女性の起業が相次ぐ愛知の秘密とは
士業と行政、金融機関がタッグ
愛知県で女性起業家を後押しする取り組みが芽吹いてきた。愛知県を拠点に活動する女性の士業の連携体「からふる女性応援士隊」が、2014年度に行政や金融機関とタッグを組み、起業したい女性向けに相談業務を開始。15年度に入って、その支援を受けた起業が相次いでいる。相談業務は事業計画の策定から融資、手続きなどの相談を1カ所で受け付ける利便性が特徴。社会に潜在する女性の起業欲を引き出すことに成功しつつある。
【からふる女性応援士隊、計画・相談一手に】
「地元の期待が大きい。地元に密着した店にしたい」。
8月に名古屋市熱田区で喫茶店「ベーリングプラント」を開いた元田真樹さん(28)はこう力を込める。開店した場所は市の名所の一つである熱田神宮から徒歩数十分の位置にあるビルの1階。周囲には企業も多数あるが、後継者に恵まれず店を畳んだ飲食店が多い。
ベーリングプラントが出店したビルも以前は、レストランが入居していた。開店準備の時に、周辺企業の関係者が店に訪れ、この地域の歴史や以前の店がその憩いの場として果たしていた役割などを語られ、激励されたという。
福岡県で高品質のコーヒーを専門にする喫茶店を経営する会社でバリスタとしての腕を磨き、バリスタの認定をする審査員にまでなった元田さん。自ら店を経営している審査員の仲間たちに接しているうちに、出店の意欲が高まった。
故郷の名古屋へ戻り、起業を決意して、昨秋に日本政策金融公庫名古屋支店の門をたたいた。以降、公庫に通い詰めて事業計画を煮詰めていったが、「自分で日々のお金の動きが把握できないのが一番ネック」だった。以前に勤めていた会社で店長の実務経験はあったが、帳簿の付け方や確定申告などの知識がなく、不安に感じていた。
【税理士、資金繰り助言】
そこで公庫に紹介されたのが、「からふる女性応援士隊」だった。愛知県を中心に活躍する若手女性の弁護士、司法書士、公認会計士、税理士に加え、日本公庫の女性職員が起業や経営に関する女性からの相談を個別に受け付ける。
日本公庫名古屋支店で元田さんを担当した野口美樹名古屋ビジネスサポートプラザ所長代理は「資金繰りは日本公庫よりも日常の会計業務をしている税理士から現実味を持ったアドバイスをもらった方がいい」と考え、この会の活用を勧めた。
15年6月に参加した会で、元田さんは相談した税理士と意気投合。結局、その税理士を自社の顧問税理士として迎え、経理面での支援を受けながら、創業にこぎつけた。
元田さんの喫茶店は事前の狙い通り、地元のサラリーマンや主婦層でにぎわっている。お客の入りは「想定していたよりプラス」という。
女性応援士隊の相談者が創業に至ったのはこれで2例目。3月には、14年度の相談者が名古屋市中区にフライドポテトの専門店を営む企業を設立した。この女性は料理を趣味とする主婦だったが、相談会の参加後に日本公庫に相談し、経営の知識を身につけた後、日本公庫の融資を受けて創業した。
近く3例目となるケーキ店が開業の予定。これまでは立ち上げまでの準備期間が短い飲食関係が先行したが、女性応援士隊の創業予備軍はITやデザイン関連など多岐に及ぶ。今後は他業種の創業も続く見通しだ。
【伴走型で成果、相談件数増加】
女性応援士隊は14年2月に結成された。14年度から愛知県の公益財団法人「あいち男女共同参画財団」と共催で、無料の個別相談会を開いている。15年3月からは日本公庫の女性職員が、資金調達の専門家として参画した。
支援は1回きりの相談で終わるのではなく、創業するまで支援を続け、さらには起業後の支援もする伴走型。ベーリングプラントのケースでは担当した税理士がそのまま創業企業の顧問になった。また、過大な費用を見積もっていた事業計画に対して、日本公庫が「内装工事費の削減などで借り入れ負担を減らすように提案」(野口名古屋ビジネスサポートプラザ所長代理)し、実現性の高い計画に練り直していった。
14年度に計4回行った相談会の参加者はのべ19人。15年度は既に2回実施しており、参加者は同13人にのぼる。野口所長代理も日本公庫での女性の創業に関する相談が「増えている」という。
日本は開業率が欧米の半分程度の4―5%で推移しており、起業家はほぼすべての年代で男性が女性を上回っている。政府が「日本再興戦略」で女性の活躍促進と開業率向上を推し進める中、その双方にスポットを当てた愛知県での取り組みが注目される。
(文=江刈内雅史)
【からふる女性応援士隊、計画・相談一手に】
「地元の期待が大きい。地元に密着した店にしたい」。
8月に名古屋市熱田区で喫茶店「ベーリングプラント」を開いた元田真樹さん(28)はこう力を込める。開店した場所は市の名所の一つである熱田神宮から徒歩数十分の位置にあるビルの1階。周囲には企業も多数あるが、後継者に恵まれず店を畳んだ飲食店が多い。
ベーリングプラントが出店したビルも以前は、レストランが入居していた。開店準備の時に、周辺企業の関係者が店に訪れ、この地域の歴史や以前の店がその憩いの場として果たしていた役割などを語られ、激励されたという。
福岡県で高品質のコーヒーを専門にする喫茶店を経営する会社でバリスタとしての腕を磨き、バリスタの認定をする審査員にまでなった元田さん。自ら店を経営している審査員の仲間たちに接しているうちに、出店の意欲が高まった。
故郷の名古屋へ戻り、起業を決意して、昨秋に日本政策金融公庫名古屋支店の門をたたいた。以降、公庫に通い詰めて事業計画を煮詰めていったが、「自分で日々のお金の動きが把握できないのが一番ネック」だった。以前に勤めていた会社で店長の実務経験はあったが、帳簿の付け方や確定申告などの知識がなく、不安に感じていた。
【税理士、資金繰り助言】
そこで公庫に紹介されたのが、「からふる女性応援士隊」だった。愛知県を中心に活躍する若手女性の弁護士、司法書士、公認会計士、税理士に加え、日本公庫の女性職員が起業や経営に関する女性からの相談を個別に受け付ける。
日本公庫名古屋支店で元田さんを担当した野口美樹名古屋ビジネスサポートプラザ所長代理は「資金繰りは日本公庫よりも日常の会計業務をしている税理士から現実味を持ったアドバイスをもらった方がいい」と考え、この会の活用を勧めた。
15年6月に参加した会で、元田さんは相談した税理士と意気投合。結局、その税理士を自社の顧問税理士として迎え、経理面での支援を受けながら、創業にこぎつけた。
元田さんの喫茶店は事前の狙い通り、地元のサラリーマンや主婦層でにぎわっている。お客の入りは「想定していたよりプラス」という。
女性応援士隊の相談者が創業に至ったのはこれで2例目。3月には、14年度の相談者が名古屋市中区にフライドポテトの専門店を営む企業を設立した。この女性は料理を趣味とする主婦だったが、相談会の参加後に日本公庫に相談し、経営の知識を身につけた後、日本公庫の融資を受けて創業した。
近く3例目となるケーキ店が開業の予定。これまでは立ち上げまでの準備期間が短い飲食関係が先行したが、女性応援士隊の創業予備軍はITやデザイン関連など多岐に及ぶ。今後は他業種の創業も続く見通しだ。
【伴走型で成果、相談件数増加】
女性応援士隊は14年2月に結成された。14年度から愛知県の公益財団法人「あいち男女共同参画財団」と共催で、無料の個別相談会を開いている。15年3月からは日本公庫の女性職員が、資金調達の専門家として参画した。
支援は1回きりの相談で終わるのではなく、創業するまで支援を続け、さらには起業後の支援もする伴走型。ベーリングプラントのケースでは担当した税理士がそのまま創業企業の顧問になった。また、過大な費用を見積もっていた事業計画に対して、日本公庫が「内装工事費の削減などで借り入れ負担を減らすように提案」(野口名古屋ビジネスサポートプラザ所長代理)し、実現性の高い計画に練り直していった。
14年度に計4回行った相談会の参加者はのべ19人。15年度は既に2回実施しており、参加者は同13人にのぼる。野口所長代理も日本公庫での女性の創業に関する相談が「増えている」という。
日本は開業率が欧米の半分程度の4―5%で推移しており、起業家はほぼすべての年代で男性が女性を上回っている。政府が「日本再興戦略」で女性の活躍促進と開業率向上を推し進める中、その双方にスポットを当てた愛知県での取り組みが注目される。
(文=江刈内雅史)
日刊工業新聞2015年9月7日付中小・ベンチャー・中小政策面