えたお話が聞けます。

織田 今回のシンポジウムではパネルディスカッションで、3件の企業事例と金融関係からの考え方をご紹介し、意匠や標準化、特許などいくつかの事例を聞いていただけます。成功体験を共有することで自分だったらこういう成功ができるのかな、という情報を持ち帰っていただけたらと思います。

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