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日産の調達責任者が今考えていること

「国産部品の採用は競争力を判断した結果。今の為替水準ならもう増えない」(山内副社長)
日産の調達責任者が今考えていること

九州工場のインパネ生産と山内氏

 完成車メーカーの競争力を支える調達。グローバル競争が激しさを増し新興国市場の低迷ムードが強まる中、コスト削減で調達が果たす役割はますます大きくなる。一方で、タカタ製エアバッグの欠陥問題のように品質問題が拡大するリスクも顕在化している。日産自動車の調達担当役員の山内康裕副社長に聞く。

 ―円安を受けて国内で国産部品の採用を増やしています。
 「国産部品を増やそうとして調達しているわけではない。あくまで競争力で判断した上での結果だ。今の為替水準であれば、もう増えることはない」

 ―新興国の通貨安が進んでいます。
 「為替リスクの対策は調達の現地化しかない。(通貨安が著しい)ブラジル、ロシアでは現地化を加速する。生産規模が小さいから提携先の仏ルノーと部品を共通化して現地化しやすい環境を作る」

 ―日産が先行したメキシコにトヨタ自動車も新工場を建設します。調達への影響は。
 「メキシコは、2次以下のサプライヤーの産業基盤が弱い。トヨタの調達方針によるが、裾野産業が隆盛化すれば良いことだ」

 ―トヨタが部品メーカーに対し、部品価格の引き下げ要請を見送りました。
 「日産は(部品の値下げも含め)総コストを年5%下げる目標を掲げ、2015年度も進めている。継続的に競争力を上げることは必要だ。部品メーカーも同じ考えと思う」

 ―電気自動車(EV)のリチウムイオン電池ではLG化学など韓国が台頭しています。
 「これまで通りNECとの合弁会社の電池を使う。だが、他メーカーを使わないと決めたことはない。技術の競争が激しい分野であり、電池の競争力を見極めるためにも他メーカー製を使うことはあり得る。並行して採用する可能性もある」

 ―独ダイムラーと小型車の共同開発・生産を進めています。調達面でどこまで協業に踏み込みますか。
 「部品によって調達を分担している。部品の開発を担当すると調達も担当することが多い。ルノーとの共同購買体制とは違う。三菱自動車との軽自動車の協業も基本は同じだ」

 ―規模とコストの激しい競争の負の側面がタカタ製エアバッグ問題で露呈しました。
 「結果的にそう見えるかもしれない。だがコストを下げるのは当たり前で、(異常破裂の)危険を承知でコストを下げたわけではないだろう」

 ―タカタに求めることは。
 「交換部品の確保や原因解明など足元のリコール対応に集中してほしい。(事態収束に向け)完成車メーカーなど関係先とどう協力し、何をしたいかを明確にしてほしい」

 【記者の目/調達でつながる車メーカー】
 トヨタのメキシコ進出では、先行メーカーが調達網を整備したことがトヨタの背中を押した。先行した日産はその波及効果を期待し、調達に限れば持ちつ持たれつとも言える。一方で世界に波及したタカタ問題では多くの完成車メーカーが巻き込まれ、足並みをそろえて対応せざるを得ない状況だ。産業規模の拡大に伴い、部品を調達するという活動が完成車メーカー間の垣根を低くしている。
(聞き手=池田勝敏)

1年前、山内氏(当時専務執行役員)は何を語ったか


2014年6月10日


 ―新設計手法「コモンモジュールファミリー(CMF)」を適用した車種の生産を拡大しています。調達はどう変わりますか。
 「新興国市場で競争力が高い商品を生産するには、現地で部品を調達することが重要だ。CMFで共通部品が増えるから現地調達を進めやすくなる。部品メーカーの選定は今まで通り部品の価格や品質、グローバルに部品を供給できる能力から客観的に評価して決めている」

 ―部品の外注には部品メーカーが設計図を作る「承認図方式」と、完成車メーカーが設計図を作る「貸与図方式」があります。CMFの設計改革で変化はありますか。
 「二つの方式を採用しているが、CMFであろうとなかろうと変化はない」

 ―内外製区分の判断基準は。
 「変わらない。当社で作れるものと作れないものは決まっている。CMFが導入されたからといって、外製部品を内製化して新たに生産技術を蓄積しようとは考えないし、内製していた部品の生産技術を捨てて外注することもない」

 ―2年前から特定の部品メーカーを選別して協力関係を結んでいます。
 「当社の進出国に生産体制を敷き、当社との取引に魅力を感じてくれる部品メーカーを『アライアンスグロスパートナー(AGP)』として選んで、一緒に部品の中長期的な戦略を練っている。将来の技術動向やコストを相談している。部品の種類ごとに1社選び、約30種類の部品について約25社と連携している。他の部品にも広げる」

 ―AGPに選ばれると受注競争で有利になりますか。
 「AGPだからといって自動的に受注できるわけではない。(コンペを通じた)通常の受注プロセスを踏んでもらう。だが、部品開発の初期段階から協力してもらっているし、当社が目指す方向性を一緒に考えてもらうから、有利であることは間違いない」

 ―4月に仏ルノーと購買機能を統合しました。すでに共同購買体制を整えていますが何が変わりますか。
 「両社が使う部品はすべて『RNPO』という共同購買組織で買っている。RNPOは部品を買うだけの組織で購買企画は分かれていた。統合で部品メーカーに対してワンボイスで購買方針を説明できるようになる」

 ―円安が定着しましたが調達方針に変更は。特に九州工場は韓国から多く部品調達しています。
 「円安で調達コストの差が縮まったが、まだ韓国製の方が競争力のある部品がある。現時点で方針を変えていないし変えるつもりもない。韓国製部品のコストをさらに下げて為替リスクを回避する」(火・木曜日に掲載)

 【記者の目/AGP予断許さず】
 調達の効率化が重要性を増す中、AGPは競争力の源泉となるだろう。ただ、部品メーカーは10年前の系列解体を受け、他の完成車メーカーとの取引拡大で日産への依存体質から脱却してきた。CMFで部品の共通化が一層進むことで、1件当たりの受注量は膨大になり、部品メーカーにとっては依存体質に逆戻りしかねない。
 日産の思惑通りにAGPが広がるかは予断を許さない。
(聞き手=池田勝敏)
日刊工業新聞2015年09月04日 自動車面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
先日アップした国産部品切り替えの話の続き。大手完成車メーカーの「購買担当役員に聞く」は毎年でやっている好評企画。1年前の山内氏のインタビューも一緒にアップしました。比較して読むと興味深い。

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