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揺れる東芝「内部統制と社内人事」再建へようやく一歩

副社長以下、次期社長候補の顔ぶれも固まる
 東芝が経営再建に向け、ようやく第一歩を踏み出した。30日には社外取締役が過半を占める取締役会が発足し、強固なコーポレートガバナンス(企業統治)が始動する。新経営陣は強い監督機能を行使し、社内の意識改革と不採算事業の再構築に着手する必要がある。もはや後戻りは許されない。信頼を回復するには間断なく改革を進め、不正を許さない企業風土に改めるしかない。
 
 東芝は不適切会計の再発を防ぐため、業務プロセスや内部統制を大きく変える。収益目標に関しては、トップダウンによる設定方法からボトムアップ方式に転換。経営層の過度な圧力で不適切な会計処理が起きないようにする。
 
  内部統制では社外取締役で構成する監査委員会に内部通報窓口を設置。社外取締役に直接通報できる仕組みをつくり、通報が隠蔽(いんぺい)されないようにする。また社内カンパニーの財務責任者の独立性を担保するため、最高財務責任者(CFO)傘下に位置付ける。

 今回の不適切会計問題は経営トップによる関与が主因とされた。そこでトップの不正を防ぐため、社長の評価制度もスタートする。経営幹部約120人が無記名で信任投票を行い、社長再任指名の参考情報にする。
 
 収益目標の設定手法や内部統制を改善し、それを監視する取締役会の機能を強化したことで、以前に比べて不正が起きにくい仕組みになった。有用に機能させ続けるには室町正志会長兼社長ら社内取締役が率先して社外の意見を取り入れ、改革の好循環を回していく必要がある。

副社長に志賀(インフラ)、成毛(半導体)、細川(ヘルスケア)の3氏


 東芝は7日、30日に発足する次期経営体制を発表した。実務を主導する副社長には電力部門トップの志賀重範氏(61)や、半導体部門トップの成毛康雄氏(60)など3人を昇格させる。実務のリーダーに次期社長候補となる人材を採用し、東芝の新しい経営像を示すものと見られる。30日に開く臨時株主総会後の取締役会で正式に始動する。

 経営の監督を指揮する取締役会議長の人選は難航したものの、経営経験が豊かな前田新造資生堂相談役(68)に落ち着いた。前田氏は社外取締役と連携し、社内取締役や執行役ら実務部門を監督。不適切会計の再発を防ぐほか、企業文化や事業構造の改革に道筋を付ける。

 室町正志会長兼社長以外の社内取締役は3人が就く。ヘルスケア部門トップの綱川智氏(59)が副社長として、牛尾文昭氏(57)が執行役専務として就任。また前東芝テック取締役の平田政善執行役上席常務(56)も取締役に就任し、最高財務責任者(CFO)として財務部門を統括する。平田氏は豊富な財務の見識を買われ、7日付で転籍した。

 社内昇格人事で注目されるのが、代表執行役副社長に就く志賀・成毛の両氏だ。それぞれ電力と半導体という主力事業のカンパニー長を務めており、エース級との呼び声が高い。実務を仕切る副社長4人が7月に辞任したことから、両氏を副社長に引き上げて顧客との関係など事業への影響を少なくする。

 成毛氏は、不適切会計問題を踏まえて7月から報酬返上の割合を積み増したが、今回の執行役人事では副社長に役位が上がることになる。実質的に処分を受けた人物が昇格するのは異例だ。

 成毛氏は半導体部門を長く歩み、フラッシュメモリー事業を最大の収益源に育てたことが評価されている。次期社長の有力候補と見て間違いない。室町氏は危機的な状況を乗り越えた後、後進に社長職を譲る考えを示している。成毛氏を筆頭に志賀氏らが候補に挙がると見られる。

 今後、成毛氏ら実務のトップは収益力の強化に取り組む必要がある。不適切会計が起きた遠因として、実力以上の収益を求めた点があるためだ。経営に影響力のある役員OBが辞任した今、構造改革に取り組みやすい環境が整ったと言える。再発防止に向け、パソコンなど不採算事業にメスを入れるべきだ。

 また構造改革と同時に、高収益体質への転換も課題となる。特に重要なのがエネルギー関連事業。原子力発電設備は新設案件が少なく、業績の下振れリスクが高い。火力発電設備も国際競争が激化し、生き残りが難しくなっている。他社との提携や事業統合も含めて体制を大胆に再構築し、稼げる体質に変革する必要がある。
日刊工業新聞2015年09月08日 3面と深層断面の一部抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
志賀氏はウエスチングハウス(WH)会長として東芝との連携を促進させた原子力畑のエース。佐々木元社長の一派とみられがちだが佐々木氏が去ったことで、インフラ部門の「顔」となる。成毛氏は、前任のセミコン社社長の小林清志氏(現在は半導体顧問)があまりに個性が強烈だったので、地味に映る。ただ半導体は稼ぎ頭だけに構造改革やファイナンスを含め役割は極めて重い。室町氏は今の地位に固執していないとし、早いタイミングで社長の座を交代したい腹づもりだが、次の人事はまだまだ流動的。次期社長ももっと若手から抜てきされる可能性もある。

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