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快走マツダに3つの懸念

究極の技術の実現、社風、そしてトヨタとの関係・・
快走マツダに3つの懸念

5月のトヨタとの提携会見では友好ムードが漂った両社長

 日本車離れしたスタイリッシュなデザイン、ディーゼルエンジンの復権を果たした独自技術など、マツダのクルマ作りが高い評価を集めている。5月には提携強化でトヨタ自動車と基本合意し、将来に向けた生き残りの布石も打った。快走マツダに死角はないのか。懸念材料を検証する。

 懸念材料の1つ目は「次世代エンジンの成否」。
 「環境規制がどんどん厳しくなる中で、間に合うように今、開発を進めています」―。6月23日、広島のマツダ本社で開かれた定時株主総会。開発中の次世代エンジンの手応えについて聞かれ、エンジン開発担当の人見光夫常務執行役員はこう述べた。

 燃費を3割改善できることをうたうこの次世代ガソリンエンジン。中核となる技術が、「究極の燃焼」と呼ばれる燃焼方式、「HCCI(予混合圧縮自動着火)」だ。ごく薄いガソリンの混合気を、ディーゼルエンジンのように自己着火させて燃やし、燃費性能と環境性能を飛躍的に高められるという。

 理想的な燃焼とされる一方で、技術的なハードルも高い。1台のエンジンの中で通常の燃焼と瞬時に切り替える必要があるほか、安定的に燃える領域が狭いなど課題が多く、どの自動車メーカーでもいまだに実用化できていない。

 果たしてマツダはこの高いハードルを越えられるのか。これが第1の懸念材料だ。もしも実現できれば、自動車業界にもたらすインパクトはかつてのロータリーエンジンよりも大きいものになる。

 第2の懸念材料として挙げられるのが、「職人気質」と言われるその社風。みずからに厳しく、理想とするものづくりを追い求めるのが職人。一方で時として頑固で、周囲の声に耳を貸さず、独善的になってしまう。これがマツダの社風によく似ているのだという。

 「今のマツダ車がうまくいっているのは、たまたまニーズと合ったから、そう考えて慢心しない方がいい。マツダは伝統的に開発部門が強く、マーケティング部門が弱い。人の話を聞かず、自分たちが作りたいように車を作る傾向がある」。ある有力ディーラーの幹部はこう打ち明ける。

 それが露呈したのが車載情報システム「マツダコネクト」。カーナビゲーションの出来に悪評が広まったが、メーカーで標準装着して出荷されたため、ユーザーにはほかのナビを選ぶ余地がなかった。新世代技術群「スカイアクティブ・テクノロジー」で名をあげた現行のマツダ車にとっては、評価を下げる大きな要因になってしまった。

 その後、マツダは無償でソフトウエアを改良するなど誠実な対応を取って、不具合は解消されつつある。だが、マーケットの声に謙虚に耳を傾ける姿勢が欠けていたとの批判は避けられないだろう。

 そして最後が、トヨタとの関係をどう生かすか。
 5月に発表したトヨタ自動車との提携拡大。具体的にどういう点で提携を進めるか、現在詰めている。今のところは、広島の地場サプライヤーやアナリストなどからも好感を持って迎えられている。

 資本関係に踏み込まず、緩やかな連合を組む両社。これまでの自動車メーカー同士の提携関係は、当のマツダと米フォードとの実例を含めて軒並みうまくいっていない。今回はより中長期的に、お互いにできるところから関係をつくっていこうという姿勢のようで、経験から学んだ智恵を感じる。

 だがそうした緩やかな関係は、組織を動かす上での力不足にもつながる。何の効果も生まないリスクと紙一重だ。そしてトヨタよりはマツダの方が、この提携の意味は重い。

 自動車メーカーにとって、環境技術や安全技術、情報技術など、生き残りを左右する要素はますます多くなり、重みを増している。年間百数十万台、世界シェア2%前後のマツダの規模で、どう競争力を保っていくかという課題はつねにつきまとってきた。トヨタとの緩やかな陣営の中で果実を得つつ独自性を出すのは、そう簡単なことではないだろう。
(文=清水信彦)
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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
絶好調マツダについて興味のある人が多い。担当の清水記者が今後も旬なニュースを届けます。

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