ニュースイッチ

【連載】挑戦する地方ベンチャー No.4 あわえ(3)

自然と人が行き交い、活気が生まれる場に
【連載】挑戦する地方ベンチャー No.4 あわえ(3)

サテライトオフィスの1つ、大阪のIT企業「鈴木商店」

**『新薬』をつくり、他の地域へも広げる
 サテライトオフィスの誘致など、あわえの活動と同じようなことを行政が行っている例も多い。しかし、ビジネスで行うことにこそ強みがあると吉田社長は考えている。「行政であれば政策がいつ変わってしまうとも限らない。コト、ヒト、カネの3軸を回し地域で、ビジネスとして確立させていくことが永続性につながる」。
美波町の課題解決のための事業をビジネス化することは、他地域の課題を解決する可能性も持つ。「あわえがやっていることは地域の課題=『病因』を見つけ、それを解決する事業=『新薬』を開発すること。『新薬』に汎用性を見出すことで、同じような『病因』を持つ他地域に横展開できる。『ジェネリック薬』を作ることに似ています」(吉田社長)。

 あわえの事業は近隣の海陽町へと広がっている。今夏、初の試みとしてフェリス女学院(神奈川県横浜市)より6人の学生が3泊4日のインターンシップに訪れ、GOENを使いながら地域課題のヒアリングを行った。同大学国際交流学部の春木良且教授は「地域のコアコンピタンスの発見と課題の認識という、都市部の学生が普段感じないことを体験し、考えるいい機会になった」と話す。

 他地域へ広げていくには、その地域に吉田社長のように駆動役となるキーパーソンが必要不可欠だ。しかし、どの地域でも強力な人材がいるわけではない。その場合、「町が無理でも、小さな単位から動かしてみては」と吉田社長は話す。「地域の魅力を見つけられる人はどこにでもいるはず。広報のように、内外に発信していくことが必要です」(吉田社長)。

地域に生かされながら、地域を生かす


 一方、ビジネス化するにあたり難しい部分もある。GOEN、サテライトオフィス誘致など商品に前例がないため、どういう価値に対してどのような価格設定にするか決めにくいのだ。まずは市場に出してみて、反応を見て調整や摺合せを行っていくことになる。

 地域に魅力を感じる人が来てくれているということが前提にあるが、移住者が地域に溶け込めないという問題は起こらないのだろうか。「移住者に地域での役割ができる、ということが大きいと思います。例えば、美波町には江戸時代から続く秋祭りで『ちょうさ』と呼ばれる太鼓屋台を担ぐ伝統行事があります。地域の人はこの行事を本当に大切にしているのですが、今回その中心役に移住してきた若者が選ばれました。また釣りやサーフィンをする社員が多いのですが、地域の人たちと趣味を通じて仲良くなることも多いです。地域柄もあるでしょうが、遊び人が多いんです」と吉田社長は笑う。地域の人が魅力を感じている部分に共感することが、地域に溶け込む一歩につながる。

 あわえは地域活性のための事業を行っているが、あわえもまた、地域の人たちに生かされている。GOENは、地域の人たちの写真提供協力と、記憶がなければ成り立たない。移住者のための古民家賃貸や改修も、権利者が地域にいない場合や分からなくなってしまった場合も多く、近所の人に情報を聞く。odoriでは手先の器用な方がテーブルを作り、建屋の改修をしてくれている。夕方になると何となく集会所に人が集まり、釣った魚やおかずを持ち寄って宴会が始まる。入社して半年もたたない社員も自然に混ざっている。

 「『あわえ』とは美波町の方言で『路地』という意味。自然と人が行き交い、活気が生まれる場をイメージしています。ここで生まれた活気を他の地域へも広げていきたい」(吉田社長)。
(おわり)
佐藤 史章
佐藤 史章 Sato Fumiaki
今回取材を担当したトーマツベンチャーサポート株式会社政策事業部前田亮斗よりコメント 「個人の価値観が多様化する中で、企業のビジネスそのものだけでなく、働く人の暮らし方や生き方まで含めたライフスタイルのデザインが人材採用の差別化要因の一つになってきている。 『半X半IT』という考え方や地域コミュニティの“役割”を全うしながら暮らす生き方は未来の働き方・生き方の一つであり、どんな企業にとっても学ぶべき点がある。 『あわえ』に集った人々がICTを活用し、ビジネスの力で地域の課題を解決していく今後に期待したい。」

編集部のおすすめ