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ストーリーで繋ぐ!新リサイクルショップ「PASS THE BATON」

キーワードは“プロパー越え”
 使う機会はあまりないが、どうしても捨てられないものはないだろうか。近所のリサイクルショップに売るには惜しく、手元に置いてはいるものの、溢れていく収納スペース。誰かにあげようにも、欲しい人が見つからずに寂しい想いをすることも。それでも、誰かにとって価値があるものは、きっと大切に使ってくれる人がいるはず。
 東京・丸の内、表参道、京都・祇園という好立地にあるセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON(パスザバトン)」では、“New Recycle”をテーマに、様々な取り組みを行っている。単なるリサイクルではなく、個人の出品物を出品者の「名前」「プロフィール」「商品にまつわるストーリー」と共に販売する、というのが特徴だ。
(取材・梶田麻実)

PASS THE BATONの店内(表参道店)

ストーリーに価値がある


 リサイクルショップでは、ものの見た目やブランドで商品価値を判断されるが、パスザバトンのリサイクルが新しいのは、出品者の人となりや、ものが辿ったストーリーに価値を見出し、想いを含めて販売をする点だ。例えば、「モテるワンピース:このワンピ―スを着ていると、すごくモテた思い出があります」という話や、「合格する製図版:先輩から代々受け継がれてきた製図版が自分のところまで回り、これを使用して試験に合格しました。受け継ぐ人がいないために出品します」といったエピソードが添えられている。すると、ものの見え方は変わる。いわば“縁起物”でもあるような、外見だけではわからないストーリーが見えることで、途端に魅力的に思えることがある。
 一見ではわからない部分の価値を伝えるところに、パスザバトンの肝はある。出品者の想いが購入者に伝えられるだけではなく、購入者がメッセージを書き、店を通して出品者に届けられる「思いのバトン」という仕組みにより、出品者と購入者の思いは繋げられる。

一点一点、「名前」「プロフィール」「商品にまつわるストーリー」が添えられている

 出品価格の設定についても、店側が買取価格や販売価格を決めるのではなく、出品を受け付ける専属スタッフと出品者が一緒に話し合いをしながら、顧客の納得のいく価格を決めていく。

アップサイクルの取り組み


 個人のリサイクル品だけでなく、リメイク商品にも力を入れている。企業やブランドがモノづくりをするなかで、商品の一部にわずかな汚れや傷がついてしまったもの、諸事情で卸に至らなかったもの、製品基準が高いゆえに出てしまう一部のB品、販売期間が限られるために出てしまうデッドストック品などに対し、付加価値を与えて新たな商品として世の中に送り出す、というものだ。

ロディアのメモブロックのリメイク商品

 例えば、ロディアのメモブロックは、ロゴの位置が中心から少しずれてしまっているだけで、実際の使用には支障がないものの、販売されないものがある。そこにパスザバトンオリジナルのイラストを施すことで、新しいメモ帳に蘇らせている。

リバティのデッドストック品を使用したリメイク商品

 リバティというファブリックブランドとのリメイク商品は、過去の生地を活用したバッグを販売しており、第2弾が出るほどの人気シリーズだ。
 素材であるB品やデッドストック品は、製品のリソースに限りがあるため、リメイク商品は毎回数量限定となっているが、それもまた、価値の一つかもしれない。

業務用の白地食器にイラストを加えたオリジナル商品

 企業とのコラボアイテムだけではなく、オリジナルの商品も販売している。業務用の真っ白な食器を使用し、パスザバトンオリジナルのイラストを施した商品や、イラストレーターである元永彩子さんやミナ ペルホネンの皆川明さんとコラボしたテーブルウェアアイテムなども販売している。

 リメイク品もリサイクル品同様、背景を知ることで見え方は変わるはず。素人目では分からないほどに細かい傷や汚れなど、このレベルで製品化から外れてしまうことがあるということや、良いものが世の中に出回っていないこともある、と見えない裏側を知ることができる。そうして、B品でもまだまだ使えると感じたり、単純に可愛いからと購入していく人がいる。商品の価値について、考えるきっかけにもなるはずだ。

PASS THE BATONの世界観


 リサイクル品、リメイク品、オリジナル品など様々な商品があるなかで、店内の陳列は分けられておらず、何がどこにあるか分からない空間で、宝探しのような感覚でものとの出会いを楽しむことができる。一つ一つのものに添えられたストーリーに、様々な国や時代、持ち主の背景など、多種多様な人々のセンスが混在している店内は、パスザバトンならではの雰囲気が漂っている。

多種多様な人々のセンスが混在している

 出品者のメイン層は30代~70代と幅広い。年配者は、裕福な時代背景の中で購入したものを、身の回りの整理をする時期に店舗に持ち込む人が多いという。思い入れがあり捨てるに捨てられないものを、思いを含めて理解してくれる人に使ってもらいたいという気持ちをもって、パスザバトンを訪れる。街の中心部に位置する各店舗には、10代20代の若者も多く訪れ、80年代90年代のものを目当てに買いに来ることもあり、ものを通して世代を超えた交流が行われている。

ギャップが生み出す価値


 リサイクルショップというと、これまでは比較的目立たない立地にあることが多かったが、パスザバトンは「一等地でリサイクル」というギャップに価値を見出し、ファッションブティックのような場所で思い切ってリサイクルを行うという気概を持って、2009年に東京・丸の内に第1号店をOPENした。その後、10年に東京・表参道、15年に京都・祇園と、次々と好立地に店舗を展開している。

PASS THE BATON 京都祇園店

 京都祇園店は、京都市が管理する伝統的建造物群保存地区という町屋の建物群で行われた事業者募集のコンペで選出され、開店に至った。築120年の町屋をどのように展開するか、というコンペの内容が、“すでにあるものを大切にし、新たな価値を創造する”というパスザバトンのコンセプトとマッチしている。喫茶「お茶と酒 たすき」も併設されており、京都の人気スポットとしても注目を集めている。

喫茶「お茶と酒 たすき」

ひと手間かけるものづくり


 オンラインストアでも商品を展開しているが、商品の物撮りをして、デザインをみせたり使用感を見せる部分で、一つの商品に対して10~15枚の写真を添えて販売しているため、手間やコストはかかる。一点ものが多いので、一つ一つの商品に対して商品管理などの手間がかかってしまうが、だからこそ、独自性が出ているのではないか。

 コストをかけて金額を上げることや、値段を下げて販売する方法もあるが、パスザバトンのモノづくりは、ひと手間かけてアイデアとデザインを加えることで、より価値のある商品作りをする、という考え方がベースとなっている。パスザバトンでは、創業当初から「プロパー越え」というキーワードを大切にしているという。B品になってしまったものでも、ひと手間加えることで、本来の商品より欲しくなるほど魅力のあるものを作りたいという思いだ。
 パスザバトンは、この秋で10周年を迎え、新たに卸の販売をスタートする。店舗のみで販売していたオリジナル商品やリメイク商品を、様々な場所へ展開し、今後も新しいリサイクルの取り組みを広めていく。

  
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
思い入れのある大事なものも、時が経ち、しっくりこなくなることはあります。うまく使いこなすことができずに、寂しい気持ちで眺めているより、手放すことになっても、誰かが自分と同じように価値を感じて使ってくれたら嬉しいですね。大切に使われているものは、輝いてみえます。

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