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“日の丸航空機”に乗り遅れるな!中小メーカーがコスト改革であの手この手

三菱重工業松阪工場は来年から共同生産。サプライチェーン構築の好機に?
 6月、中小企業9(現在は10)社で組織する組合「航空機部品生産協同組合」が、三重県松阪市と工場立地協定を結んだ。「(生産改革を)やらなければ日本の中小企業は航空機業界で生き残れない」(加藤隆司代表理事)。米ボーイングのコストダウン要請は中小の部品メーカーにも改革を促す。

 同組合は三菱重工業松阪工場(三重県松阪市)の建屋を使い、航空機部品の共同生産を2016年後半に始める。加藤代表理事が社長を務める加藤製作所(岐阜県各務原市)などが加工設備を持ち寄り、投資負担のかさむ熱処理や表面処理など一部の設備は共通設備として使う。自動車産業の知恵を借り、効率的な工程管理システムも採り入れる。

 これまで国内航空機産業のサプライチェーン(部品供給網)はムダが多かった。部品メーカーの多くは中小・零細企業。大半の部品メーカーは単一工程の加工を手がけており、ひとつの部品を複数の部品メーカーと重工メーカー間を順々に送りながら完成させていく。こうした効率の悪い手法と決別しなければコストダウン要請には応えられない。その解の一つが松阪市の共同工場だ。

  同じサプライチェーン効率化でも共同工場とは異なる手法もある。川崎重工業が主力工場を構える岐阜県各務原市では、天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が14年に、表面処理の工場を新設。同じ川重の協力会社である水野鉄工所(同関市)など各社が加工した部品を一括して表面処理する。

 また、宇都宮市と愛知県半田市に拠点を持つ富士重工業は、13年から部品調達に「巡回集荷」(ミルクラン)方式を導入。一括発注の手法では日程管理などに難しさがあるとして、調達工程の「見える化」を進める。
 
 ミルクランの対象部品は順次、広がっている。永野尚専務執行役員は「商流を変えたい。サプライヤーが力を付け、挑戦してくれればもっとコストは下がるはず」と期待する。
 
 国内ではサプライチェーンのトップにある重工メーカーも、米ボーイングなど海外からはコストダウンを求められる立場。そのボーイングも欧エアバスと激しい価格競争を繰り広げる。
 
 機体メーカーから始まったコスト改革は、今や業界に携わるすべての企業を包む大きなうねりになってきた。中小企業もリスクを取って歩き出した。こういう時こそ、サプライチェーン全体の基盤を強くする好機でもある。

 ※日刊工業新聞は「勃興・日の丸航空機」を連載中
日刊工業新聞2015年09月09日1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 自動車の部材は3万点にもなるといわれ、年々増え続けている。SCMが成熟していると見られているが、リコール対応や震災時などを見ても完成車メーカーが部品の情報を隅々まで追跡できているとはいえない。購買部門がサプライヤーの選定を行う「ソーシング」と、実際に調達業務を担当する「パーチェシング」の機能に分断されていることも障害になっている。調達関連のシステムはバラバラで進化してきていて、もちろん業務系との連携もできていない。航空機の部品点数はそれよりもはるかに多く、しかもこれまで自動車のトヨタや日産、ホンダにあたる「元締め」が国内に存在しなかった。SCMでどこが主導権をとるのか。結局、ボーイングやエアバスの手のひらの中?中堅・中小の存続にも関わってくる。

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