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電力ロス減らして脱炭素社会へ!ロームのSiCが支える竹中工務店のBEMS

電力ロス減らして脱炭素社会へ!ロームのSiCが支える竹中工務店のBEMS

BEMS(I.SEMⓇ)を導入した竹中工務店のTAK新砂ビル

エネルギー管理で省エネ・温暖化対策に

地球温暖化問題などを背景に、センサーやIT機器などを駆使して家庭やビルなどで電力消費量などを効率化するエネルギー管理システム(EMS)の導入が進んでいる。近年は太陽光や風力など、再生可能エネルギーからもたらされる電力を積極的に使用したり、台風や地震など相次ぐ自然災害の発生を受け、BCP(事業継続計画)対策としてのEMS導入も脚光を浴びている。

大手建設会社、竹中工務店では、同社関連会社のTAKイーヴァックの新砂本社ビル(東京都江東区)で、独自のビルエネルギー管理システム(I.SEMⓇ〈I-Smart Energy Management System〉)を構築。各種のエネルギーを束ね、刻々と変わる需要と供給のバランスを取りつつ、効率的に運用している。そこではロームの高効率の炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスが活躍しており、電力ロスの削減に貢献している。

延べ床面積約4000平方メートルの新砂本社ビルで2015年から設置し、実証しているBEMSは、SiCパワーデバイスを組み込んだパワーコンディショナー(PCS)、電気自動車(EV)用の充放電装置、EVリユース蓄電池を利用した定置型蓄電池、発電機などで構成されている。

導入したBEMS(I.SEMⓇ)のイメージ図(竹中工務店提供)

ビルの屋上には太陽光パネルを設置している。装置はクラウド上に構築したBEMSから入出力値の指示をして制御する。竹中工務店環境エンジニアリング本部のエネルギーソリューション計画グループの岡野健二さんは、「例えば太陽光発電の電力は優先的に利用し、電力が余ったら蓄電池もしくはEVに蓄電するなど、優先順位を何パターンか決めています。需給バランスの最適化により、『今ビルに何kWほしい』というような指示をすれば、電源の優先順位に従ってシステムが調整してくれます」と説明する。

電力変換器にSiC、ロスを40%削減

シリコンのパワーデバイスを使い、個々の装置を交流で接続するなどの一般的なシステムの場合、変換器単体の電力ロスが大きいうえ、変換器の通過回数が多くなり、システム全体でのロスも必然的に大きくなる。そこで、新砂本社ビルで採用したシステムには高効率のSiCを使ったパワーデバイスを導入したうえ、それらを直流バスでつなぐ「マイクロスマートグリッド」を構築した。このシステムはアイケイエス(京都市中京区)と竹中工務店が共同で開発した。

電力経路によっては個々の機器ごとの電力ロスはシリコンを使った機器より、約40%削減できた。さらに、システム全体では電力効率が既存より10%程度改善したという。岡野さんは、「例えば太陽光発電の余剰電力を蓄電池へ充電し、発電量が減ったりした場合、電池から放電し自家消費率を大きくして運転したい場合、電力の経路が複雑になり、電力変換回数が多くなります」と指摘したうえで、「SiCによる電力変換効率の改善は特に有効です」と話す。

このシステムはBCP対策としての機能も持つ。2018年に災害対応の実証試験を行い、PHEVバスとPHEVの計2台とシステムの蓄電池を非常用電源として、同ビル敷地内にある別棟(延べ床面積約600平方メートル)で72時間の連続運転を達成。負荷に追従した自立電力供給を証明した。

システムを説明する竹中工務店の岡野さん

優れたデバイス、地球環境問題の貢献に

現在、竹中工務店ではこのシステムを別の社内拠点やお客様の建物で導入をすすめている。「自社物件やお客様の物件で計画中を含め、10件程度」(岡野さん)導入見込みだという。外販のターゲットは市場の大きい延べ床面積1万平方メートル程度の中規模ビル。新築ではなくても、既存のビルにもスペースさえあれば設置できる。岡野さんは、「およそ車1-2台分のスペースがあればこのシステムが入ります」と、優れた性能にも関わらず、その高いコンパクト性を説明する。システムを一式導入すると数千万程度かかるが、ビルのエネルギーマネジメントとBCP両方の役に立つことをメリットに、竹中工務店ではお客様にアピールしている。

東名阪を中心とする都市再開発や東京五輪・パラリンピックに伴う建築需要の高まりもあり、BEMS市場は着実に伸びている。ただ、優れたビルのエネルギーマネジメントを実現するには、優れたデバイスが必要になる。既存のシリコンデバイスの性能を上回る高効率なSiCパワーデバイスは、こうした需要をとらえ、省エネを通じて地球環境問題の解決にきっと貢献するはずだ。

―SiCをもっと知りたい人はこちらでどうぞ!

●SiCパワーデバイス  SiCはケイ素(Si)と炭素(C)の化合物半導体材料であり、SiCパワーデバイスは、従来の半導体より圧倒的に高効率で電力を変換でき、さらに高い耐熱・耐圧性もあることから、省エネ性能の向上や小型化、省スペース化などに貢献している。高い技術力が必要とされているため、メーカー自体が少なく、中でもロームは世界で初めて量産を開始するなど、業界を先頭でけん引してきた。素材から一貫生産で供給力を担保しており、需要拡大にも対応する。現在はEVの急速充電器や産業機器のほか、太陽光発電設備のメガソーラーパワコン、自動車のオンボードシャージャーなど分野でどの分野で加速的に導入が進んでいる。さらに産業機械やEVのメインインバータなどでの導入が始まろうとしている。ロームとしてはこうした大きな市場だけでなく、BEMSやなどEMSといった様々な分野にも市場広がることを期待している。

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