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神鋼、新石炭火力でコストと環境規制の二重の壁をクリアできか

神戸製鉄所の大型発電プラント、電力事業「収益維持」の試金石に
神鋼、新石炭火力でコストと環境規制の二重の壁をクリアできか

石炭は密閉構造で搬送される(操業中のボイラ・タービン装置)

 神戸製鋼所が神戸製鉄所(神戸市灘区)内の神戸発電所で新たな大型石炭火力発電プラントの建設、運営に取り組む。課題の一つが発電コストの上昇。二酸化炭素(CO2)排出量削減に最大限、取り組む必要がある上、市街地に隣接する立地なだけに、厳しい環境規制をクリアしなければいけないためだ。

 「ボイラの蒸気温度が上がるので材質のグレードも上がる。環境規制も厳しいので、総じて従前以上に費用がかかる」。電力事業企画推進本部長を務める北川二朗執行役員は、正直に打ち明ける。

 神鋼は神戸製鉄所第3高炉などの跡地に、出力65万キロワットの発電プラント2基を建設、2022年度までに順次稼働する。すでに運転中の2基と合わせると総出力は約270万キロワット。現在、国内の石炭火力でこれを上回る規模の発電所は、電力会社を含めても中部電力の碧南火力(愛知県碧南市、410万キロワット)のみだ。電気はこれまで同様、すべて関西電力に卸売りする。

 新たな発電プラントには最新鋭の超々臨界圧(USC)技術を採用する。日本のCO2排出量をこれ以上、増やさないため、国が新設する石炭火力に義務づけているものだ。蒸気温度が600度C級とより高温、かつ高圧のため発電効率が高い。その分、石炭を燃やす量も減り、CO2排出量を削減できる。

 燃料費も減らせるので、長い目で見ればトータルコストを削減できるかに思える。しかし、北川執行役員は首を横に振る。「USCを入れても(燃料費などの)ランニングコストの減り代は数%ほど。(設備など)イニシャルコストは1―2割のレベルで上がってくる」ためだ。今のところは安定供給第一でコストを料金に上乗せできる電力会社と異なり、電力卸事業者にとってのコスト上昇は事業の存続にも直結しかねない。

環境協定も負担、燃料価格の低減難しく


 神戸市と結ぶ厳しい環境協定も負担になる。窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじんの排出濃度の厳しさは国内最高水準。「環境対策でも世界トップレベルの設備を使う」と言うように、脱硫・脱硝装置や集じん装置など環境対策コストは投資額の3分の1を占める。

 石炭も船から荷揚げし、サイロ貯蔵、ボイラへの搬送まですべて密閉構造とし、粉じんが市街地に飛散しないよう配慮している。多くの発電所では石炭は野積み。焼却後に出る灰も敷地内の空き地に埋め立てするが、神戸発電所ではすべて密閉サイロで貯蔵し、処理費を払ってセメント工場に搬送している。

 こうした環境対策は燃料価格のさらなる低減も難しくしている。近年、電力会社は燃料費削減のため、亜歴青炭など安価な低品位炭の利用率を高めている。しかし、低品位炭は発火しやすく、密閉構造で石炭を貯蔵、搬送する神戸発電所では「防災最優先のため、揮発性の高い低品位炭には手が出せない」のが実情。豪州産より安価なインドネシア炭の比率を約55%まで増やしてはいるが、「インドネシア炭でもなるべく揮発分の低いものを使う」ため、その効果は限定的だ。

 関電への販売単価は契約で決めた上限価格を下回らねばならない。神鋼では製鉄所の既存インフラを可能な限り共有することや、石炭を鉄鋼原料炭とまとめて調達して価格を下げるなど、さまざまな対策を講じる方針だ。

 同社の電力事業は14年度で約170億円の経常利益を稼ぎ、15年度も180億円を見込む優良事業。これを22年度以降も継続すべく、さらなる努力や創意工夫が必要になる。
(2015年09月10日 素材・ヘルスケア・環境)
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
発電事業は全社利益の1割以上を稼いでいる。収益性も高く、うま味の大きい事業のようだが、イニシャルコストをどう抑えるか。機器の選定含めてここからが腕の見せ所だろう。

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