トヨタは移動空間を“独占”、日野は“細分化”。サービス載せる新モビリティー

未来のクルマ、モーターショーで公開中

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トヨタの1人乗り自動運転EV「TOYOTA e−4me」
 4日まで開催される「第46回東京モーターショー」で、コンセプト車とともに“クルマの未来”が展示されている。将来クルマは人や荷物に加えてサービスを運ぶようになる。車内で楽器を弾いてセッションしたり、運動トレーニングを受けたりと描かれる未来は刺激的だ。クルマに載るサービスは多様で、サービスに合わせて車両の設計を変える必要もある。サービス事業者を巻き込んでプラットフォーム構想を練ることになる。これは乗用車の設計改革よりも困難な道になるかもしれない。(取材・小寺貴之)

トヨタ、着替え/演奏/筋トレ…思い通り


「社会と街とつながり、人に移動やサービスを提供するモビリティー」―。トヨタ自動車の豊田章男社長はモーターショーで示したコンセプト車をこう表現する。「TOYOTA e―4me」は自動運転機能付電気自動車(EV)「e―パレット」の1人乗り版といえる。車中でのドレスアップや演奏など、相乗りではできない使い方を提案する。パーティーに向かう車中で運動して少しでも身体を絞ってからドレスに着替えるなど、移動時間を思い通りに使える。乳児と出勤する母親は子どもの泣き声や授乳時に周りの目を気にしなくてすむ。

 都市部の住民にとって自動運転車は寸断された移動時間をまとめて、時間を有効化する価値がある。首都圏の平均通勤時間は1時間弱。徒歩や公共交通の乗り換えを何度も挟む。

 e―4meは「空間を独占するちょっとぜいたくな使い方がコンセプト」(ビジョンデザイン部の江藤康考主任)だ。サブスクリプション(定額制)や時間貸しで提供し、食事や映画鑑賞、仕事など、さまざまなサービスを載せる。サービスに合わせて内装やディスプレー、通信などを変える必要がある。

 モーターショーはコンセプト提示で、どんな仕様を標準とするのかといったサービス事業者との協議はこれからだ。e―パレットに関してはソフトバンクなどとの共同出資会社、モネ・テクノロジーズ(東京都港区)でサービス会社とすり合わせが進む。江藤主任は、まずはサービス事業者と乗客をウィンウィンにし、「時間がかかるかもしれないがトヨタもウィンにしたい」と展望する。

日野自 キッチン/教室/診察室…多様な“新車” 


多くの乗客で賑わう東京駅

 多様なサービスがクルマに載る時代、標準的な車両設計にサービスを集約するのは難しいかもしれない。パソコンとソファがあれば幅広い遠隔サービスを提供できるが、パソコンとソファだけで済むサービスなら現行のタクシーで十分だともいえる。サービスの価値を高める空間を提供できないと、新しいクルマを普及させるモチベーションが得られない。そのため、サービスごとに車内空間が細分化する可能性がある。

 そこで日野自動車はサービスを提供する車室と、それを運ぶ動力系を分離し別々に運用するモデルを提案する。電動トラックの動力系だけをプラットフォーム化した「フラットフォーマー」だ。キッチンや美容院、教室、診察室などの車室を載せて運ぶ。サービスが動力を手に入れると場の制約から解放される。クルマが新しいサービスのインフラになる。

 日野自の未来プロジェクトグループの渡辺邦彦氏は「サービスを提供する車室は(分離して)設置しても稼働できた方がよい。サービスと動力系を分けてシェアして運用を最適化する」と説明する。

 これまでもコンテナ型のキャンピングカーやキッチンカーなどが存在した。ただ、けん引免許や日本の細い道路事情などが普及の制約になっていた。駐車場などのコンテナを展開できるスペースも限られる。フラットフォーマーは単独で自動走行し、けん引型の車よりもコンパクトだ。

 ただ車室に対してフラットフォーマーがいくつあると最適なのか、シミュレーションはこれからだ。コンセプトを示し、事業化を目指す仲間を集める中で詳細を固めていく。日野自の下義生社長は「変革に真正面から本気で取り組んでいく」と力説する。

 移動ロボットや無人搬送車(AGV)では移動部と作業部を分けてモジュール化し、仕事に合わせて交換するデザインは少なくない。だが実際に普及している製品は多くない。それは一体設計によって極限まで軽量化したり、機能を限界まで詰め込むためだ。製造しやすい車よりも、売れる車を競うとモジュール化のメリットが小さくなっていく。人を乗せるクルマは安全性も重要な要素だ。

独シェフラー 倉庫で集荷、そのまま現場に


海天国際の経営報告書より

 独シェフラーは4輪駆動の移動プラットフォーム「ムーバー」を開発。インホイールモーター式の4輪がそれぞれ90度回転するため、その場回転や真横への走行ができる。小回りが利くため、物流倉庫の棚の間を走って集荷し、そのまま外へ配送に出られる。想定可搬重量は450キログラム。宅配やタクシー、薬局サービスなどの利用を想定する。

 サービスを担う車室や移動プラットフォームをモジュール化しつつ、試作車は上下を一体設計して作っている。シェフラージャパンシャシーディビジョンの斎藤正ヴァイスプレジデントは「人を乗せると高い衝突安全性が求められる。完成車メーカーやモビリティーベンチャーなどのパートナーが必要になる」と説明する。人間か貨物かの違いだけでも、移動プラットフォームに求められる機能やコストは大きく変わる可能性がある。独シェフラーもサービス事業者との協議はこれからだという。

 東京モーターショーでは、事業性を先行し、自動車会社の実現したい未来社会が示される。視点を変えると、産業構造を変え得るコンセプトを出し、実現に向けて仲間を集める場だ。トヨタの新設計思想「TNGA」など、乗用車のモジュール設計が浸透するまで10年近い時間がかかっている。今後は作り手だけではなくサービス事業者を巻き込んだ設計に広がる。乗用車と商用車を含め、クルマのプラットフォームはどこに向かうのか。大手や系列会社さえ躊躇(ちゅうちょ)する長い道のりだ。ベンチャーにとっても参入の余地は多く残されており、チャンスが眠っている。

日刊工業新聞2019年10月31日(自動車)

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

 サービス事業者とのコンセンサス形成と、製造業や系列内でのコンセンサス形成はどちらが大変か。完成車メーカーが調達される側になるので、とても大変なのだろうと思います。各社はコンセプトを提示しつつ、「一社では実現不可能」と口をそろえます。仲間作りが必須なわけですが、仲間が集まらなかったらどうなるのか。たいして仲間は集まらなくても、投資を集めて実現させ、ユーザーを掴んだ会社がプラットフォーマーになってきました。東京モーターショーで完成車のブースをまわると、サービスを載せるMaaSに本気なのはトヨタ周辺だけなのかなと感じてしまいます。夢を牽引していた自動運転がとても高度な運転支援技術と、渋滞している高速道などでの限られた自動運転に軟着陸しようとしつつあるところに、完全自動運転が前提のMaaSやサービスを描くのは勇気が要ることです。それでもHVやFCVなど、10年、20年かけてでも未来を実現しようとしてきた会社があったおかげで、2020年にコンセプトでなく、実機や実体験を世界に発信できるのだと思います。20年以降の事業化に向けた意思決定はトップダウン以外でできるのか、仲間は集まるのか。目の前にある経営の最適化を超えた決断ができる経営者がいまどのくらいたのか、2025年くらいにわかるのかもしれません。

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