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スズキがVWと提携解消。気になる再婚相手

「判決の話が来たばかりで次のことは考える余裕がない」(鈴木修会長)
スズキがVWと提携解消。気になる再婚相手

会見する鈴木修会長(右から2人目)

 スズキは30日、独フォルクスワーゲン(VW)との資本提携関係の解消を巡り係争中だった国際仲裁裁判所の判断を受け、VWが保有する19・9%の全株式を買い戻すと発表した。約4年に及ぶ裁判が決着し、スズキの経営の独立性は守られた。鈴木修会長は同日都内で開いた会見で「仲裁の最大の目的を達成できた。満足している」と述べた。

 スズキが株を買い戻すことでVWによる支配の懸念は去った。鈴木会長は会見で「判決の話が来たばかりで次のことは考える余裕がない」とした。環境技術開発など自動車業界の競争が厳しくなる中で、他社との提携など次の一手をどう打つか。鈴木俊宏社長を筆頭とする新体制にとって今回の判定は終わりではなく始まりだ。

「トヨタに秋波?」百戦錬磨“会長・鈴木修”が仕掛ける最後の大勝負


日刊工業新聞2015年7月2日付


 スズキを圧倒的なリーダーシップで引っ張ってきた鈴木修氏がついに、バトンを長男の俊宏氏に渡した。6月30日付で修氏が会長兼最高経営責任者(CEO)に、俊宏氏が社長兼最高執行責任者(COO)に就任した。インドにいち早く進出した先見性、格上の相手と対等に渡り合う交渉力、「軽自動車増税は弱い者いじめ」など率直かつ親しみやすい発言―。緩急自在の経営手腕を40年近くにわたり振るった修氏だが、唯一最大の悩みが後継者問題だった。

 「待つ限界を超えた」(鈴木会長)。鈴木会長は独フォルクスワーゲン(VW)との提携解消問題を決着させてから俊宏氏にバトンをつなげたかったとされる。ただ、係争は2011年11月の国際仲裁裁判所への申し立てから3年半に及び、経営にも影響を及ぼしている。

 鈴木会長は、08年に米ゼネラルモーターズ(GM)との資本提携を解消した後、09年12月に「次の道筋をつけるまでが私の仕事」と、VWとの包括提携をまとめた。しかし提携からわずか2年たらずで両社の関係は決裂した。

 仲裁裁判の結果は、スズキの経営の根幹を左右する。VWの提携時のスズキの株価は約2000円。ところが、最近は4000円以上に高騰している。仮にスズキが勝訴して株を買い戻せても約4000億円以上が必要。ペナルティーが上乗せされる可能性もある。

 株を買い戻せなければ事態はさらに深刻だ。VWが19・9%を保有し続ければ、他社との提携交渉に支障をきたし、TOB(株式公開買い付け)の危機にもさらされる。

 スズキは19年度に売上高3兆7000億円(14年度3兆155億円)、4輪車の世界販売340万台(同287万台)を目指す中期経営計画を掲げた。設備投資は5年間で累計1兆円を計画する。鈴木社長は「(裁判で)どんな結果が出てもやり切る」と強調するが、仲裁結果が計画の進展に少なからず影響が及ぶのは必至だ。

 用意周到な鈴木会長は15年3月期のキャッシュ残高を9323億円と、ここ3年で2000億円以上積み上げた。6月に決めたハンガリー子会社の減資も、本社に資金を引き上げる狙いと見られる。また15年に入り「スズキがトヨタ自動車に秋波を送っている」との話が出るなど、多方面に手を打っている。

 鈴木会長は会見で「(VW問題は)責任をもって処理する」と強い意欲をみせた。その言葉にはこの問題が新体制に与える影響を最小限に食い止めるという強い決意がにじむ。VWとの交渉を担当した原山保人氏も今回、副会長・会長補佐に就任し、両氏で対応する。VW問題の決着、そして次の道筋を付けるのがカリスマ経営者の最後の大仕事。その時が、“真のバトンタッチ”となる。
 (文=浜松編集委員・田中弥生)
日刊工業新聞2015年08月31日 1面記事から一部抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
「大トヨタ」とうまく連携していく、軽自動車などで関係を築いてきた日産、かつて資本提携していたGMと寄りを戻す・・。そう多くの選択肢はない。

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