ニュースイッチ

AD

“空の産業革命”ドローンの挑戦/先端ロボティクス財団

産学連携チームでコンペ開催、世界で活躍できる若手技術者育成
 〝空の産業革命〟といわれるドローン(飛行ロボット)の実用化が進む中、若手技術者の育成を目的に「先端ロボティクス財団」が誕生した。ドローンの開発・販売を手がける自律制御システム研究所(ACSL)の創業者で、千葉大学名誉教授の野波健蔵氏が中心となって設立した。同財団を設立した狙いやドローンの未来などについて、野波理事長に日刊工業新聞社の井水治博社長が聞いた。

競技会をスカウトの場に


井水 先端ロボティクス財団は産学連携チームによるコンペを通して人材を育成するのが特徴で、優れたチームに助成して20代を中心とする若手技術者を支援していきます。社会的にも意義のある事業ですが、まず先端ロボティクス財団を設立した狙いについて教えてください。

野波 ACSLを創業してモノづくりに取り組んできましたが、経営を通してモノづくりはひとづくりであることを実感しました。日本はロボット大国といわれて久しいですが、現在のままの状況が続くと、10年後にロボット大国といわれることはあり得ないでしょう。特に新しい産業であるドローンなど先端的なロボティクス分野を担う人材が不足しているためです。

井水 なぜコンペ形式による人材育成を行うのですか。

野波 世界の歴史をひもとけばコンペを通して優秀な人材が生まれているからです。自動運転の世界を切り開いたのは米国のダーパ(DARPA、国防高等研究計画局)・グランド・チャレンジというコンペです。2005年の優勝チームのリーダーで、スタンフォード大学准教授だったセバスチアン・スランは、その後、グーグルの副社長に抜てきされました。人工知能(AI)のディープラーニング(深層学習)が登場したのも12年の物体認識コンペです。古くさかのぼると世界最初のコンペは大西洋横断飛行だったようで、航空機時代の先駆けとなりました。

井水 世界の技術者と競わせることで、世界を舞台に活躍できる技術者を育成するということですね。

野波 私自身も08年にインドで開かれた世界ドローンコンペに野波研究室として参加しました。ドクター(博士課程)やマスター(修士課程)の学生が自信がつき、成果を出していった成長を見て、コンペが人を変えて世界を変えるということを実感しました。コンペの出口戦略は三つあります。まず若い研究者や技術者、大学院生らが自信を持つチャンスにすることです。そして野球でいえば夏の甲子園や春の選抜のように、優勝チームなどの優秀な人材を企業がスカウトする場にしたいと考えています。さらに自らが起業し、業界をリードし、世界と戦ってもらう仕掛けにもしたいですね。

井水 最初のコンペは20年6月に実施する計画です。19年10月1日から公募を始めますが、コンペの具体的な内容について教えてください。

野波 現在、シナリオをつくっており、最初はドローンが中心になります。離島間の長距離飛行や無人航空機(UAV)と無人車両(UGV)を併用した次世代物流や、空中・水中両用ドローン、AIと第5世代通信(5G)、クラウドコンピューティングを活用したドローン競技などを計画しています。日本は災害が多いことから、20年の第1回は災害対応ドローンの競技を検討しています。他のロボットとも連携し、現場の情報収集や、食料・衣服など人命救助のための物資搬送、倒壊家屋の家具で下敷きになっている生存者をAIで認識して救助することを想定しています。

野波理事長

経営の原動力は強い意志


井水 ドローンは野波理事長のライフワークですが、ドローンの研究を始めた経緯や動機を教えてください。

野波 大学院で制御工学を研究していましたが、世界を見なければいけないと考え、千葉大学の助手を経て、米航空宇宙局(NASA)のシニア研究員になりました。当時、最も過酷だったスペースシャトルエンジン(SSME)のターボポンプの振動制御を研究中に、有人ヘリコプターの自律制御に関心を持ったことが、ドローンの研究を始めたきっかけです。その後、千葉大に復帰しましたが、制御工学で社会貢献したいと考えるようになり、ラジコンヘリコプターを自律制御しようと決意しました。ただ、当時のコンピューターは重く大きく、90年代末まで待たなければいけませんでした。98年に研究をスタートし、国内のラジコンメーカーと共同開発して01年に自律制御に成功しました。

井水 ドローン産業は必ず発展するとの信念を持って研究を続けてこられましたが、研究を諦めようと思ったことはありませんか。

野波 これまでドローンを何十機も落下させました。1機のドローンの製作には20万-50万円かかるので、資金が続きませんでした。そのため落下したドローンを分解し、その部品を使ってドローンを製作しました。落下したドローンの部品を使っているため、また落下することもありました。心が折れそうになることもありましたが、その経験は起業した後に部品の品質管理に役立ちました。購入した部品を全量検査し、不良品は返却しました。これが高性能で高品質なドローンの製造につながっています。ドローンを通して社会貢献するという強い意志がありましたので絶対に諦めませんでした。

井水 野波理事長は研究者であると同時に経営者でもあります。千葉大発のベンチャー企業としてACSLを創業し、わずか5年でマザーズ市場に上場させました。起業を志す学生やベンチャー企業の経営者に参考になるように、ピンチをどのように乗り切ってきたのかを教えてください。

野波 (研究開発から事業化までの乗り越えなければいけない障壁である)魔の川や死の谷、ダーウィンの海については、3回に渡る第三者割当増資とベンチャーキャピタルで対応しました。財務的にも安定し、安心して研究開発に取り組める体制ができましたが、何期にも渡って赤字決算を続けるわけにはいきません。そのため我々は研究開発に専念する一方で、外部から優秀な人材を招き、彼らに経営と営業や販売を任せました。ユニークでオリジナルであり、社会にも役立つ優れた技術があれば、社会は見捨てません。それどころか社会から評価してもらえます。ベンチャー企業の経営は順風満帆にはいきませんが、絶対に諦めないでください。

ドローン活用で社会を支える


井水 現在、ドローンはホビー分野で普及していますが、産業分野での現状はどうですか。

野波 19年までは農業分野での活用がトップですが、山岳遭難や海難事故での人命救助などでも活用されています。20年頃からはインフラの点検・補修での活用がトップになるでしょう。日本には高速道路や空港、港湾、発電所などのインフラが700兆円あるといわれています。これらの老朽化が進むとともに、優秀なシニアの点検技術者が引退し、老朽化に対応できないという課題があります。そのためAIで技術を継承し、ドローンで点検を行えば、この課題が解決できます。

井水 日本は世界のドローン産業でどのようなポジションにありますか。

野波 現在、ドローン産業の国内市場規模は400億-900億円で、世界は8000億-1兆5000億円といわれています。つまり日本の市場規模は世界の20分の1以下にすぎません。企業数を見ると、中国にはメーカーだけで300社あるといわれ、日本の10-20倍です。絶対数が少ないため、日本は圧倒的に負けています。早急に若手人材を育成し、世界の企業と競争して勝たねばなりません。人口が減少して少子高齢化が進み、労働力人口が減少する中、現在の豊かな生活を維持するためには、ドローンなどロボティクス分野で経済の成長と社会を支える必要があります。

知能持つドローンに


井水 ドローンとAIの相性はよさそうですね。最後にドローンの将来を展望してください。

野波 現在のドローン飛行は〝小脳レベル〟で、運動機能などにとどまっています。これからは知能を持った〝大脳レベル〟の飛行になります。つまり目的地までのルートを自ら考え、障害物などを認識して安全・確実に飛行するだけではなく、バッテリーを減らさないようにするなど最適なルートを飛行できるようになります。最終的には全地球測位システム(GPS)も不要になるでしょう。

井水 ドローンを通しての社会貢献など野波理事長の熱い思いをきかせていただきました。ありがとうございました。

左から日刊工業新聞社 井水社長、先端ロボティクス財団 野波理事長

【プロフィール】
 のなみ・けんぞう 79年(昭54)東京都立大大学院工学研究科機械工学専攻(制御工学研究室)博士課程修了、工学博士。80年千葉大助手、85年米航空宇宙局(NASA)研究員、シニア研究員。88年千葉大助教授、94年教授、08年理事・副学長。13年自律制御システム研究所創業、社長に就任。福井県出身、70歳。


第1回 先端ロボティクス・チャレンジ 参加チーム募集


 本チャレンジの目的は、先端ロボティクスの未来を拓く人材の発掘と育成、および先端ロボティクス産業の振興です。最終審査(コンペティション)をクリアするための優れた研究開発の提案チームには、研究助成金を支給します。また、最終審査で優秀な成績を収めたチーム複数に賞金を授与します。

【応募期間】2019年10月1日~12月20日
【応募資格】大学、民間、政府等の機関、団体または個人とする。
【参加申込】財団ホームページ内の専用ページにあるエントリーフォームに記入し、かつ、下記の提案書を添付する。
(1)提出書類
専用ページより、Word 形式の「提案書」をダウンロードして必要事項を記入し、PDFに変換したものをアップロードする。
(2)提出期限
2019年12月20日(金)17時厳守

【お問い合わせ先】一般財団法人 先端ロボティクス財団 事務局
ホームページはこちら

編集部のおすすめ